電気とミント
京野 薫
前編
生まれて初めて女性用の浴衣を着て感じたことは「女子ってこんなにスースーしてて平気なんだ」と言うことだった。
スマホで調べてみたら本来は下着も履かないらしいけど、流石にそれは恥ずかしすぎて嫌だ。
せめてブリーフだけは履いてたい。
僕は誰に対してのものか分からない言い訳を心の中で考えながら、帯を締めた。
すでに化粧は終えてかんざしも着けているため、鏡の中は自分で言うのも何だけど……うん、可愛い女の子がいる。
そこには僕「
元々華奢な体型で、顔も小さいし女顔なのが幸いした。
ずっと一人でコソコソとメイクも練習してきたので、いい感じ。
しかもこの一世一代のイベントのために、バイトしたお金でメイク道具も買い直したんだ。
僕は改めて鏡に向かって、笑顔で横ピースをしてみた。
……うん、可愛い。
僕が5歳の頃からの幼なじみの「
春の日に引っ越してきた一樹は近所だったこともあり、すぐに仲良くなった。
そして、小学校5年の時。
「女っぽい」と言う理由でいじめられていた僕を見つけた一樹が、いじめていた連中3人に殴りかかった。
全身傷だらけになりながらいじめっ子達を追い払った一樹に泣きながら謝ると、一樹は「なんでお前が謝るの? お前は悪くないじゃん」と軽い感じで言った。
「僕が男っぽくないから馬鹿にするんだ……」
と、言うと一樹はニッと笑って言った。
「それって可愛いって事だろ? それすげえ良いじゃん!」
と呆れるくらいにアッサリと言った。
その途端、身体に電気が走った。
一樹は覚えていないだろう。
でも、僕は多分一生覚えている。
映画のワンシーンのように。
それが僕の初恋だった。
それ以来、一樹の姿を見るだけでワクワクした。
まして一緒に下校できた時なんかは、葉っぱの緑まで深く鮮やかに見えるくらい。
話が弾んだ時なんて、夏や秋、冬や春の空気の匂いまで感じるほどだった。
でも、逆に一樹が女子と楽しそうに話してたり、一緒に下校しているのを見たときは胸を誰かに押さえられてるの? ってくらいに苦しかった。
そして、中学2年生の夏。
一樹が11月に、父親の仕事の都合で県外に引っ越す事を知った。
そんな時に、一樹に告白する女子を見た。
その二重のショックで涙が止まらなくて、それを心配した一樹に八つ当たりした。
言った後は死ぬかと思った。
一樹は何も言わずに家に帰った。
これが失恋……
次の日学校を休んだ僕に一樹からラインが来た。
一緒に港の花火見に行かないか? と。
僕はまた身体に電気が走った。
これが最後のチャンス。
最高の自分。
一番大好きな自分を見せたい。
このままお別れは絶対嫌だ。
そして僕は女の子になって夏祭りに行くことにした。
心から大好きで大切な人と。
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