人を愛せない最強冒険者 アキハナ・アカネ 世界の旅

rina103

第一章 ええやんええやん♪ 異世界ストレスフリー

第1話 アキハナ・アカネという男

「7番プラットフォーム、ボラーノ行転送5分前です!ご利用のお客様はお急ぎくださーい!」


 ガランガランとハンドベルを振りながら、駅員が構内に声を響き渡らせる。


 直径15メートルほどの11基のプラットフォームが円形に並ぶ、中規模の転送駅【ケインズ中央駅】その中央のコンコースに、フードを目深にかぶった人物が駆け込んでくる。


「はー、間に合った…」


 フードの人物が駅員に駆け寄り、息を切らせながら、パーソナルデバイスでチケットを提示する。


「はい、間もなく転送開始します。お急ぎください」


 駅員の端末でチェックを受けると、足早にタラップを上がりプラットフォーム上の転送陣に踏み入る。


 そのタイミングで構内にブザーが鳴り響き、転送陣が光り出す。


《7番プラットフォーム、転送を開始します。黄色い線の内側までお下がりください。》


 スピーカーからアナウンスが2回流れると、転送陣の外周円から光の粒子が上へ向かって流れだし、天井にある対の転送陣の外周円に到達すると光の筒が出来上がる。光の密度が徐々に増し、転送陣内部が見えなくなってくる。


「その転送待ってー!」


 と、大声を出しながらコンコースに走り込んでくる人物がいた。帝都警備騎士が付ける濃紺の樹脂製軽鎧を付けて走ってきたからか汗だくだ。茶に近い赤髪をポニーテールに結んだ、緑褐色の瞳のその顔は、軽鎧がまるで似合わない美少女だった。


「転送を止めて!早く!」


 汗も拭わず、転送中のプラットフォームに近づこうとする軽鎧の少女を駅員が止める。


「お客さん!転送中は危険です!下がってください!!」

「でも! あぁっ!!」


 駅員に止められた少女の視線が転送陣内の人物に気付き捉える。


 最後に転送陣に入ったフードの人物が外の騒ぎに気付き、少女の方を向くと(ヤベッ)と口が動いた。


「駅員さん!お願い!アイツを引きずり降ろして!!」

「ちょ、無茶言わないでください!」


 少女は、止める駅員の肩越しに転送陣内のフードの人物を指さした。


 中の様子が分からなくなるくらい転送陣は光を強め、ブーンという低周波音を出すと、唐突に光の筒が消えた。転送陣に人の姿はなく、周囲にオゾン臭が立ち込める。


「ーーーーーっ!逃げられたぁ!!!  駅員さん!今の転送はどこへ行ったの!」

「ボラーノ行きです…」

「次は? 次の転送は!!」


 凄い圧で駅員に詰め寄る少女。


「ボラーノ行きはしばらく出ません」

「なんで!!」

「なんでと言われましても、ボラーノはロームルスにありますので、星間転送は“星辰”“龍脈”などの影響を受けやすく、条件が揃うのにも時間がかかります」

「だから次はいつなの!」

「ここからの転送ですと、20日以上先になります」

「そんなに…時間かかるの?」

「ええ。ご予約されますか?」


 膝に手をつきがっくりと項垂れる少女。


「…まずいわ…ここまで追い詰めたのに…他にボラーノへ行く方法はないの…」


 疲れが滲む声でつぶやく。


「あのぉ、お客様は騎士様ですよね?」


「ええ…」


 膝から手を放し姿勢を正す。


「でしたら、南半球からロームルスへ転送されてはいかがでしょう」


 端末を操作しながら、駅員は少女のつぶやきに提案で答え始める。


「どういうこと?」

「南半球からですと見掛け上の“星辰”が変わりますので、ボラーノへ直接行くことはできませんが、ロームルスへ渡ることはできるかもしれません。騎士様でしたら南半球への越境手続きも不要かと」

「どのくらいで行けるの?」

「転送をうまく乗り継いで“ダザン司教国”へ向い、そこからロームルスへの直近の星間転送を探せば…」


 駅員が端末で乗り換え検索を始める。


「えーと、18時20分発ですから…だいたい3時間後ですね、当駅の2番プラットフォームから“ノヴォ―ト”行の転送があります。“ノヴォ―ト”駅から陸路で“第五赤道ゲート”へ向い、ゲートを抜けて一番近い町“セキニシ”の“ウナメンダバ”駅から“ダザン司教国”の“コザ”へ転送。転送に遅れが出なければ“コザ”から“ロームルス”の“エルド”への転送に間に合いそうです」


 駅員の話を頭に?マークを出しながら聞いていた少女だったが、『間に合いそう』という言葉に反応して、さっきまでの渋い顔から打って変わり、ものすごい期待に満ちた顔で駅員に詰め寄る。


