~評価を吝嗇(けち)った女~

天川裕司

~評価を吝嗇(けち)った女~

~評価を吝嗇(けち)った女~

 焦げ臭い、焼き討ちされた様な自分の遠い未来を不断(ふんだん)に自分でもう一度荒らしながらそれでも何か、凍て付く程に孤独が打ち消される事を望む冒頭の俺が拍手喝采を受ける夢を見つつも自己の成功を願って居た。自己を自然の内に書き続けて行く事を程好く期待し、白紙と言うよりもその自然の内に不断(ふんだん)に、在り来たりを呈し、通り一遍の言葉を以て自分に準えて書き付けて行く孤独の長者にさえ落ち込んだ自身の表情(かお)を覗いて、他人との破格に鳴動を講じる生命を見せて聳え立って居る煩悩が途端に途絶えて仕舞う連動を自身の心中に圧し付けながらに唐突の孤独が噛み砕く新鮮な成功を待ち望んで居た。白いテーブルには一点の黒色が無く、故に曇りが無い、と見知った緑色の深緑を思わせる当面の才質に打ち惚れながら又他人との音頭を跳び越えて自分の目指すパラダイスという憤悶の地に自己を押し込める挑戦と成るもの、と信じた故に闊歩を試みた訳である。饂飩がするすると口内へ入って行きつつ、その様(さま)がこの世間に於いては異質と見得て仕舞った為か、見知らぬ恐怖をその儘の体(てい)で自分の傍らに於いて傍観する事を望んだ幼児の質を携えた女達が、俺の目前でその時にも佇んで居て、俺は現実を始め静観する様にその女の表情(かお)を覗き込んだ。女達は背後に氷の様に冷たい自分達に対する世間の冷遇、自然が自分達の欲望と体を拾い上げてくれ得ぬ躍動として在ったこの社会の歯車達の連動の上でつい浮き彫りにされた想像に対して一度自分達の妬みを保った意識を白紙に戻す事を試みながら、静寂を決め込もうとする個達(こたち)が仄めかす慌てた体動、微動、等を見過ごす事を目論んだ一つの竜頭に似せた渇水の骸を人形が保とうとする理想に、自分達の肉体が覆い被さり物を言う事を試みて変わらない個の懊悩が織り成す日々を既に連想して居る。女達は未熟とも見える青い果実を伴いながら鬱蒼と茂って何も自分達の目的が謳歌せる最果ての〝骸〟への達成を見せる事をせず、未だに異彩を嘆きながら迸らせて、一端(いっぱし)の〝流行〟を生み出す為の思考が織り成したジャンルを個の哲学を講じる為の項目の内に据え付けられて、硝子ケースが見せて来る光の反射が鈍く光る程に注がれる心の盲目の頭上に対して、俺は何時(いつ)か見ようと試みた繊細な、洗練されようとして包まれて行った自称〝春光〟を白紙上にのさばらせて居た。他人と個の間で懸命に講じようとして来た人としての白ラインを、野獣には跳び越えさせない為に〝春光〟が織り成そうと試みて来た静動の孤独が見せようとする懸命の魅力を人の心中に於いて昇らせて、滞り無く意識の疎通が成される鮮明な止まり木には、孤独と謳歌の両面が取り残されて来たのである。俺に接して来ようとする自由な憐憫を有する少女達が物憂さに諦め果てて行った〝春光〟を括弧付けにした儘で取り置こうと俺は心構えた上で矢張り煩悩が心身を素直に屈曲させた為に、自身を天に迄昇らせ得る洗練された高貴をこの現実で構築された流行の姿の内に見て居た。素直に成れば成る程に、自分で構築し続けた意味をそうした既成の構築物に一つずつ取り付けて行った行動の内にちらと顔を覗かす孤独染みた正義の匂いに引き連れられて、一人書斎に於いて物を書く際に独歩に於いて構築する〝白い王様が住み込む白い王城が解け込ませて行く現実にとっての理想〟は停滞する事無く個が現実の出来事の異変を網羅して行く意識の滑走を試みた後、逡巡を憶えようとしない児の体型の勢いに、つい、憧れて、電子が生み出そうとする人の革命という物をずっと知りたくはない、とする自己のオーラに、悲観と屈曲が滞らせた命の最果てに転がるで在ろうと、浅薄の意味を模索し始めて来たのだ。