第21話(上)グレンはいい人?いやな奴?もうわからないから!
アリシアはグレンと一緒に大急ぎで洞窟を後にする。こんな所に一秒だっていたくはない。
大司教あなたを信じていたのにまさか私を殺そうとするなんて…
アリシアは殺されかけたショックが大きく立ち上がることすら出来なかった。
グレンが抱き上げてくれるとアリシアはその力強い胸にときめく。
「アリシア?大丈夫か…お前震えて‥クッソあいつ殺す!」
「あなたが来てくれなかったらわたし…」
彼が途轍とてつもなく頼もしいと思う。
いつもならこんな素直じゃない。んだけど…
今は彼が助けに来てくれてこんなに心強く思う。
手のひらが彼のシャツをぎゅっと握りしめ彼の胸に身を預けると強張った身体がふわっと緩んだ気がした。
グレンはそんなアリシアを抱いて洞窟から連れ出しびっしょり濡れた聖女服を魔法で乾かしてくれた。
もちろんヴィルに事情を知らせたのもグレンだった。そして一緒に出て行くことに。
「ヴィルお前何してた?アリシアをこんな目にあわせて!」
グレンはヴィルを見ると彼に食って掛かった。
「グレン殿下、ですがそんなの不可抗力ですよ」
ヴィルは飛び掛かったグレンに押し倒される。
「グレン。ヴィルに責任はないわ。だってまさか大司教がこんな事するなんて思うはずないじゃない」
アリシアがヴィルに駆け寄って彼を助け起こす。
「フン!知るか」
「グレン殿下アリシアを助けてくれてありがとうございました。ったく!あの狸親父の奴!何だかおかしいと思ったんだ。俺も一緒にいればよかった。すまんアリシア恐い思いをさせて」
「謝らないで、ヴィルのせいじゃないもの」
ヴィルとアリシアが手を取り合っている。
グレンはそんな二人をちらっと見る。まだ怒ったままらしい。
「…いいから行くぞ!」
3人は取りあえずべズバルドルの街に向かう事にした。
グレンがいきなり転移魔法を展開させる。
「グレン!ちょ、それまずいん…」
アリシアの声はそこで途切れた。
光の渦に取り囲まれ一瞬で別の空間に移動した。
そこは賑やかな通りを一本入った辺りの木陰だったらしい。
いきなり3人の姿が現れてもし人でもいたら…とアリシアは気が気ではなく。
「もう、いきなり転移魔法なんて!グレン。あなた。もし人に見られたらティルキア国は魔法を使える人がほとんどいないのよ」
アリシアはまだ心臓が飛び跳ねるようにドックドックしている。
「だって馬もなければ馬車もなかったんだ。どうやって街に行くつもりだったんだ?」
グレンは心外だとでも言いたげに唇を尖らせる。
「アリシア、グレンの言う通りだ。さっきの状態じゃ歩いて行くには無理すぎるだろう」
ヴィルまでグレンの味方をする。
「だって…」
アリシアはあまりべズバルドルの街の事をあまり知らなかった。何しろほとんど大聖堂から出た事がない。
グレンが辺りを見まわしてほっとしたよう言う。
「アリシア、とにかく周りに人はいない。誰にも見られてはいなかったみたいだぞ…あっ、でも、いきなり転移して悪かった」
「まあ、いいんだけど…」
「アリシア、もう許してやれよ。だってアリシアの命を救ってくれたんだろう?」
あれ?何だかいつもと違う気がする。グレンがこんなに素直だった?
アリシアは一瞬戸惑う。
ああ、そうだった。グレンは私を助けてくれて…グレンが来てくれなかったら今頃オルグの泉の底に沈んでいたかもしれない。
グレンは優しいんだ。とやっと気づくアリシア。
もう!それに私ったらまだグレンにお礼も言っていなかった。
アリシアはバツが悪くなった。でも、きちんとお礼はいうべきだろう。
アリシアはグレンの前に行って手を差し伸べた。
「なんだ。いきなり喧嘩でも吹っ掛ける気なのか?」
「ち、違うから。仲直りの握手よ。それに助けてくれてありがとう。本当に感謝してるわグレン」
アリシアはさらに手をグイッと差し出す。
「ああ、礼を言ってもらうほどの事では…それに手は繋がん…」
「そおっ、あっ、でもいいのよ。とにかくありがとう」
「もういい。あまり近づくな!」
グレンがアリシアから飛びのく。アリシアの差しだした手は宙ぶらりんで行き場を失った手はそのまま服でこすられた。
何よ。せっかく素直にお礼を言ったのに。アリシアもそれ以上何も言わなかった。
「さあ、こんな所にいても仕方がない。行こうか」
ヴィルがそう言って歩き始めた。
細い通りを出ると大きな石畳の通りに出た。人がたくさん往来していて建物が立ち並んでいる。
いい匂いがあちこちから漂ってきてアリシアはヴィルに近づくと声を上げた。
「ヴィル、あれはなに?」
「あれは屋台と言って食べ物を売っているんだ。あそこで買って歩きながら食べたりもする。何か欲しいものがあるか買って来てやるぞ」
そこでヴィルの目が歪んだようになる。
何かを考えているような、眉を寄せて渋い顔のままラム肉の屋台を見つめる。
「ヴィル?どうかした?」
「いや、何でもない」
アリシアは履物は履いていなくて裸足のままだった。
「ヴィル、そんなものよりアリシアには靴が必要だろう?それに服もだ」
グレンは少し前を歩いていたが振り返るとそう言った。
ヴィルははっと我に返る。
「ああ、そうだな。良かったよ。帰ってすぐにお金を少しばかり用立ててもらっていたんだ。あそこに服や靴を売っている店があるぞ。アリシア好きな物を買うといい」
「ええ、ありがとうヴィル」
「それから、辺りは暗くなって来た。今から街を出るのは無理だろう。すぐにでも宿を探した方がいい。俺は先に宿を探して来る。買い物が終わったらこの辺りで待っていろ。だが気をつけろ。あいつ気を失っていたがすぐに俺達を探し回るはずだ」
「ああ、そうだな。グレン、アリシアを助けてくれてありがとう」
ヴィルが改めてそう言うとグレンは「あんなの放っておける訳ないだろ。礼はいい!」
彼はやたら機嫌が悪い。
「グレン、なに怒ってるんです?」
「何でもない。アリシアには関係ない事だ」
アリシアは緑色のワンピースと靴を買ってその店で着替えを済ませて店を出た。
グレンはもう店の前で待っていた。
「グレンお待たせ」
「ああ…宿は見つけてある。急ごう」
グレンは先に歩き始める。
ヴィルとアリシアはその後を追うようについて行く。いきなりグレンが振り返って言った。
「アリシア…それ」
「えっ?あっ、ごめん。こんな服あんまり着ないから迷ったのよ。でもヴィルが似合うって言うから」
「チッ!アリシアあんまりキョロキョロするんじゃない。いいから道の端を歩け。お前をみんなが見てるだろう。くっ、俺が行けばよかったか」
グレンの声はそれは小さくつぶやくほどで…
「なに?良く聞こえない。もう一度言ってグレン」
「もういい!なんでもない。ほら、急ぐぞ」
グレンはそれから振り返ることはなかった。
アリシアとヴィルはグレンを見失わないようについて行くので精いっぱいだった。
もう、なによ。少しくらいゆっくり歩いてくれればいいのに…
グレンに助けてもらってすごくうれしかったのに…
やっぱりグレンって私が嫌いなんだ。
アリシアはそんな事を思いながら後ろをついて行くしかなかった。
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