「え? 今から行けるの? すぐ行ける?」

「わっ い、行けますけど、駅での待ち時間もありますので…」

「ありますので?」

「検索では17日後の午前中着と出てます…」

「~~っあんま変わんないじゃん!」

「まぁ そうですね… やはり予約します?」

「はぁ~…」


 ペタンと座り込んでしまう少女。


「…あとは…」


 天井に目線を移しながら駅員が呟く。


「! 何か早く行く方法があるの?」


 駅員の言葉に反応して、立膝でにじり寄る。


「いえ、転送を使わずにという…」

「ん?」

「今営業している航路があるかわかりませんが、航宙船を使う…」

「そっか! 船があったよ!」

「転送システムが細かく網羅するようになってからは、どんどん航路が閉鎖されているようですから…」


 少女はスッと立ち上がると、腰に手を当て颯爽とパーソナルデバイスを取りだし話始める。


「スドウ、アメノムラクモに係留していた船だけど…ええ、それ…すぐに使える?…3時間後ね? 分かったわ、頼むわね」


 通話を切ると、パーソナルデバイスを額に着け「フッフッフッ」と口角を上げて悪い笑い方をする。


「もう絶対逃がさない…アカネ・アキハナ! このアビゲイル・フレーダーセンがフレーダーセン家の総力を持って必ず捕まえてやる! マリッジライセンスはもう私の手にあるんだから! アーハッハッハッハッ」


 情緒不安定気味の少女、アビゲイルの高笑いが、ケインズ中央駅のコンコースに響き渡り、つぎの転送のため集まった乗客の好奇の目にさらされるのだった。



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「あっぶねぇ、一瞬、毛穴もチャクラも開いたぜ…」


 転送が終了し、プラットフォームから降りるように促すアナウンスが流れ、フードの人物が下りてくる。


「ふぅ…もういいか…」


 フードをめくり顔を出す。髪はバサバサのショートボブでアッシュブロンド、ちょっと日に焼けた肌に琥珀色の瞳、整った顔立ちと全体的に線の細い印象は女性に見紛う姿。


『転送前、アビゲイル・フレーダーセンがいましたね、アカネ』


 頭に直接伝わると云うか、言葉の意味が概念として伝わると云うか、声ではなく話しかけられた。


『もうちょっと転送が遅かったらヤバかったよ』


 幅広ベルト左腰の専用ループに差した緩やかな曲線を描く漆黒の鞘、それに続く銀の鍔、縁から目釘周辺がやや太めになっている漆黒の柄、アカネはその刀の柄に軽く手を掛け視線を向け、同様に声を使わず話始める。


『アカネがハッキリしないから追い掛け回されるんです』

『んー なんかアイツ苦手なんだよ。すごくめんどくさい』

『いつまでも先送りにしないで、ちゃんと意志を伝えれば良いのでは?』

『まぁそうなんだろうけど、このままなにもかもムニャムニャッと終わってくれればなぁって』

『あきれた…私はこのままアカネの左腰にぶら下がっていてよいのでしょうか…』

『そう言うなよ、オムニス。俺はお前と楽しく旅ができればそれでいいの』


 柔らかく微笑みながら、アカネは柄に掛けていた左手で柄頭にやさしく触れる。


『…刀たらしですね、アカネは…』

『フフフ』


 アカネの左腰にもう一本差している、短めの真紅の鞘、黒銀の鍔、真紅の柄の刀から【抗議】のような意志が伝わってくる。


『…………!』

『いやいや、ルフスも一緒だから。もー お前を置いてく訳ないでしょ』


 真紅の柄にやさしく触れる


『夜は刃の手入れしてあげるね』

『………////』

『…刀たらし…』

『なんだよぉ、かわいいだろルフス』

『………////♡』


ドン


 正面から擦れ違いざま肩にぶつかってきたガラの悪そうな、明らかに堅気ではない様子の男三人組。

 

 会話しながらゆっくり歩いていたとはいえ、通路の端を歩いていたアカネにぶつかってきたのは難癖目的。駅構内で迷っているお上りさんに見えたのだろう、三人組の下卑た笑いが物語っていた。


「あ、すいません」


 わざとぶつかってきたのは分かっていたが、めんどくさいのでスルーを決め込もうとしたアカネ。その場を離れようとするが、タトゥーの入った筋肉質の腕に肩をつかまれる。


「ちょっと待てよ! ぶつかっといてそれだけか姉ちゃん。あっちで俺たちとお話し「今なんつった…」ようか…ん?」

『だめですよアカネ』


 身長170㎝程のアカネを、アカネより大きな男たちが取り囲む。


 その中で俯いているアカネは怯えている様に見えるが、右手がゆっくり漆黒の柄に伸びていった。


「今なんて言ったか、もう一回言ってみろ!」

『アカネ!』

「…と思ったけど、やっぱいいや。お前ら臭いからさっさと失せろ」

「オイオイ、随分とイキった姉ちゃんだなぁ とにかくあっち行こうか」

「俺は女じゃねえんだよ!」


 正面のタトゥー男との距離は50㎝もない。後ろの二人も1mと離れていない。


 アカネの左手が漆黒の鯉口に添えられた瞬間、微かな金属音がした。


 漆黒の鞘に収まっている刀の柄から右手を離すと、囲んでいた男たちが無言で崩れ落ちる。三人が三人とも、首を垂らして脱力した正座のような格好になった。


「あ………な…ん……」


 タトゥー男は驚愕の表情でアカネを見ようとするが、体が動かず荒く息を吐くことしかできない。


『よく我慢できましたねアカネ。偉いですよ』

「これだから地方の大都市は嫌い…」『汚いものに触れさせてごめん、オムニス』


 蔑みの目で男たちに一瞥くれると、アカネは歩き出した。


 歩き去った背後がざわつき始める。


『オムニスも刃の手入れしてあげるね』


 アカネは足を速めた。




つづく

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