第7話 執事さんはいい方みたいですが
そこに扉が開いて誰かが入って来た。
年のころは40代だろうか、黒い髪はキチンを撫ぜつけられきちんとした身なりの男性だ。
「これは失礼いたしました。もうお着きになっているとは気づきませんで…殿下。聖女様とご挨拶はおすみでしたか?」
「ああ、だがこいつ役には立たんかもしれん。盛りがついている」
「殿下何をおっしゃっているんです。聖女様に失礼じゃありませんか。あっ、失礼しました。殿下のおっしゃることは気になさらないで下さい。私はグレン殿下の執事をしておりますベルジアンと申します。この度はわざわざ起こし頂ありがとうございます。お疲れでしょう。早速お部屋にご案内いたします」
執事のベルジアンはいつもの事なのだろう。
客への態度が異常にで解雇の男の対応に慣れているらしい。
頭をぺこりと下げ頬笑みを絶やさずアリシアたちを見るが…
「あの、おふたりはご一緒のお部屋でよろしいのでしょうか?」
はぁ、この人まで?アリシアは頭が痛くなってきた。
「いえ、とんでもありません。ベルジアン様。こちらが聖女アリシア様です。私はヴィルフリート・バルガン彼女の護衛で兄でもあります。どうぞよろしくお願いします」
ヴィルフリートが全面否定でベルジアンの強張った顔がゆるりとほぐれた。
この時とばかりアリシアは挨拶をする。
「あ、アリシアです。ベルジアン様どうかよろしくお願いします。言っておきますけどヴィルフリートさんは兄ですので殿下はなのを勘違いされたのか…」
「もちろんです。殿下の言うことは気になさらないように…はぁ」ベルジアンは大きなため息をひとつした。
「嘘だ。普通、兄をさん付けで呼ぶか?この偽物め!」
「失礼な!偽物ですって?そんな風に見えるのは殿下が餓えてるからじゃありません?そんな態度じゃ女性に不自由なさってるでしょうから」
アリシアはフンと顔を背ける。もう、何よ!
頭に血が上る。こんな男を説得するのか?無理!無理だから!
「誰が!俺は聖女に興味はない!ましてやお前みたいな…」
「殿下。もうお止めください。今からお部屋にご案内いたします。その後でマティアス殿下を見て頂くことにいたしましょう」
「ああ、好きにしろ。俺の仕事は終わった。一刻も早く聖女を呼べなどとふざけるな!」
「はい、わかっております。殿下ありがとうございました」
ベルジアン様お気の毒。
大司教もひどい人だと思って来たがここまでではなかったわ。
***
アリシアとヴィルフリートはベルジアンに部屋に案内される。
ヴィルフリートは廊下を挟んで向かいの部屋に入る。アリシアは表側の見晴らしの良い部屋に案内された。
案内された部屋は豪華だった。天井にはキラキラ輝くっシャンデリアがあり床はピカピカに磨かれた大理石だろう。
調度品もアンティークで長い年月大切に扱われてきたことがわかる。
それに大きな窓からの見晴らしが素晴らしく庭の美しい花が咲き乱れているのが見えた。
アリシアが今までいた部屋とはくらべものにならなくて思わずたじろいで足がすくむ。
すぐにベルジアンさんが謝る。
「すみません。見苦しいところをお見せしました。何か不都合でもおありでしょうか?」
「いえ、とんでもありません。私のようなものにすごく素敵な部屋を用意していただいてありがとうございます」
「とんでもございません。なにぶんこの王宮には王女様がおりませんので若いお嬢様がどのようなものをお好みになるのかわからなくて取りあえず侍女たちに整えさせたのですが…あの、もし足りないものがありましたら遠慮なく仰って下さい」
「はい、でもこれ以上は…それにしても執事って言うお仕事も大変ですね。あんな人だといつも無理を言われてるのでは?」
アリシアは気の毒そうに聞く。
「いえ、殿下は仕事も出来て有能な人間であればどんな身分でも扱いは平等でとても優しい方です。ただ王族の方々からいつも冷たい目で見られて殿下があんな口が悪くなったのもそのせいなんです」
うそだ。あんな人。
「ベルジアンさん。グレン殿下は魔族の血を引いているって言うのは本当なんですか?」