俺はこの夢の内でそうした既成で構築されて来た物とする女達の目前に聳え立つ形を以て立ちはだかり、「結婚は必ずしない」と呟いた。しかしそうした〝網羅〟を滞らせず夜、昼、朝の順番で一つのループを奏で始めた〝白紙のオーラ〟を携えながら一つずつの文章を書き、何等かの目的を以て〝生きる形〟を試みつつも現実に於いて生命を模索し始めた生粋の模造を水面上に落しつつその静動の現実を昇華させて行く行程を自分に仄めかすという微弱な反応に失墜と孤独とを密かに希望に編成して行こうと決めては見たが、その失墜と孤独とを携えた人の話題が宙を舞う様にして一つの暗闇から立ち現われて来て俺の目前に曖昧な照準を面々に当て始めて居た。白紙の上に置かれた個の文字一つずつがまるで連名を推し量り一つの意味を携えようとバスから下りて来て、行く当ての無い空白のパンフレットに現実の実体を投影させた儘拾い読みさせるが如くに自然の描写を掻い摘ませて来て、俺に孤独を呈した高貴な〝意味の在り方〟に就いて束の間の問答をさせ、煮凝りの様な血肉で構築されて来た思想の柔らかさは、一つに解体を、もう一つに連結を、短略化された一つの整形を現実の個の散乱に被(かぶ)せて、後(あと)は独りでに俺にとっての、又自分にとっての、何等かの〝歩の歩ませ方〟を模索する術に成る事を望んで居た。現実はこの〝煮凝り〟が何等かの威力を講じて別の途方を鎹が見付けようとしたその岐路に置いた為か、如何しても実らない結末・結託を想わせて、俺はその連動が意識させる加重の手捌きに物憂い儚さが織り成せた茶色い竜頭の眼(まなこ)を構築して行く現実の優遇が前面を歩くのを見、俺は女の温もりがその効果を成して構築して行こうとする、等高線が織り成せた様な心の泡沫の表れを何故か一纏めに出来て仕舞う程の能力が表れる青春の寛容を蔑み、そこから己(おの)が死地へと赴く勇者の態(てい)を模造しつつもその様な自己の表れ方を良しと見て、暫くはこの儘の〝実り〟に身を任せようと放蕩する我が愛弟子を西日が傾いた地の果てか何処(いずこ)かに見送った自己の青春を、あわよくば窓硝子を割って仕舞う程の勢いを以て昇華させようと決心して行った。女達が次第に現実に解け込み始めて夫々の表情(かお)を薄ら失くして行こうとする時、我は尻込みせずとも、他人からまるで一端(いっぱし)の〝運命論〟を構築して行こうとした無知から織り成された無関心をもう一度心中に問い直し、彼女達から自分が離れる事に地上に投げ出されて放置される不変の等高線を良し、として、私はその〝女兄弟〟から苦し紛れにも離れて身を細らせて生き永らえる事も、又良し、として居た。

 天候がどの様なものか定まらず、恰幅の好い男児か女児が居るであろう、とするキャンパス内には如何とも言えない憤悶が唯寄って居り、何時(いつ)か見知った事のある時計塔が刻々と自然を変えて行こうと試みる、人への意味付けを成し遂げようとする、一種の倦怠を感じさせる翻弄染みた結託が存在する大学のキャンパス内に居た。温かくも冷たくもなく、時間がどの様な曲折を以て光を奏で始めて行くのか、逡巡を構築して行く白紙の蟠りを保った大声を如何にかして世間に打ち出そうとしながらも、見知った過去に於いて諦めを既に呈して居た自身を知る人々がその内には居る。笑って居ても笑って居らず、失墜に落ちても失墜して居らず、限度と状態とを見極められずに一つの正義の様な山が腰を下ろした土の上の空間を憶えて居た俺は、他人の生命の連動に仄かな温もりを保った儘肖り、お零れを恵んで貰うような態(てい)を晒してふと夢から零れ落ちて来る絆を思わせる人の断片を得て見ようと思って居た。