【BL】君が泣いてくれるなら
@F_Y
第1話 ドミナントの恋人
恋人が出て行ってから半年。ようやく忘れられそうだったのに。
「鍵を失くしたみたい」
帰宅すると、玄関前に人影があり、ドキッとする。真冬なのに、随分と薄着だ。
日本語を話すが、髪や瞳の色は淡く、日本人離れした体型をしている。
出会ってすぐ告白され、付き合うと同時に同棲を始めた。
しかし、それからひと月が経った頃、少し出掛けて来る、と言ったきり、戻らなかった。
「番号入れるタイプに付け替えようよ」
「何言って…」
相手を許せるなら、半年間の空白は、案外あっさり埋まるのかも知れない。
ドアの前に立つと、顔の真横で、ドンっと大きな音がした。
覆いかぶさるように背後に立たれ、逃げ場を失う。
「僕も怒ってるよ」
耳元で囁かれ、首筋を鼻で吸われて、全身が鳥肌立つ。
アシルも怒ってる?
「悠聖はなかなか、やることが大胆だね」
「何の話?」
「女、連れ込んで、何したのかな?」
⁂
「ほら、力を抜いて」
「うぅ」
「これが入るまで、今日は終わらないよ」
自分の性的嗜好については、付き合う前に、きちんと伝えてある。
悠聖はそれを承諾して、交際を開始したはずだが。
「腕、嫌だ。外して」
こんな要求をするくらいに、Domの恋人を持っている、という自覚はないようだ。
拘束具を外すと、悠聖は飛び上がるように起き、部屋を出て行こうした。
「今、そこ出たら、別れるよ」
ドアの前で、ピタリと動きが止まる。
そもそも別れるつもりなんてなかったのに、勘違いをしたのは、悠聖だ。
日本を発った翌日には、あらゆる連絡手段が不通になり、海の向こうで憤死しかけた。
「おいで」
優しく声をかけて、ベッドの脇に立て掛けておいた棒を手に取る。
「それって」
「ケインって言うんだよ」
何をする道具であるかは、さすがの悠聖でも想像がついたようだ。
「ケインの後で、さっきの続きね」
⁂
「悠聖。起きて。授業終わったよ」
昨夜はよく眠れず、授業中に爆睡してしまった。
莉子は、大学の専攻が同じで、いつしか親しくなった。
先日は一線を超えてしまい、それが何故だか、アシルにバレている。
「サークル行かないなら、どこか遊びに行こうよ」
「課題やらないと」
アシルがまた居なくなったら、と思うと、寄り道も気が進まない。
急ぎ、帰ると、ドアに見慣れない器具が取り付けられていた。暗証番号式の鍵、のようだ。
賃貸なのに、こんなの勝手に取り付けて。それに、肝心の番号を知らされていない。
試しに自分の誕生日を入れてみると、恐ろしいことに、一発で開いた。
アシルはおらず、慌てる。
どこ行った?
だが、アシルの服が、ハンガーに戻されているのを見て、一安心する。
アシルが去った後、アシルの持ち物はゴミ袋に入れて、クローゼットに押し込んだ。
急に帰国すると言い出し、あの時は、捨てられるのだと、思った。
部屋中を見回すと、色々な物が、半年前の状態に戻されていることに気づく。
アシルはまた、ここで暮らすつもりなのかも知れない。
その夜。
お風呂上がりに、アシルの脚の上に伏せるような格好にさせられ、スウェットのズボンを下ろされた。
「痛い?」
訊かれて、首を振る。
アシルの指でなぞられると、痛みが薄くなるような気がする。
「また、するの?」
「痕が消えたら、かな」
どれくらいか分からないが、しばらくの間、お尻が守られることに、ホッとする。
「よいしょ、と」
「この格好、恥ずい」
「可愛いお尻が丸見えだね。ちょっとチェックさせてね」
下半身の毛は全部剃られてしまって、もはや隠すものがない。
戻って来たアシルは、以前と別人とは言わないまでも、何かが変わった。
女と寝たから、もう遠慮はしない、とでもいうのか、することが容赦ない。
したいことリストなるものが頭の中にあって、それを片っ端から実行している、そんな感じだ。
ふんわりとしたキスが、あちこちに降って来る。振り返ると、アシルと目が合った。
何?
と思った瞬間、お尻の穴にキスをされた。
「汚い」
「汚くなんてないよ」
「…気持ち悪い」
ふぅと大きく息を吐いて、アシルは行為をやめた。ゆっくりと立ち上がる。
アシルは身長が高くて、立つと部屋が暗く、そして狭く感じる。
首も長くて、動物に例えるなら、キリンだ。
⁂
ケインは、悠聖用に、知り合いに頼んで作ってもらった。
打たれた時の痛みは強いのに、痕が消えるのは早いという、悠聖泣かせの優れものだ。
大学生の悠聖の毎日は、比較的単調だ。放課後はバスケ、夜は時折バイト、そして、寝るまで大抵ゲームをして過ごす。
末っ子気質の甘えたがりで、少し抜けているところがあり、3人の姉たちが、しょっちゅう電話口で、悠聖を叱りつけているのを聞く。
優しかったという母親は、悠聖が高校生の時に、病気で亡くなった。
どうにかして、ゲームから悠聖を引き剥がし、ベッドの上に連れて行く。
「自分で脱ぐ」
ズボンに手を掛けると、悠聖はそう言って、パンツごと、自分で脱いだ。
「後ろ向いて」
言われて、悠聖は膝を折り、上体を倒して、尻を突き出す。
まるで、さっさと終わらせろとでも、言わんばかりだ。
いつまでも恥じらうようなタイプでないことは分かっていたが、ムードも何もない。
小さな蕾にローションを垂らし、周囲をマッサージしながら、中に塗り込む。
「悠聖、これ見て」
「見ない」
視界に入れさせて、反応を楽しみたいが、抵抗されると、腕力では勝てないから諦める。
悠聖は、体は細いが、バスケで鍛えているから、思いほか力が強いのだ。
前回より一回り大きな拡張用プラグを、窄まりにねじり込んで行く。
すると、悠聖は、すぐ根を上げた。
「痛い…アシル…いたい」
「力が入ってるから」
前のめりになる体を、悠聖の前をぎゅっと握り込んで、押し戻す。
「いっ…」
「悠聖が協力してくれないと、入るものも入らない」
「口でやる」
「口は苦手でしょ」
頑張って咥えてはくれるが、下手くそで、口とて特訓が必要なのだ。
「こっちの練習するって、約束したよね?約束破るの?」
「…したけど」
「なら、言うことを聞いて」
「聞いてる」
顎に手をかけて、無理やり上を向かせると、悠聖は涙目になっている。
「嫌ならやめるよ」
悠聖を泣かせるつもりはない。そこまでやってしまうと、先が続かなくなる。
「やめるの?」
「…やめない」
悠聖はそう言って、目を伏せる。
きつい後孔に、プラグをどうにか押し込み、パンツとズボンを、再び履かせる。
「ゲームに戻っていいよ」
そう告げられても、悠聖はしばらくその場で動けずにいた。
〈つづく〉
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