ぼく。私。自分。一人称。

空っぽの無能

第1話

仕事に行くまでの道のり。側溝を眺めていて憂鬱になる。銀色の網蓋はグレーチングというらしい。初めて知った。小銭やイヤホンや元が何だったかもわからない生ゴミのような黒いものが流れている。


仕事に行くまでの朝、ルーティンがあるなら順序よく支度を済ませて溌剌と仕事に向かうのかもしれないが、生憎と変則的な勤務で睡眠時間がまばらになってしまったのでリズムはカオスだ。そうでなくともルーティンは無いな。


眠気を噛み殺して、俯いて、仕事に向かうバスを待つ。早くやめたいなぁって思いとやめたところで…っていう現実がある。地元の田舎から出てきて親のすねかじって大学にも入った。ちょっと本を読んで興味を持った大学に何を目指すでもなく夢遊病みたいに入った。夢に誘われてって言ったら神秘的にも聞こえるが、思慮深さとかからは全く縁遠いものだ。


中学生の頃から人付き合いは苦手だった。でも妙に癖のある女性からは好意を示されることが多かったから恋愛相手には事欠かなかった。特段相手が好きなこともなかったけど、何度も上辺だけの愛を口にした。相手は喜んでくれたけど恋愛が幸せってのは分からなかった。他人と身体を交わして得る快楽はあったけどそこに心は必要なかったし、欲求だけを解消するなら一人でもできた。


結局のところ生きていることに大した意味はない。生きることを楽しめるなら大いに楽しんだ方がいい。さもなくば憂鬱に日々を送るだけだ。憂鬱に、憂鬱に。

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ぼく。私。自分。一人称。 空っぽの無能 @honedachi

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