第88話 Better tomorrow(8)

ちょっと生い茂った林のような所を抜けると、おそらくテニスコートが5面はとれるのではないか、というほどのスペースがあってその奥に大きな家が2件並んでいた。



「え、ひょっとして。もう家??」



樺沢は香織を見た。



「そう。 なんか門とかないのよね。 こっちが叔父さんたちの家でこっちがウチ。 ま、今はほとんど父は叔父さんトコにいるみたいだから。 こっちは離れみたいなものよ。 それでこんにゃくいもを作ってる畑がこの向こうで・・そんで、こんにゃくを作ってる工場もあるから、その裏手。」



香織はあっさりとそう説明したが



そうとうな広さの所有面積だと思われた。




「こんにゃく? こんにゃくってはたけなの?」



暖人は不思議そうに言った。



「そうだよ。 サトイモの大きいのみたいなイモからできてるんだよ。 あとで工場も見せてあげる。 おもしろいよ、」




香織は手を繋いだ暖人を見た。




香織の父は叔父宅にいるというので、そちらの方に向った。




「あらあらいらっしゃい。 電話をくれたら迎えにいったのに、」



叔母が出迎えてくれた。



「だいじょうぶよ。 このくらい。 ごぶさたしちゃって・・・・」



「徳弘さん、お待ちかねだよ。 さあさ、上がって。」



樺沢は



「・・はじめまして樺沢です。 息子の暖人です。 押しかけまして申し訳ございません、」



と丁寧に挨拶をした。



「こちらこそ。 私は香織ちゃんのお父さんの兄嫁です。 樺沢さんのことは義弟から聞いております。 どうぞ、おあがりになって。」



叔母はにこやかに二人を迎えてくれた。



ものすごく広い廊下だけで暖人はもう驚いてしまってキョロキョロした。



そして通されたさらに広大な居間に



家族が揃っていた。




「ああ、おかえり、」



香織の父は目が彼女に似ていた。



「ただいま。 おじさんもごぶさたしています。」



香織は座って丁寧にお辞儀をした。



「家に帰って来るのに他人行儀だな。 さあさ、座れ座れ、」



叔父もごきげんだった。



「樺沢さんと息子さんの暖人くんです。」



香織は後ろに控える二人を紹介した。



樺沢は少し緊張して、



「・・樺沢です。 息子の暖人です、」



なんだか呆然としている暖人の頭に手をやり無理やりお辞儀をさせた。



「かばさわ・・はるとです。 ・・しょうがっこう1ねんせいです、」



暖人はお辞儀をペコンとしたあと、しっかりとそう言った。



きっと樺沢がそう言うようにと練習させたんだろう、と香織は想像して少し笑いそうになってしまった。



「小学校1年生かあ。 うちの孫の詠太は2年生で、妹のまひるは幼稚園の年中だ。 詠太、暖人くんと庭で遊んできなさい。」



そこにちょこんと座っていた叔父の孫たちは黙って頷いた。



「かぶとむしは・・いますか、」



暖人は小さい声で聞いた。



「ああ、いるいる。 もう、昼間でも捕まえられるくらいいるよ。 詠太がよく知っているから一緒に行っておいで。」



叔母は優しく言った。



「いこ、」



詠太は暖人に言った。



「・・うん、」



ちょっとはずかしそうに暖人は頷いた。



「聡くんと美由紀ちゃんも元気?」



詠太たちの両親で香織のいとこ夫婦だった。



「ああ。 今は二人で工場の方やってるから。 今日も休みなくやってる、」



「そう。 忙しいんだ。 でもいいことだね、」


樺沢はなんとなく所在なさげにまだ香織の後ろに控えていた。



「こっち、座って下さい。 遠慮はしなくていいですから、」



香織の父に促されて



「・・失礼します、」



と座布団に上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る