第39話(上)ついに結婚式。そこに現れたのは…

グレンがアリシアを抱くとアラーナ国の王宮、国王の執務室に転移した。


 そこにはグレンの代わりに執務に忙しくしていたベルジアンがいた。


 あれからグレンの行方も分からずせっかく国王となったグレンの信頼は揺らぎ始めていた。


 ベルジアンはグレンに変わって宰相と共に執務をこなしていたのだ。



 グレンは転移し終えるとアリシアを一番に見た。


 「アリシア?大丈夫か?」


 「ええ、グレンこそ大丈夫?怪我治ったばかりなのに」


 「平気に決まってるだろ!…あっ!」


 グレンはやっとベルジアンに気づく。


 「配下?ご無事ですか?えっ?でも、どうしてアリシア様がここに?」


 ふたりを見たベルジアンは驚く。


 途端にグレンは怒りをあらわにした。


 「ベルジアン!!お前。アリシアが死んだなんて…うそをつくにもほどがある。俺がどれだけ苦しかったか…お前にも同じ思いをさせてやるからな!」


 グレンはアリシアが死んだとうそをつかれたことを許せるはずもなかった。


 グレンはベルジアンに近づくと彼の襟をつかみにかかる。


 ベルジアンは頭を膝がしらにつくほど折り曲げて頭を下げる。


 「配下。お詫びの申し上げようもございません。ご処分はいかようにも。覚悟は出来ております。私はあなたの父上に人としての尊厳を取り戻していただきました。だからそれに報いるためにも、グレン陛下には国王の座を失う足かせになるようなものはすべて排除するべきだと思ったのです。私が間違っておりました。申し訳ございません」


 「グレン違うの、死んだことにしてって私が頼んだって言ったでしょう。ベルジアン様は私の言うことを聞いてくれただけよ。だからそんな事やめて!」


 「アリシアはベルジアンを庇うのか?」


 「だってグレンは心優しい国王ですもの。あなたの事を思ってくれた側近を罰するなんて出来るはずないわよ」


 「アリシア様いいんです。私が悪いのですから…陛下のお気のすむように」


 ベルジアンの頭は深く下げられたままだ。


 グレンはアリシアとベルジアンを交互に見る。


 「ほら、ベルジアンもそう言ってるだろう」グレンはアリシアの方に一度振り返るとベルジアンに命令した。


 「ベルジアン命令だ。即刻、結婚式の準備に取り掛かれ1週間。いや、5日ですべての準備を整えろ。いいな。俺は今度こそアリシアと結婚したいからな。お前には忙殺の罰を与える。しばらく徹夜で働け。いいな!」


 ベルジアンの顔が緩む。


 「陛下…はい、すぐに」


 ベルジアンは大急ぎで執務室を後にした。


 「もう、グレンったらそんなに急がなくたって逃げたりしないから、そう誓ったじゃない!」


 「ああ、逃げると言ったって逃がさないから」


 「グレンったら!」


 アリシアはたまらずグレンに抱きついた。


 ***


 グレンの言った通り5日で結婚式の準備は整った。


 ウェディングドレスは、既製品だったが超高級なレースがふんだんに使われた一点もので、デコルテが大きく開いて胸の前は重なり背中は大きく開いてマーメイドラインのデザインのドレスだった。


 前日サイズ調整でドレスを着たアリシアを見たグレンは言葉を失った。


 「……」


 「グレン?似合ってない?」


 アリシアは不安になって彼に聞く。


 「違う!そうじゃなくて…こんな姿を他の奴が見ると思ったら…クッソ!俺の番なのに…こんなの他の男に見せたくない。アリシア…」


 「もう、グレンったら」


 ふたりは相変わらず甘々で…


 見ていた服飾店の店員が困ったように言う。


 「陛下、もしドレスを変えるとなると今からでは無理です。とても間に合いませんわ。結婚式を引き伸ばすおつもりですか?」


 「それは無理だ。結婚式は明日上げる」


 「でしたら、こうやって…」


 店員はオートクチュールの美しいレースをアリシアの髪につけて行く。


 「ここにはティアラをあしらって裾よりも長くすれば…いかがでしょうか?」


 ドレスの肩口から腕や背中がすべて美しい刺繍のレースで覆われて肌はほとんど露出していない。


 さらに店員は、アリシアの指先にそのレースの端を持たせるとそれはそれは美しい女神が降臨したみたいになった。


 「アリシア…きれいだ。ほんとに君は女神だ」


 グレンはアリシアを抱きしめる。


 「グレンったら言い過ぎよ!」


 アリシアは恥ずかし過ぎてぞんざいな言い方をしたがうれしくて仕方がなくて口元はゆるゆるにほころんだ。



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