第26話 Summer breeze(6)

「え~~~、かおりん、だいじょぶなのお?」



南は純粋に心配した。



「だいじょぶもなにも。 育てるのはカバちゃんだし。」



いつものようにクールに資料を整理しながらなんでもないことのように言った。



「でも。 子供がいると・・なかなか難しいかもしれへんで、」




南の言いたいことはわかる。




暖人が現れたことによって



自分と樺沢の関係はたぶん一変するだろうと思っていた。




正直。



なんだかもういつもどっちかの家をいったりきたりしていて。



半同棲状態に陥っていたし。



会えば抱き合うばっかりで。




甘甘な恋人同士というよりは



お互いの身体を慰めあうって感じになっちゃってて



情けない気もしていた。




しかし。



これからは樺沢は暖人の父親として



まず一番に生活していかなくてはならない。





「ほんと。 いい子なの。 健気でねー。 なんだろ、この頃はカバちゃんよりも暖人くんに何でもしてあげたいって思ったりもする、」



香織は笑った。




自分でも不思議な気持ちだった。




母に見捨てられたこの子にこれ以上寂しい思いをさせたくない



と、なぜか思い始めて。



たまに仕事帰りに彼らのマンションに寄るけれど、夕飯の仕度をしてやって、



暖人と一緒に絵を描いたり、折紙をしたりして遊んでやるくらいで




あとは普通に帰る。



そんな感じになってしまった。



この日もいつものように暖人を風呂に入れて、就寝させた樺沢は



晩酌のビールを飲みながら



「・・ねえ。 泊まっていったら、」



帰り支度をし始めた香織に言った。



「え、」



振り返ろうとするといきなり抱きしめられた。



暖人と生活するようになって



そういうことはずっとなかった。




キスも



本当に久しぶりで。




香織はそっと彼から離れて



「・・泊まれないよ、」



小さな声でそう言った。



「・・何で?  ハルのこと、気にしてる?」



「こうしてたまに来て、カバちゃんと暖人くんにご飯作ってあげるくらいなら。 彼にとって『お父さんの会社の人』って存在でいられる。 でも・・泊まっちゃったりしたら。 あたし、あの子になんて言っていいかわかんないよ。」



ふっと微笑んだ。



「・・香織、」



樺沢は彼女を抱く手に力を込めた。

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