見知った大学教授が狭い様で広い教室内に於いて発狂した様な講義を静かに繰り返し進めて居り、俺は誰かを模造しつつ、その誰かに追従する気質を保った儘で男女問わず憧れようと試みて、俺は自分の構築された〝意味の積み重ね〟を乾燥させて水を得たいとして立ち去った児の様に、自身を失くそうとして居た。自分を当て嵌めた自然の原型が自ら姿と内実とを変えて行ったので、俺はつい、又、目的を減らして行くように段々と無くして行き、素直に、素直ではなくなって行った。詰り、自分の心に就いて、自分が主として最も良く解釈を講じる事が出来るのだ、として他人の表情(かお)を見上げつつ、新たな感動を望み、内向的に冒険をし始めたのである。何を呟いて書いて見ても、煩悩と主流とが邪魔をして、つい世間からは心身が頑な迄に絆されて行って無気力に同化させられて、あの日に見知った勇気と孤独の恐怖とを想う構築された心境迄への過程を繰り返し往復して居た逡巡が見せる試練に陥った自身を見直して居たのだ。何か、革命を見上げる程の覚醒が欲しかったのであろう。構築されて現れた大学教授はまるで雨の中で試験の準備をして居た様で、俺は忙しい個の自然の破片に温もりを啄まれつつ自分に当てられた席に着き、周りに居た理屈を知らない他の学生と共に空の様な試験問題への解釈に取り組んで居た。怒涛の様な過程が滞らず私の心中と教室の内を進んで行ったようで、オレンジ色の夕日を認める事も出来ない儘で、唯々白紙の白さに身を吸い込まれそうに成る束の間の快楽を憶えさせられて、他の学生がどの様に自然に対し立ち向かって居るのか、その内実を掴めない儘で、その教授と自分が知るその大学にして見れば珍しいペイパー試験であり、一々用意された蒸し暑い教室へ出向いて行かねば成らないものであり、白い煩悩がオレンジ色のスクリーンに就いて何も見出せない風貌を態と呈したテイストを模索した、自己のスピードを上げて行った。きっかりと時間と設題とが或る一定の流行に依り構築された鬱積を思わせられる、歯牙無い生命を感じさせる、取り付けられた常識に於いて身を歪ませられる天変地異の様な窮屈を俺は憶えさせられつつ、きちんと座って、講義を受けるようにして試験に臨んで居た。その大学教授はペイパー試験を課した目的をまるでその達成へと完遂させる様にして俺の傍まで近付いて来、その試験の出来を早くも思い知らせて来るのである。他の学生に対する師の態度に就いては分らず、その儘の体(てい)で教室を出て行ける自ら設けた実態を再構築した様で、俺は唯どっしりと構えて一つ目の角を曲がる自身の到来を心中に於いて待って居た。俺の決心を何故か惑わそうとして居る様にも見えたその師の態度とは消えるものとして在らず、まるでその師と他の学生達と俺が居たその教室とは一艘の舟の様に成って、行く当てを知らないが、しかしそれでも自然に依り構築されて在る様な一つの航路の上を唯気持ち良さそうに漂って居た。私は、否俺は、この教授の思惑に自身を表現する全ての術を奇麗にすっぽりとまるで天から下して来ようとする様な、漆黒で執拗な人の思惑を保った俺の企みを掲げた儘で教授を取り巻く風を睨み、俺は俺で又一つの航路を探し歩いて行った。「人は自分の心という存在を解釈する事が一番至難である」と言う人が在り、全ての他人の心に就いてはより解らないものとして在るのと同時に、一つ、そうした思惑に近いとする開闢を募らせて居た俺は、こんな事を追記して居た。他人は自分の視覚に依り見て憶える事が出来るが、その他人の心身に自分が乗り移る事が出来ない故に皆目見当も付かぬ程の別の生命を覚えさせられるものだが、自身の心境に就いては視覚は固より恐らく人が持つ全ての感覚に依り認めて居る、とする。