第5話 貪るように、獣のように交わる

 嶺慈は自分たちの部屋でくつろいでいた。仕事帰りに二十四時間営業の中古ショップでゲームソフトを購入したのだ。ずっとやりたかったタイトルで、ゲーム機の本体は円禍が貸してくれることになっていた。

 しっかりとした作業チェア(値段なんと三九万円!)に腰掛け、嶺慈はゲーム・ステーション5というゲーム機を起動する。


「円禍って、こういうのに金かけるタイプなんだな」

「まあね。人間滅ぼしたらなくなっちゃうかもだから、今のうちに楽しんでおかないと」

「こざっぱりしてんだな」


 嶺慈はディスクを挿入した。「ドラゴンズ・スカイⅡ」というハイファンタジーのゲームである。

 オンライン接続に関する免責事項を読んで、同意のボタンを押す。どのみち同意せねば遊べないのだから、選択を求める時点で何か間違っている気がするが、深く考えずタイトル画面を進んでスタートボタンを押した。


 その様子を奴隷グールにした陰陽師、神崎凛かみさきりんを全裸に剥いて、体を舐めさせていた円禍が二段ベッドの上から眺めていた。

 凛は円禍の秘部をぴちゃぴちゃと舐め、股に挟まれて奉仕している。

 姉を殺した連中の幹部に尽くすというのはどんな気分なのだろうか。グールになった時点で、そんな感情とは切り離されるのだろうか。

 嶺慈には知りようもない感情だ。自分は隷属したわけではない。魅力的と自ら思った判断に、自らの意思で乗っかっただけだ。人肉と知った上でそれを喰ったし、そして全て理解して、人の味を美味いと認識した。

 自分がどこかで根本的に異なる怪物になった、その自覚を持っている。


 ゲーム画面では壮大なオープニングが終わり、キャラクタークリエイト画面に入っていた。

 小一時間、嶺慈はキャラの作成に集中していた。ベッドの上で犬扱いの凛を撫で回していた円禍が、


「可愛い女の子を作る執念はさすが男の子って感じ」

「これから何十時間と付き合うんだ。おっさんのケツをずっと追っかけた挙句新装備の都度着替えさせてたら気が狂う。ツラのいい女の方がテンション上がるだろ」

「まあ、気持ちは分からなくもないけど。足、舐めて。指の間まで綺麗に」

「はい、お姉様……♡」


 円禍はそう言って凛に、今度は足を舐めさせ始めた。

 嶺慈はゲームに意識を向け、コントローラーをカチカチ操作する。

 アヤカシは往々にしてショートスリーパーだ。一時間も眠ればフルコンディションで丸一日活動できてしまう。嶺慈は自分の短時間睡眠をストレスからくるものだと決めつけていたが、どうやらそうではないらしい。

 ややあって円禍が凛を責め始めた。ゲーム音に混じって、凛の甘い媚びた声が響き始める。

 不思議と嶺慈はそちらは気にならなかった。円禍がそう言うことをするということはなんとなく想像がついていたからだ。吸血鬼という存在が、その伝承の上で多淫であることは知られている。円禍がそれに当てはまったところで、決して物珍しいことではないのだ。


 凛はすっかり骨抜きにされていた。実の姉のことなんて忘れ去ったかのように、仄暗く赤い目で円禍を甘ったるく見つめて「お姉ぇ様ぁ……」と鳴いている。

 円禍はそんな彼女の乳房をむき出しにし、先端のくすんだ色の肉粒をコリコリこすりながら耳殻をしゃぶり、微笑んだ。


「何人かと遊んだことあるのね」

「はい……今までに五人……大学の、サークルで……」

「男なんかじゃ味わえない快楽を叩き込んであげる」


 ゲーム画面ではキャラクターが剣を振ってゴブリンを倒していた。

 嶺慈は後ろの様子が全く気にならないと言えば嘘になるが、弟のそれよりは健全に思えていた。冷静に考えてその子の姉を殺し、その子自身に捕食させて奴隷にしているという、何をとっても健全ではないのだが、まあ