「はい、国王はお若いころに魔族のお嬢さんと恋に落ちたんです。子供まで授かって…でも王族はそんなことは認めず新たに妃を娶るように言われて国王はやはり国を見捨てるわけにも乱すわけにもいかないと…ですが最初のお子様はグレン殿下ですので。でもそれをよくは思わない方々もいて…あっ、すみません。こんな事。ここだけの話でお願いします」
「ええ、もちろんです」
「良かった。すぐにお部屋の方にお茶をお持ちします。それからなるべく早くマティアス殿下の様子を見て頂けると助かるんですが」
「はい、それでマティアス殿下のご容態とか教えていただけると助かるんですが」
「はい、殿下は酷いやけどを負われて」
「まあ、どんな状況で火傷を?」
「森の中で訓練中に雷が落ちて…火があっという間に広がったらしいのです。それで殿下は酷いやけどを」
「まあ、でもこの国にも治癒魔法の使える方がいられるのでは?」
「いるにはいますが…力のあるものは騎士団がすべて召し上げてしまうので」
「でも、騎士団のお怪我を治されるはずでは?」
「この国は魔族をこの国から守るのが一番でして…」
だったらあのグレン殿下が一番適任ではないのか?と思う。
「グレン殿下も治癒魔法を使えるのでは?」
「いえ、グレン殿下を毛嫌いしている王妃様が近付く事さえ許さないとおっしゃって」
「もう、国王は何をしているのですか?国王が命令すれば…」
「そうですが。ああ、申し訳ありません。本来なら国王が自らご挨拶をするのが当然なのですが国王は長い間病で臥せっておられまして、それで執務はほとんどグレン殿下がされている状況です。それでこの度、聖女様をお呼びすることもグレン殿下が提案されて」
ベルジアン様は何度も頭を下げられてすごく申し訳なさそうで。
「余計なことを聞いてしまってすみません。マティアス殿下の事はお任せください。どうか頭を上げて下さい」
アリシアはどうしようもないほど気まずくてベルジアンに頭を上げるように促す。
国王の病も治せたらいいのに…
そんな事も思ってしまう。
「あの…余計な事でなければ国王のご病気も診せて頂けないでしょうか?もし私にできることがあればお力になれないかと」
「そうですね。王妃にお伝えします」
「はい、お願いします」
ベルジアンさんはそう言って部屋を出て行った。
アラーナ国とティルキア国はあまり繋がりがない。もともとティルキア国が始まったころはアラーナ国はなかったらしい。
そもそも国と言うものが存在すらしていなかっただろう。ティルキア国から人があちこちに移動して新たに国が出来たのだから。
ただ聞いた話ではアラーナ国の北の森には魔族が住みついていたとか。
だからずっと昔は魔族とも付き合いはあったらしいが、だんだん人間は力の差があり暴力的な魔族と関わりたくなくて距離を置くようになったらしい。
アラーナ国と言うのはかつてこの地を収めていた領主の名前らしく魔族ともかかわりを持っていたらしい。
だから今ではアラーナ国にはあまり行きたがる人も少なく国と国の関係もあまり深くないと言うのがアリシアの知識だった。
それに魔力のある人間が生まれるのは昔からの魔族の遺伝を受け継いだ人間がごくまれに生まれるせいだとも聞いた。
だからあちこちの国でそんな人間が生まれるのだと。
アリシアや大司教のような人が。
でもグレン殿下は違う。
彼は魔族との混血でアリシアよりもっと魔力が濃いだろう。
だからお願いするんでしょう。
ったく。
はあ、私あんな冷たい人に、ものすごく大変な事頼めるのかな?でも、これはすぐにでもやらなきゃならない事なんだから…
アリシアは部屋に会った天蓋付きの豪華なベッドにゴロンと転がった。
これ、すごっくふかふかだわ。こんなベッド初めて。
またやりたいことが出来たと微笑んだ。
アリシアは目を閉じて大きく息を吸い込んだ。そして改めて聖女はやめようと心に誓った。
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