眠らない狂犬は私のそばでだけ眠ってくれる
雨車 風璃-うるま かざり-
第1話 林に騎士
「あなた気持ち悪いのよ。シャーロット! もう二度と私の前に現れないでちょうだい!」
小さい頃。お母さんを亡くした私は、新しくやって来た義母の命令で離れへと軟禁された。
私に、直接触れた相手を眠らせる異能が有ったから。
まだ7つだった私は義母がすごく怖かった。
だから、信じてたお父さんが助けてくれなかった時は悲しくて、すごく辛かった。
それから12年。
私は今も義母が決めた場所より先に出た事が無い。
監視の目があるし、逃げた所で行く宛てもないから。
だから小さな離れと、それを囲む林だけが私の生きてる世界。
時々おしゃべりな使用人が食材を届けるついでに外のお話を聞かせてくれるけど、寂しいのには変わらない。
義妹もたまにやって来るけど、それは私に嫌がらせをするため。
離れには沢山本があって、使用人も本を持ってきてくれるけど、どの本ももう覚えるくらい読んじゃった。
きっとこれから先、ずっと私は寂しい場所で生きていくんだと思ってた。
知らない人に出会ったり、友達を作ったり、恋をしたりなんて、無いんだって。
ううん、誰かと一緒にご飯を食べたり、一緒に眠ったり、そんな当たり前も私には無いんだって思ってた。
――――――――――
今夜は月も無くて、風の音すらしない。
寂しくて眠りたい気分になれなかったからランプを持って林の中を散歩してたの。
そうしたら、男の人が血を流して倒れた。
「あの……えっと、大丈夫ですか……?」
「う゛……ぁ……」
すごく痛そうなのに、私の声が聞こえたら男の人は起き上がろうとする。
男の人の着てる服は本で見た事のある騎士の服。
着崩されてて、血とか土とかで汚れてるけど、この国の騎士で間違いないと思う。
「動かないでください、今治療しますから!」
騎士さんが大怪我をしてるって事は、近くで何か事件があったのかな。
って、怖がってるのも束の間。
男の人は無理やり立ち上がって、ふらふらした後にバタンって倒れた。
体に力が入ってないみたい。
「無理しないで……危ないですよ」
「うる、さい……」
よく見たらこの人、顔色がすごく悪い。
ランプの光を吸収してるんじゃないかなってくらい、隈で目の周りが真っ黒だ。
寝不足……とか、そんなレベルじゃないくらい酷い顔。
その上大怪我をしてるのに何回も立ち上がろうとするから、本当に危ない。
「う、動かないで」
「う゛……クソッ」
「ほんとに危ないですよ」
「あ゛っ」
騎士の人は倒れて頭をぶつけた。
嫌な音がしたけど、気にしてないみたいに起き上がろうとしたから、思わず私はこの人の手を握った。
すぐに男の人は瞼が重くなって、意識を失う。
今のうちに救急セットを取りに行こう。
この離れ、私しか使ってないから、何か起きても自分でなんとかするしかないでしょう? だから使用人に頼んで緊急セットを貰ったの。
まぁ、あんまり使う機会は無いのだけど。
「貰っておいて良かったぁ」
本で見た手順に合わせて傷を手当していく。
騎士の服は作りが複雑で、脱がすのにちょっと手間取っちゃった。
傷を治せる異能を持った人も居るらしいけど、知ってる人の中には居ない。
私の世界が狭いのもあるけど、そもそもあんまり居ないんだって。
「それにしても、本当に傷だらけ……大丈夫かな……」
栄養のある物とか、食べさせてあげた方が良いのかな。
でも、食材を貰える日が明日だから、今離れに食べ物が何も無い。
来るって分かってたら残しておいたかもしれないのだけど……。
男の人が起きる気配は無い。
異能で眠らせたから当然なのだけど。
さすがに室内まで運んであげるのは無理だから、せめて風邪をひかないようにしてあげないと。
手当てが終わったから、急いで部屋に戻って毛布を取りに行く。
古い毛布だけど、許してほしいな。
毛布をかけてあげると、男の人は少しモゾモゾしてから毛布にくるまった。
この林はあんまり危ないモンスターが出るとか、危険な人が居るとか聞いた事が無いから大丈夫だと思うけど……念の為見張っておいてあげよう。
私は昼間に寝れば良いもんね。
ランプを木に吊り下げて男の人の隣に座った。
男の人は、地面に届きそうなくらい長い黒髪を1つの三つ編みにしてる。
それから、多分目は赤かったと思う。
私も目が赤いからお揃いみたい。ちなみに私の髪の色は緑。……関係ないか。
それにしても、今夜は本当に静か。
退屈になっちゃう……。
本でも持ってくれば良かったかな。
でも読みたい本はもう無いしなぁ。
――――――――――
朝日の眩しさと、肌寒さで目が覚めた。
いつの間にか寝ちゃってたみたい。
私は毛布を被ってる。
あの人に被せてあげた毛布だ。
周りを見渡したけど、男の人の姿は無い。
「もうどこか行っちゃったの……?」
ゆっくりしていけば良いのに……。
騎士だから、できないのかな?
話ができなかくて寂しい。
騎士なんて、きっとこの先一生会うことが無いと思う。
だから話しておきたかったなぁ。
大きく伸びをして、固まっちゃった体をほぐす。
毛布を畳みながら立ち上がった時、足元に何かが落ちてきた。
「お守り……?」
古いアミュレットだ。
毛布に絡まってたみたい。
私のじゃないから、昨日の騎士の物だと思う。
「どうしよう……」
届けてあげたいけど、林から出たら怒られちゃうし、見張りが居るから出られない。
困ったな。
取りに来てくれるかな……。来てくれたら、いいな。
アミュレットを握って、私は離れに戻った。
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