第2話 Began at the time(2)

この日は4月1日。



人事異動で、何となく社内があわただしい。



志藤が秘書課の真太郎と打ち合わせ中、大きな音を立ててドアがバーンと開いた。



「す、すみません!! あ~~! もうお昼回っちゃってるし! や~~~、さっきようやく羽田について・・」



いきなりの大声。



みんな固まってその声の主の



背が高く



ガタイのいい男に釘づけになった。



「別に遅刻とかじゃなくてですね! ゆうべからトラブルが解決できなくって・・」



いったい誰に言い訳をしているのか。



この男はなぜ一人でしゃべっているのか・・



と思っていた時、志藤はハッとした。




「・・カバ?????」



おそるおそるその男に近づいた。



「へ????」



「・・カバやんかあ。え、めっちゃ久しぶりやんか!」



志藤はその男の腕をポンと叩いた。



「・・志藤、」



カバと呼ばれたその男。



カバに似ているわけではないのだが



真太郎や他の社員たちは何となく固唾を飲んで見守った。



「志藤?? わー!! 懐かしい! 何年ぶり??? おまえ東京に来てたの??」



「もう4年くらいや。 今こっちでクラシック事業本部の本部長やねん、」



「本部長? なに偉くなってんだよお。 そうかあ、おまえここにいたのかあ。」



「おまえこそ。 なんやねん、」



すると真太郎がおそるおそる彼らに近づく。



「福岡支部の・・樺沢さんですね、」



その『カバ』に声を掛けた。




「あ、し、真太郎さん。 ごぶさたしています!」



もういちいちオーバーに何度もお辞儀をした。



「今日付けで社長秘書に異動になった樺沢さんです。」



真太郎は改めて志藤に言った。




「あ?? おまえが・・社長秘書?」



志藤は思わず指をさしてしまった。



「ようやく都に帰ってこれたぞ! いや~~~、長かった!」



がっしりとしたその腕で志藤の両肩をぐっと掴んだ。





「そうですか、志藤さんの同期だったんですね。 樺沢さんは、」



真太郎は笑顔で言った。



「おれは大阪採用でこいつは東京採用だったんですけど。 2か月ほど研修でおれも東京に来ていましたからね。 そのあと・・たしかカバはそのまま東京の芸能部にいて、少しして福岡に転勤になったんやな、」



「そうそう。 ま、支社長秘書って肩書きは非常に嬉しかったんですけど、とにかく福岡なんか初めてだったんで。最初は慣れるのに大変でした。 すっかり酒が強くなっちゃって、もう、」



人のよさそうな笑顔で言った。



「いや~~、嬉しかったなー。 やっと東京に戻れる!って!」



正直すぎる意見を思いっきり言い放った。

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