その場合、他人の心に就いて解釈する事よりも自分の心に就いて解釈する事の方が客観的に眺めた場合に理想に掲げた理解が構築した境域に辿り着き易いのだ。「自分の事は自分が一番良く分って居る」等と言うのは、人の自然に対する追究に於ける一つの諦めが言わせたものであろうと同時に、人が奏でる事が出来る精一杯の発声であろう。人は、自分という人の存在に就いて説明し尽せない為に、自分の心に就いて解釈を図ろうとする際に足を止められ、その「自分の心」が奏でる無数で無形の疑問というものに恐らく永遠に対峙させられる、とする。従い、他人の心に就いての解釈へ歩を進ませる以前に人は自分の心に就いて解釈し得ないという問題を抱える事と成り、その問題を解釈しない以上、まるで解釈する為の基礎固め(土台)が出来ていない為に他人の心に就いて解釈する際に於いてヒントを得る事が出来ないで、自分の心以上に、他人の心が他人の心身の内に在るとした上で、解釈し得ないものと成る。詰り、日常に於いて一番「自分の心」が自分の思考領域に近い存在として在る為に一番熟考してその「自分の心」が持つ内容に就いて解釈を図る機会がその「自分の心」を持つ人にとって頻繁に訪れるものである、とする事が出来るとし、解釈する事が出来るか否かを問うその対象とはこの場合「自分の心」であり、「他人の心」とはその対象に本来選ばれず、人は常に、自分の心に就いて解釈する際に於いて思考する事を繰り返す訳である。

 上記した様な体裁を構えた文章を俺はその試験の内で書き、その為、教授と他の学生とがその時念頭に掲げて居た規範とは反する内容とされた様子が在り、俺は落第点をその教授から与えられた様だった。しかしその教授は俺に「君は落第点を取った」とはっきり言わずに、俺が「落第点を取った」という雰囲気だけがその場に漂って居た。教授はその教室内で皆の試験の出来を評価して居た様で、同時に、その教室内は結構人で賑わって居り、俺はその中で真剣に成り、又、結果的にそのペイパー試験の出来と、その時に一瞬でも見せた真剣が功を成した為か、俺は、恐らくその教授から、「学生の、或いはこれから学生に成ろうとして居る者の為に、家庭教師をしてくれないか」と頼まれて、家庭教師に成る約束迄した。俺の高校時代の旧友がその試験か別の試験に於いて五〇四点程の高得点を取って居り、突如として現れたインタビュアーに「五〇四点というもう六〇〇点満点に程近い点数を取ってどうですか?今のご気分はどうですか!?」と頻りに聴かれて居り、その模様に忙しさを覚えながらも俺はつい羨ましく成って、又自分の体裁を立て直した。その経過を踏まえて俺は無心に成った。丁度、腰掛け程度に早稲田大学の小領域に入学する為に受験をした頃、夢に描いた生き抜く為の強靭を静かに夢中で心中へ引き寄せて、自分が此処で生き抜く事が出来る状況の到来を期待して居た。そうすると俺の心は東京へ既に赴いて居り、その場所に俺の母方の従兄弟が柔らかい感性を以てやって来た際の小さな感動を俺は憶えながら、教授が試験の結果を正式に(公式に)表して来る機会を待って居た。俺は、他人を上手く装い続けるその教授が次第に皆に夫々の答案を返すのを、静かに見て居た。俺は上記した様に、その大学教授が自己を表す為に持って居た、とする正義・方針といった物をあらゆる場合に於いて否定する内容をコメント代わりに記入して居た為に、教授の意思とは無関係にその場に自身を展開させる機会をお開きにした様で、俺とその試験場・その試験場に於いて試験に臨んで居た他の学生と教授とは無関係と成ったと俺は思ったが、その心境に辿り着く迄の悪口憎音を口外する事は当然無かった。これも一重(ひとえ)に臆病が成せるものであり、独自に向かわせた努力する事に於ける諦めも早い訳である。

