零式戦記
まくつ
プロローグ 零式艦上戦闘機
高度一万メートル。雲を越えた風と光だけの世界。
三機の戦闘機は大空を切り裂く。
◇ ◆ ◇
始まりは一年前、激動の二十一世紀も終わりを感じさせる残暑の頃。
地球人口が百億の大台にさしかかるかと思われた時だった。
災厄は突然、空から降って来た。
敵性侵略地球外生命体。人類史において初となる宇宙人との接触である。
二〇九八年九月九日、それらは中東の紛争地帯に堕ちて来た。
それらは、もやのようなものだった。
それらは、人間に出会った。
それらは、争いに出会った。
それらは、見たものの真似をした。
それらは、それに化けた。
それらは、壊した。
それらは、『フェイク』と呼ばれた。
それらは、あまりにも突然のことだった。中東諸国は突如現れた数百の戦闘機に蹂躙された。
しかしそれらは、二十一世紀人類にとってはさしたる脅威ではないように思われた。
二十一世紀の戦闘機はアウトレンジからミサイルを撃ち込む兵器だった。情報を制する者が空を制する時代。
ただ戦闘機を真似るだけのそれらが人類に勝てる道理はなかった。
しかし、それらを前にユーラシアが焦土と化すのには三日とかからなかった。
それらは、ある特性を持っていた。
それらは、二十一世紀の技術を無力化した。
それらは、電気を拒絶した。
あらゆる電子機器はそれらに近づくと機能を停止した。
最新鋭の
ミサイル、
それらの前に、人類はただ滅亡を待つだけに思われた。
だがある日風向きは変わった。
『パリ砲 宇宙人を撃破』
パリ砲。十九世紀の第一次世界大戦時、ドイツ帝国軍がフランスの首都パリを攻撃するために建造した超弩級砲だ。射程は実に百三十キロメートル。
米中を中心とした第二次冷戦の際、『
世界最高レベルのスーパーコンピュータ『オーディン』の演算に基づいた砲撃の射程距離は二千キロメートル。着弾の誤差は三百メートル以内。
ミサイルのような発射してからの軌道修正は不可能ながらも全てを置き去りにする圧倒的な弾速。放たれるのは超弩級ではあるがただの砲弾であるためミサイルのようにジャミングすることは不可能。
特殊弾頭を用いれば秒速五キロメートルでのステルス攻撃が可能、という化け物。二十一世紀の技術の集大成は各国に対する抑止力として機能した。
『開戦派殺し』と言われたほどだった。
そんなパリ砲が挙げた大戦果に世界は沸いた。
『電子機器を使わなければ、攻撃は通用する』
これが人類の編み出した唯一の対抗手段だった。
そうして超弩級超長距離砲と同時に開発が進められたのが第二次エネルギー革命に伴う水素動力の普及で二十一世紀中盤には形骸となった内燃機関。
化石燃料を燃やして働く、電子制御を必要としない、旧世紀の遺物。
開発は難航した。エンジンそのものはある程度の形にはなったものの、最新鋭の戦闘機に見合うスペックとはならなかった。
そんな時、ある案が出た。
『戦闘機自体も、過去の技術を使えばいい』
博物館から引っ張り出されてきた過去の戦闘機の研究が始まった。
結果的には二十世紀、第二次世界大戦の時代に活躍したとある戦闘機に落ち着くこととなった。
『零式艦上戦闘機』
通称『零戦』。二十世紀の列強国『大日本帝国』海軍が誇る主力艦上戦闘機である。
米国海軍に悪魔とも称された伝説の戦闘機。破格の航続距離、巡航速度、運動性能は世界を驚愕させた。
そんな『零戦』が再び、空の覇者となる時が来たのだった。
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