ブラックブラッドバレット

連(むらじ)

第1話 ホーム

梅雨の水滴が降りしきる。異常気象の影響か今日で2週間以上降り続けている。俺はけだるい気持ちを抑えながら、安っぽい透明のビニール傘を差しながら、安楽群駅への道を歩いていた。白い開襟シャツと黒の学生ズボンにスニーカー。時刻はすでに9時47分。高校の始業時間はとうに過ぎていた。今日の言い訳を考える。もう何度も梅雨時期の突発の頭痛で、起き上がれなかったという言い訳をしている。実際は起きる気がなく、また間に合うように起こしてくれる人間もいないからだが、いわゆる体調不良による保健室登校というやつをさせていただくつもりだ。

16歳でこんなにも無気力な俺は大人にはなれないだろう。このままだらだらと歳を重ねて、まともな労働者になれるのだろうか。しかし何かを始める気にもなれない俺はゆったりとした足取りで進んでいた。雨は降り続けていて、俺の履いている星のマークのスニーカーの靴底を濡らしていた。安楽群駅の駅前には駅前の再開発で出来上がった大型の書店BOOKBIRDがある。本を口ばしに咥えた青い鳥のキャラクターのロゴが目印だ。安楽群の文化の象徴と新開店の日には市長がテープカットにやってきていたな俺は傘を閉じてBOOKBIRDの手動のガラスドアを開いた。夏の怪奇特集というコーナーが用意されており、小説が何冊も飾られている。真っ黒い穴の表紙の真ん中に「暗黒」と書かれた小説が目を引いたが、小説など読めない俺は、書店を突っ切り、奥の階段を上って、駅の改札へ向かう。ケータイ電話にチャージした通学用のポイントで改札タッチで支払いホームへ向かう。

ホームは人もまばらで、俺は電車を待ちながら、左手に傘を持ち、左半身に体重をかけ、まっすぐに視線を伸ばした。ホームの線路を挟んだ向こう側には駅前の広場が望める。20名くらいの高齢の男女の集団が赤や黄色の旗を掲げて集まっている。給与を上げろ。政府を許すな。子供を守れ。などの看板が見えた。全く気にしていなかったが、みな口々に何かを叫んでいる。雨の中、すごい情熱だな。俺は素直に感動した。俺にはとてもまね出来ない。何気なく俺は、右の掌をその集団に合わせてみた。20名は俺の掌だ。などとくだらないことを考えていた。瞬間、電車が飛びこんでくる。扉が開いた。俺は電車へ乗り込みぼんやりとしながら無意識につり革をつかんだ。この日から俺の日々は激変することとなった。


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