 教授は何時(いつ)もの様に、成績が良かった者を昇順にして、各々の名前を素早く公式に読み上げて行った。その声は教壇に立って居た故に教室中に良く通り、響いた。俺と同様にして自分の名前が呼ばれるのを待って居た学生の内には、その大学で知った自称優等生であったY・K、K・K等を始め、俺がこれ迄に他の場所に於いて出会って来た優等生とそうでない部外者とで入り混じり、犇めき合って居た。しかし、俺よりも良い点(高得点)を取った友人はその時点から俺に対して蔑みを保った目を以て相対(あいたい)して来て、俺は移り変わって行く窮屈を又程好く味わって居た。俺は四二三点、四〇五点、四〇八点、かその辺りの点を取って居り、我ながら出来が良くないとしながらもその時の自分の性質、白紙上のアイディアの性質を構築するレベルがはっきりしない、と白い褌を締めた姿で居た誰かに褒められて居た恩恵の様な物だけを得て居た。鼻高に成った。しかし後で返されたその答案用紙を見てみると、何か両面とも撥ねられていた様子が在り、俺がその時携えて居たアイディアの両脚はその根底から崩されて行った。しかし「合格」とされた無鉄砲にも映った現点の観点に対して俺は阿婆擦れが調子に乗る様に遠い蜃気楼にその身を乗せる事を試みて、強い、屈託の無い、強靭を兼ね揃えた柔軟な成功へと我が身を推し量りつつも、ひたすら小さな歓喜に打ち震えて居たのである。目一杯に拡げた心の冒険への扉を構築して居た一種の憤悶を凌駕する程の寂寥感がほとほと解けて白い雪解けの水を俺に想わせて来た際、「良くこんな体裁を以て通してくれたな」と言う真面目な改悛が、程好く我の目前へと降り落ちて来たその教授の内心へ向けてその顔を立てた時に、あわよくばを狙った俺の心理に態とらしく宛がった様な文句の体裁を講じ始めた。教授は俺に、追試を受けるように勧めて来、その受験時の諸注意なんかをディティールに悟らせ始め、俺は〝合格したのに…、えっ!?…〟等と憤悶を憤悶とも出来ない切羽詰まった現在に於ける自己の凋落の様(さま)を想わされて、突拍子も無いがそれでも現実に直面する自分は問題を解決しなければ成らない責務の様な物を自ら背負って、仕方無く、その教授の意図に相対(あいたい)して居た。冷たい夜露が薄ら夜道に光って、その細道(さいどう)に於いて自己の存在を主張する頼り無さを以て俺は次々に浮ぶ諸問題と対峙して居た。しかし試験を受けながら良く聞いて行けば、それは前回のペイパー試験での得点にプラスαしてくれる為のものである、様であり、唯受ければ良い、というニュアンスを漂わせるものであった為、俺は現実逃避出来るような現実から浮き上がる事が出来る軽快を秘めて居た。「試験を受けて居た」と想って居た俺はまるでその追試験を受験する直前の空間へ戻された感覚を受けた、と思うが早いか、俺が書いて居た筈の追試験を記した白紙の上の解答は書き終えた新しい物から順に消えて行き、我の意識をその儘過去へ誘(いざな)う様に俺の心身毎過去の世界へと戻した。俺は故にもう一度教授の諸注意を聞くのか、と心構えたものだが、そうした一連はもう通り過ぎた貨物列車の様にして戻らず、教授が呟いた不自然な意図は俺の心中に残された儘で、俺はその後に試験を受けなければ成らない、という義務感だけを負う事と成り、もう直ぐ一学期も終わりで切羽詰まって居るに拘らず、試験範囲を覚えるのが大変だ、と考えて居た。しかし、そうした俺の意図の連動を無視するかの様にして、教授は自身の意図を変える事をせずに涼しい表情(かお)は何時まで経ってもその色めきを変える事をしなかった。

