第60話 Sympathy(20)

「え? お遊戯会?」



樺沢の母はプリントを暖人から渡された。



「うん。 どようびだって。 おばあちゃん、これる? おとうさんはどうかなあ・・」



心配そうに言う暖人に



「そうだね。 うん、おじいちゃんにきいてみるから。」



と安心させるように言ったが



母はそれをジッと見て、何かを考え込んだ。




「え? お遊戯会?」



実家に暖人を迎えに来た樺沢に母は言った。



「今度の土曜なんだって。 あんた行ける?」



「わ~~~~。 今度の土曜は・・おれ、ダメだ。 どうしても外せない外出があって。 オフクロ、行ける?」



「・・ねえ、」



母は暖人がテレビに夢中なのを確認してから小声で



「『あの人』に来てもらったら、」



と息子に言った。



「え?」



「だから・・あんたの彼女よ、」



思いがけない提案だった。



樺沢は突然そんなことを言い出した母の真意が図れなかった。



「いや・・でも・・」



彼女の気持ちを思うとウンとは言えなかった。



「別に。 あたしたちに遠慮することないから。 なんだったらあたしは遠慮するからその人に行ってもらいなさい。」



「・・どうしたの、急に。」



あまり自分が女性とつきあうことを良く思っていなかったことは知っていた。



「この前。 ウチにいた暖人があの人に会いたいって仁に送ってもらったでしょ。」



「え? ああ・・うん。」



「なんかね。 暖人が信頼しているんだなあって。 もちろんその人の存在をあの子は説明できないと思うけど。  あたしたちも何とかあの子に寂しい思いをさせたくないって気持ちはあるけど、実際店やりながらそこまでするのも難しくて、暖人に我慢をさせてしまっていると思う。」



たった一人の孫のことを



心から心配する母の気持ちが伝わる。



「別に。 そんな意識なんかすることないじゃない。 暖人と一緒に遊んでくれるお父さんの会社の同僚の人って気持ちで。 あたしたちに何も言わなくていいから。 頼んでごらんなさい、」



プリントを樺沢に手渡した。



「・・ありがとう、」



母の気持ちが嬉しい。




「え・・お母さんが、」



香織はその話に驚いた。



「ただ。 ハルと遊んでくれるお姉さんとして。 もし用がなかったら行ってやってくれないか、」



樺沢は真剣なまなざしでそう言った。



「カバちゃん、」



「オフクロも。 香織には感謝している。 ただ・・やっぱりまだ複雑な気持ちなんだと思う。 それでも香織の気持ちはわかってくれているから。 きっとハルも喜ぶ、」



力を込めた。

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