 と、ドアをノックする音がした。

 円禍は特に姿を隠したり誤魔化したりするでもなく「入って」と声をかけた。


「やっほー、新入りくんに差し入れー……ってうわ、さっすが円禍、盛ってるわね」


 入ってきたのは青い肌にセミショートのウルフカットの青髪の女。空色の明るいインナーカラーを入れていて、瞳は金色で白目は黒い。

 やけにエロティックな魅惑の黒のブラジャーに、ガーターベルトの下着。靴ではなくスリッパを履いており、背中の翼を畳んでいる。頭部には、捻れた角が一対。

 少しでもサブカルチャーに触れている者なら、サキュバスと即答する存在であることは明らかだった。


「私は慈闇じあん影渡慈闇かげわたりじあん。嶺慈が可愛い男の子って聞いて会いに来ちゃった♡」


 慈闇はそう言って嶺慈の隣に寄り添った。


「漆方・円禍の処刑者をやってるんだけどさ、同時に性処理も担当。でもね、だーれも私の性処理はしてくれないの。どう思う?」


 豊満な乳房を包むブラジャーを外し、生の乳を嶺慈の顔に押し当て始めた。

 ムチムチしたそれが、微かに汗ばんで酸っぱい匂いがするそれが顔を押し包む。

 嶺慈はゲームを中断して、慈闇に向き直った。


「興奮するから、やめろ」

「こっちはコーフンさせてんのよ嶺慈。円禍相手じゃ中折れしたんだって?」

「中折れはしてない。挿れてないんだから」


 円禍は再び凛にあそこを舐め始めさせた。まるで誘うように大きな声で喘ぎ声を上げ始める。


「私なら気持ちよく筆おろしさせてあげられるよ。男として自信つくし、そうなれば途中で辞めちゃうこともなくなるからさ。ねー、雑魚童貞クン♡」

「このっ……」


 嶺慈は慈闇に抱きついて、押し倒した。挑むように余裕な顔で口を開け、長太い青い舌をぼってりと出している口を覆い、その舌を吸い出して蹂躙する。

 髪の毛を両手でかきむしるようにくしゃくしゃとかき回しながら、それに飽きたら胸を揉む。乳首を指で潰し、その中に突っ込んで、ぐりぐりとほじるように刺激する。


「お゛っ……♡」


 慈闇の腰が跳ねた。電流を流されたカエルのように腰が浮き上がり、金色の瞳が脳の裏にひっくり返りそうになる。

 サキュバスは相手を徹底的に喜ばせるため、多少オーバーな反応をするのだが、嶺慈はこの時まだ知らない。特に童貞を筆おろしするときは、自信をつけさせるために脳のリミッターを外し、イカれたくらい感じやすくなる。

 やりすぎたか? と思ったが、構わず続けた。

 しばらく本能的なキスを味わった後で、嶺慈はそそりたった逸物を慈闇に無理やり咥えさせる。太さ四センチ、長さ一九センチの一般的には大きいとされるサイズに、慈闇もうっとりと目を輝かせる。


「やばー♡ 円禍コレを独り占めする気? だめじゃん……ちゃんと共有しないと」

「うるさい。それは嶺慈が決めることだから。その子もゆくゆくは処刑者に、望むなら八部衆に推すつもりよ」

「へー、すっごい入れ込んでるのね。でもこんなに……世界に絶望して、孤独を伴侶としているような子なんて滅多にいないか。……ねえ、あんたが八部衆になったら、私を処刑者にしてよ」

「慈闇も、円禍も……その処刑者とやらにしてやるよ」

「ふふ……言質とっちゃった♡ 完全にアヤカシになったらヤバ精力になるんじゃない? 嶺慈、私のこと携帯オナホとして使っ——むぐっ」


 嶺慈は慈闇の口に突っ込んだ。溶けるくらいに熱い口の中で、舌がグニュグニュ絡みつく。やがて慈闇は竿を吸い出し、長い舌を巻きつけ蛇がそうするように締め上げてくる。

 嗜虐的な考えが嶺慈を支配した。ぐぐ、と陰茎を押し込んで、喉壺を抉るように押し込む。慈闇が目を見開き、苦しみに涙を浮かべた。手足をジタバタさせ、テーブルの上のカゴをひっくり返す。


「サキュバスなんだろ。ちゃんと吸ってくれよ。生前の苛立ちが、恨みが溜まっておかしくなりそうなんだ」

「おっ……ごぉ……♡」


 円禍は嶺慈の隠れていた獣性とも言うべき獰猛さにうっとりした。あれこそ求めていたオスアヤカシの姿だ。まさしくメスアヤカシの伴侶に相応しい態度。気に入ったメスを、力づくにでも蹂躙しようとする姿は「強いオス」の典型だ。

 あれで実力が伴えば、円禍もなんら文句はない。いや、円禍だけではない。全てのメスアヤカシは大喜びで彼を受け入れるだろう。

 嶺慈は69の体位で慈闇の喉を蹂躙した。その間に彼は慈闇の女陰を舐め、準備を整える。

 精を吐き出す前に口から引き抜いた嶺慈は、正常位で慈闇に挿入する。


「はぁぁああっ♡」

「あっという間に絶頂しやがって、肉便器悪魔が」

「だってぇ♡」


 盛りのついた狐のように嶺慈は唸り声をあげ、慈闇を全力でメスにしようと腰を振る。

 そのあまりに激しく烈火の如く溢れ出る性の欲望は、まさしく獣というべきものだった。昂った円禍はベッドから飛び降り、二人の間に入って嶺慈の口と慈闇の口を交互に貪った。凛も降りてきて、やはり円禍の秘部をむしゃぶる。

 人間的とは思えない、まさしく人外の性交。四人が入り乱れ、交わり、互いの肉体と魂貪り合うような激しい交尾。

 限界を迎え絶頂した慈闇がヒクヒク痙攣し、そんな彼女の命の座に、嶺慈はたっぷりの子種を注いだ。丸一日溜め込んだ、十七歳の生殖適齢期真っ只中のサキュバスにとって最高の栄養素に満たされた慈闇は、その圧倒的な栄養——妖力に、ゾクゾクと頬を撫でた。

 嶺慈ははぁはぁと荒い呼吸を繰り返し、円禍の顔を掴んだ。


「円禍、いいか?」

「あら、休憩なしで二回戦? いいわよ、シてあげる」


 その場で横になり股を開いた円禍に、嶺慈は思い切り覆い被さった。子種に塗れたそれをぬぽっと抜いて、すぐに熱くたぎった女陰に挿入する。


「お尻失礼しま〜す♡」


 すっかり回復した慈闇が嶺慈の尻を舐め始めた。凛が円禍の耳をしゃぶり、そうして四人は夜が明けるまで本能的な性交渉を続けるのだった。

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