第2話 幼少期の思い出。

 私が小さかったころ、近所には空き地が多くありました。

 青い猫型ロボットのアニメに出てくるような、土管の置いてある空き地もあったようです。


 あったようです、というのは、記憶にはないけれど、写真に残っていたからで。

 駅徒歩五分程度の商店街でしたが、まだそんな空き地が多かったんですね。

 今は見る影もないほど、お店や住宅が軒を連ねていますが。

 小さな雑木林なんかもあって、どんぐりを拾いに行くことも多々ありました。


 私の家は、商店街の一角にある食堂でした。

 くの字型の小さな通りに、十四、五件の食堂や小料理屋、スナックなどが並んでいる場所。

 同じ年ごろの子どもも何人かいて、いつも一緒に遊んでいました。


 ある日のこと。

 幼稚園のときだったと思います。

 うちの裏手の通りにある理容室に同じ歳の友だち、Iちゃんという子がいました。

 そのIちゃんと、雑木林にどんぐり拾いへ行く約束をしました。

 Iちゃんは、もう一人、知らない子を連れてきていて、三人で遊ぶことに。


 見たことのない子だったので、商店街の子ではありません。

 雑木林の入り口で、Iちゃんはこう言いました。


「私がここで、おままごとの準備をしているから、秋摩ちゃんと〇〇ちゃんでどんぐり拾ってきて?」


 最初からどんぐり拾いをするつもりだったので、私はその知らない子と一緒に、雑木林に入っていきました。

 探しても探しても、なかなかどんぐりは見つかりません。

 今思うと、時期が違ったんでしょう。


 どんどん雑木林の奥へと進む中、不意に顔にクモの巣が。

 気持ち悪いな、と思いながらクモの糸を払っていると、首もとに変な感じがします。

 自分の肩辺りをみると、黄色と黒の縞模様の、大きな女郎蜘蛛がいるじゃあありませんか!


 ええ、ビックリです。

 そりゃあもう、ビックリです。

 かなりの恐怖です。

 視覚的には、タランチュラくらいの大きさに思えました。


 あのときの恐怖は、今でも思い出せるほどです。


 そして――。

 そのとき、私はなにを思ったのか……。


 その蜘蛛を掴むと、後ろを振り返りました。

 Iちゃんの連れてきた知らない子の手を取り、その蜘蛛を握らせたのです(;^_^A


 なんという所業。

 なんだってそんな真似をしたのか、私自身にもわかりません。


「なあに? どんぐり?」


 その子は私に聞いてきましたが、私は言葉も発せず、脱兎のごとく、雑木林を入り口に向かって駆けだしました。

 走っているあいだに、背後で「キャー――!」と凄い悲鳴が聞こえた気がしましたが、そんなことに構ってはいられません。

 とにかく、ひたすら逃げました。


 雑木林の入り口では、Iちゃんが呑気におままごとの仕度を続けています。

 駆け戻ってきた私に気づき「どんぐり見つかった?」と聞いてきました。

 私は首をフルフルと横に振っただけ。


 直後、知らない子も駆け戻ってきて、半泣きで「ビックリした」とか「どんぐりだと思ったのに」とかいうので、私は必死で「ごめんね」と謝りました。


 そこから先は、記憶にありません。

 そのまま遊んだのか、遊ぶのをやめて家に帰ったのか……?

 ただ、それ以来、その子と遊ぶことはなく、会った記憶もありません。


 まぁ……彼女にして見れば、いきなり私から鬼畜な所業の洗礼を受けたのですから、二度と遊びたくないと思ったことでしょう。

 単純に、生活拠点が違ったから、会わなかったということもありますが……。


 この一件以来、私は蜘蛛が苦手になりました。

 蜘蛛の巣に引っかかろうものなら、ム〇カ大佐のごとく、糸を振り払います。


 本当に嫌です、蜘蛛……。

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