第2話 THE鈍感
クラスに吉田彩香という白雪姫とされる猛烈な美少女が居る。
この少女の事だが俺が99回告白した女子である。
99回っていうのは色々な場面で告白したのだ。
つまりちょっとした書類の整理の最中とか。
今思えば顔に火が点きそうなぐらいのレベルである。
そんな吉田彩香とは遠ざかる事にした。
何故なら俺が居たら迷惑を掛けてしまう。
だからもう居ない方が良いと判断した。
彩香とは必要以上に話をしない。
そう考えながら俺は授業を受けていた。
そして休み時間。
俺はいつもの通り、飲み物を売店に買いに行く為に教室を出た。
それから歩いていると「待って」と声がした。
背後を見ると...彩香が居た。
ん?
「彩香。どうしたんだ」
「...いつもの売店でしょ。一緒に行っても良い?」
「いやまあそうだけど...」
「何?不服なの?私に99回も告白した癖に」
「馬鹿か。不服な訳無いだろ。お前可愛いのに」
「...そう」
それから俺は何故か彩香と一緒に飲み物を買いに行く事になった。
売店には山のように生徒が押し掛けている。
その中で俺はお気に入りの甘い缶コーヒーを買ってから音を立てて開いた。
そして飲み始める。
するとジッと何故か彩香が俺を見ているのに気が付いた。
「...どうした?」
「いや。美味しそうに飲むねって」
「そりゃ人生は楽しまないとな」
「そこまで大掛かりには言ってない」
「だけど俺は人生を楽しみたいからな。だからこうして飲んでいる」
「そう」
そんな感じで話をしていると彩香はお茶を開けた。
それからこくこくと静かに飲み始める。
俺はその姿を見ながら「なあ」と聞いてみる。
彩香は「何」と聞く。
「...俺なんぞと一緒に居て楽しいか?教室に戻ったらどうなんだ」
「は?それは嫌って事?私が一緒なのが」
「別にそんな事は御座いませんが?...だけど一緒に居るのもつらいだろ」
「...そんな訳ないでしょ」
「え?何つった。聞こえない」
「乙女に聞き返すな」
「あ、はい」
「全く」と言いながら俺を睨む彩香。
俺はその鬼神の様な顔を見ながら苦笑いを浮かべる。
それから校舎の隅で空を見上げる。
そうしていると「ねえ」と声がまたした。
「...ああ。どうした」
「...アンタ聞いたけど。...確か...虐待があったらしいわね」
「まあな。親父にネグレクトって感じかな」
「...お母さんは?」
「行方不明になってしまった」
「そうなんだね」と俺を心配げに見る彩香。
まるでお婆ちゃんが孫を見守る様な眼差しである。
俺はその顔を見ながら「大丈夫だ」と言う。
それから缶コーヒーを飲んで晴れ渡る空を見る。
「...俺はもう慣れた」
「だけど...」
「慣れちゃ駄目って言いたいのか。大丈夫だ。...俺は死なないしな。それでも」
「...」
「...彩香。お前はお前なりに彼氏でも作って青春を謳歌しろよ」
「はぁ...」
「...はぁ?」
「鈍感ね。結構話にならないけどまあ...そうね。分かったわ」
なんじゃそりゃ。
思いながら俺は苦笑いを浮かべる。
それから俺は缶コーヒーの缶をリサイクルボックスに入れてから「戻るぞ」と言う。
そして歩き出す。
すると数歩を歩いたところで「ねえ」とまた声がした。
「何だってんだ」
「...99回も私にその。告白して楽しい?」
「...楽しく無かった。すまない。お前にとっては苦痛だったな」
「い、いや。そんな事は無いけど」
「入学当初からの一目惚れから始まったこれ。...全く恥じるべき過去だ」
「...そんな事は無いけど...」
いやもう間違いなく全てが恥じるべき過去だ。
俺は目が覚めたのだ。
だから俺は首を振りながら「だからもう告白しないから」と笑みを浮かべる。
すると俯いてから「そう」と悲しげに呟いた彩香。
俺は「???」を浮かべながら時計を見る。
「教室戻るか」と言った。
「...うん。そうだね」
「...俺の事。ゴメンな。鬱陶しくて。卒業したら嫌な顔も見ずに別れ別れになるし。我慢してくれ」
「...」
何故かその言葉に彩香は唇を噛みしめた。
涙を浮かべた。
それから「...ばかっ」と涙声で呟く。
そして立ち去って行ってしまった。
へ...?
俺何かした?
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