第9話 Began at the time(9)

「は・・」



樺沢は絵に描いたようなひきつりようで



「はははは・・。」




声だけで笑った。



香織はそばをすすりながら



「ちょっと失礼なリアクションじゃないの? ソレ、」



不満そうに言った。



「や! そんなこと! いや・・身に余る・・光栄です、」



「おまえ動揺丸出しやないか。 ほんっまにもう・・」



志藤と南は軽~~く笑い飛ばした。



「あ、ねえねえ! そういえば! この前真太郎が言ってたんだけどさあ・・」



南はすぐに話をそらしてしまった。




「ほんっと早速すみませんねえ。 図々しくお邪魔して。」



「と言いつつ。 ほんまによう食うな、」



「いいええ。 主人からようやく社長の秘書の方が正式に決まったって聞いて。 あたしも心からホッとしました。 しかも同期の方だって聞いて。 すっごくお会いしたかったです。」



樺沢は早速志藤家に招かれた。



「しっかし。 よく似てるな~。 おまえに。」



樺沢は目の前でイチゴを頬張るひなたを見て感心して言った。



「そやろ~? おれが産んだわけやないのに。 こんなに似るなんてDNAの神秘やろ? しかもカワイイし!」



もう志藤は3つになるひなたを溺愛していて、ことあるごとにみんなに自慢していた。



「おじちゃんにもあげる~。 ハイ。」



人見知りをしないひなたは樺沢にイチゴを1個差し出した。



「おー、いい子だな~。 ありがと。」



ふと。



2年前に別れた息子を思い出した。



親権は別れた妻に渡し、もう他人なのだからと会うことさえ許されなかった。



妻は北九州の実家に息子を連れて帰って行った。



「もう大きくなってんだろーなァ・・」



頬づえをついて思わずつぶやいた。



「え? 息子?」



志藤はすぐさまそう聞いた。



「5歳かなあ。 別れた時は3つだったから、おれのことも覚えてないかもしれない・・」



父親なのに子供から顔を忘れられるなんて



悲しい以外何物でもない。



「ま。 別れたカミさんも。 ハルトがハタチになったら本人に会うかどうか決めさせるって言うけど、」



「ハルトくんって言うんですか、」



ゆうこもしんみりした。



「そう。 暖って字に人。 暖人。 おれにそっくりってみんな言ってた。 でも、とにかく忙しくて家に帰れなかったから、一緒にいるころだってそんなに面倒みたことなくて。 ほとんどカミさんが世話してたから。 仕事が忙しかったこともあるけど、夜のつきあいも・・おれもやめなかったから。 愛想つかされたんだろーなー。」



「まあ。 親でも男であり女であるわけだから。  いろいろあるよな。 まあ、元気出せや、」



志藤は樺沢のグラスにビールを注いだ。




「ま、とにかく。 当分結婚とか恋愛とかはいいかなって。 めんどくさくなった、」



酒が進んだが、樺沢は今日も強かった。



「めんどくさいって。 おまえ男の33いうたらな。 全盛期やん。 枯れてどないすんねん。 ほんっとおれだってまだまだ・・」



志藤はけっこう酔ってしまい口を滑らせたが



「まだまだ・・何かしたりないことでも?」



ゆうこがさっさと彼のグラスを片付け始めた。



「し、したりないこと・・なんかあるわけないやん。」



思いっきり挙動不審になってしまった。



「この人はできればずうううっと独身で遊んでいたかったんです。 ま、子供ができちゃったし、しょうがないって流れで結婚しちゃったんですもんね~~。」



ゆうこはイヤミたっぷりに樺沢に言った。



「だからっ! 勝手に想像を事実のように言うなっ! だれもしょうがないとか言ってへんやん!!」



志藤は必死にいいわけをした。



「ま。 あたしに会社を辞めさせて。 堂々と若い子を誘えますからねえ。 ほんっと・・樺沢さん、きちっと見張っててくださいね、」


最後は


怖いほどマジだった・・


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