 その追試験を受けた俺は、自分の試験に於ける高得点を以て現実に対する最果てを知らない無知の故に光った希望が胸に光る事と成り、自然の内に集まり始めた、冒険で見知った各女の目前に居た。女は繁栄を期したのか、自分達の分身に何者かに依って得た様な生命を宿らせ始めて、一つの繁華街を創り出し、その繁華街の内に小料理店の体裁を醸した俺にとって落ち着く環境を用意してくれていて、俺はその内に、母かこれも又何処かで見知った様な複数の小母ちゃん等と居り、所々に各自が座りながら彼女等は俺に縁談を持ち掛けて居た。冒頭で見知った女の内の何人かがその小料理店内に俺と同時に入って来て居り、比較的、俺の隣に長い間座った自分達よりも若く奇麗な幼少を、俺と一緒にさせようと画策して居た様だった。しかしその幼少は自然に娘の知識と体裁とを得たのか、途端に彼女等の言う俺との縁談を反故にしようと拒み始め、俺と一緒に夢を見る事を固く拒否し、俺もその憧憬に依り衝動を走らせる引き金を引かれた様で、「ああ、如何したってこんなじゃ無理だ」と思い返し、妙な、自分でも把握し得ないプライドの様な物がその時俺の隣に未だ座って居る娘の全てを否定し葬ろうとし始め、俺は自分の方からその娘との運命を駄目にして居た。とっとっとっとっ、と時々小走りに成りながら歩を速めて行く俺の体裁は彼女等に認められ、余計に俺は娘への未練を断ち切る事を成功させ、未だに娘と俺との修復に就いて独り言の様に問答して居た小母の箴言を悉く撤回させて、「俺には無理ですよ。する気在りませんから。」ときっぱりと、自分の為に構築された娘との縁談を壊して居た。俺はその小料理店を、彼女等と娘とを残した儘ですっと出て、繁華街に呪いの一矢を放ちながら歩を進め、女から離れた心を以て薄暗い大学キャンパス内を或る目的の為に急いで走り出し、ベンチ(そこには三~四人の親しくないが知り合いの女達が腰を据えて寄り添い座って居た)を跳び越えようとした際にそのベンチの角に殆ど無意識に手を置いたのか、足を打(ぶ)つけたのか、娘等を乗せたそのベンチはがたがたと揺れ動いてしまい、女達は咄嗟に俺に向かって嫌な表情(かお)をして見せた。俺は〝しまった〟等と思いながらも〝構うか〟と言った心意気を持ち直して、ふと、嫌われる様な奇声を発しながら「済まんね」を言い、女達は当然の様に居座りながら、無関心に引き込まれる様にして、俺への評価を変える事をしなかった。俺は、この娘達の動静が夢の内でどの様な物で在っても、あわよくば犯してやろう、とする〝春光〟に埋れた打算を正当化したのは事実であり、娘等はしかしその事にも気付いた節は無く、可笑しな表情を以て居座って居た。太陽が光る。風が畝(うね)る。川が流れて海へ出る流水を賄う。人はその環境が生きて行くと同時に同様の素直を以て生きて行くのであろう。自然の足踏みが俺に聞えた事は無かった。故に俺はこうして歩を単調に進めて行く自然に飽きが来たように胎児の我儘振りを知りつつ自然に反抗を試み、透明に見えて感じられない生命というものに、何等かの片を付けたかったのかも知れず、揺れ動く自然の揺らぎとは又太陽の波紋と水の波紋とを同化させて行く、という様な曖昧な表現を事実に変えて我に押し付けて来て、我はこの宇宙で〝如何在るべきか〟を考えた末の模範を表したかった訳である。「女が自分に対して下す評価等は見知らぬ評価だ。気にする方が可笑しい。」と又再考しながら俺は、今後の自分のスタンスの在り方を決めようとして居た。



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~評価を吝嗇(けち)った女~ 天川裕司 @tenkawayuji

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