第42話 Sympathy(2)

「夜になったらまた熱が上がったみたいね。 38℃だった。」



香織は暖人を寝かしつけて、戸を閉めた。



「・・やっぱり明日はおれがもう一日休むから。」



樺沢はそう言ったが



「もう志藤さんに休ませて貰うように言ってきたから。 大丈夫よ。」



香織はなんでもないようにそう言った。





「・・ごめん、」



樺沢は顔を上げられなかった。



「あやまんなくっていいって。 子供が病気するのはしょうがないじゃない、」



「そうじゃなくて。 おれ・・何とか実家の家族や香織に迷惑かけないでやってこうって思うけど。 結局世話になってんだよな。 情けないっていうか、」



「もちろん女が一人で子供を育てるのも大変だけど。 男が一人で育てるのも・・誰かの助けがないと。 ムリよ。」



香織は彼の目の前に座った。




「そうやって・・香織を自分の都合で利用してるんじゃないか、とか。」



「え? あたしのこと利用してるの?」



冗談ぽく言って来る彼女に



「おれは。 真剣にそう思ってんだよ。」



樺沢は逆ギレぽく少し怒って言った。



「子供はね。 神様からの授かりモンって言うじゃない。 どこの子だって世間みんなで育てるもんだよ。 ましてやカバちゃんの子なら。 あたしはできる限りのことをしてあげたいって思うよ。 」



「香織、」



「よくさあ、スーパー行くと。 なんか買ってくれ~~ってダダこねて泣いてる子いるじゃない? 前はさあ、なんか腹立たしくてね。 だけど・・この頃はそういう光景に出くわすと『ああ、ハルはあんなことを言って困らせないし、ほんっといい子でよかったな、』なんて思っちゃうの。 お母さんと別れてつらい思いをしてきて。 きっといろんなこと我慢してると思うよ。 少しでもそれをわかってあげられたらって思う、」




彼女のこの懐の深さは、ずっと



『男前』だ



と思っていた。



しかし



暖人の世話をかいがいしく焼いてくれる彼女は



本当に



『母性』に溢れた人だ。




樺沢はそうやって母のような愛情を抱きながらも



自分を叱咤してくれる彼女の存在が



本当にかけがえのないものだと思い始めていた。




志藤は北都に今度の定期公演の概要を報告に行った。



「いいんじゃないか。 ここんとこチケットの売り上げも増えてきているようだな、」



そのファイルを彼に返した。



「・・なんとか。 頑張ります、」



そう言ってからふと気になった。

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