殿下、決して盛ってなんかいません!私は真面目にやってるんです。おまけに魅了魔法効かないじゃないですか!どうするんです?
はなまる
第1話えっ?私聖女止めていいんですか?
神聖なる大聖堂のオーディン神像の足元で首を垂れる一人の女性。
伏せられた瞳は美しい曲線を描いてまつ毛が小刻みに震える。
この国の加護の祈りを捧げる聖女それがアリシアだった。
ここはティルキア国のアステール山にある神殿。
1000年以上も前に作られた神殿はすでに建物はなく大きな柱を残すばかりだったが、神殿の奥の岩場の中には洞窟がありそこには神や魔界ににつながる神聖なオルグの泉があった。
日常の祈りや神事は新たに作られた大聖堂で行われるのが常だった。
祭壇上で行われる神聖で厳かな儀式が…
だが、今日は違った。
そんな大聖堂の議場では今まさにアリシアに対して断罪が行われようとしていた。
「いいですか皆さん。このアリシアは聖女と言う立場を利用し国民からの寄付金を長年にわたり着服していたのです」
そう声を荒げたのはこの国の宰相バルタザール・フィジェル元公爵だった。
その隣にはアリシアと同じ聖女の服を着た彼の娘マイヤがいる。
「ですが、フィジェル様アリシアがそのような事をするはずが…私は彼女は幼いときから見守って来ましたが、決してそのようなことをするようなことはありません」
そう言ったのはこの神殿の大司教であるガイル・ホワティエ。彼も元公爵家の人間だが彼には神の力が宿っている。
だからとっても偉いんです。
「大司教いくらあなたでも証拠もあるんです。もう言い逃れは出来ないのではないですか?」
他の司教たちはフィジェルに丸め込まれているのだろう。
「そうです。大司教いくらあなたが庇ってもアリシアの罪は免れません」「そうだ「まったくだ」」
数人の司教が口々に声を上げた。
アリシアは悲痛な顔をしてうなだれてはいたがこれはチャンスなのではと思わず引く結んだ唇が緩むのをこらえきれない。
アリシアは内心で思う。
5歳の時に母が亡くなってずっと捕らわれの身同然で、もう、この国の為に尽くすことに疲れてるわよ。
あなた達がその気なら。ええ、いいのよ。私はすぐにでも止めるから!
でも、ここは真摯にな顔つきで…
アリシアは一度空気を吸い込み顔を上げる。
「聖女の役目は国の繁栄を祈ること。私はそれを毎日一生懸命やってきました。それで私に責任があるとおっしゃるなら私はここを出て行くしかありませんわ」
真面目な顔でそう言うのはこれが精いっぱいだ。
それにしても私が悪いことをしたと思われるのは癪に障るけど…
「なんだ。わかってるじゃないか。散々金をふんだくったんだ。今すぐここから追い出してもいんだ!」
フィジェルはそう言ってアリシアを糾弾する。
アリシアは言い返しそうになってぎゅっと拳を握る。
宰相相手にしたらどんな目に合うか…自分は何も悪いことはしていないのに。
「でも、どうするんです?アリシアの仕事は誰が?」
別の司教が心配そうにつぶやいた。
「何を心配する必要が?聖女は我が娘のマイヤがいるではありませんか。司教何も心配するすることなどありません」
フィジェルは自信たっぷりにそう言って隣にいるマイヤを見た。
まるで、そうなんです。目に入れても痛くないんですとばかりに目を細めて。
「ですが、いきなり追い出すというのはあまりにも…それにさっきも言いましたがアリシアはそのようなことをするはずがありません。今一度皆さんに考え直していただきたい」
大司教ガイルはひとりひとりの目を見て真摯に訴える。
大司教。この人達にそんな事を言っても仕方がないことですよ。いっそ皆さんに魅了魔法でも掛けたらどうでしょう?などと思ってしまう。
だが、大司教は力を使うのは決まって正しい事にのみ。まあそれが当たり前なんだけど。
でも、そんな事をすればアリシアが聖女をやめれなくなる。そう思うとアリシアは理不尽な理由で追い出される以外聖女をやめさせてもらう方法はないかと思いながらガイルのすぐそばに控えたまま、またため息を吐くと口を閉じた。
それにしても今日のフィジェル宰相はやけに辺りがきつい。
彼はずっと娘を聖女にしたがっていた。フィジェル家の嫡男フィルは王女のソフィアと婚約している。
ふたりが結婚すれば王家との関係は盤石なものになるだろう。
それにマイヤが聖女になればフィジェルがかなりの力を持つことになる。まあ実際、裏では宰相である彼がこの国を牛耳っているともいえるけど、国民は戦争が終わって貴族制度を解体して国民の為に土地を分け与え国の復興を成し遂げたルキアス国王を熱烈に支持しているから。
騎士隊の解体も国費の軽減のため。そのために私の仕事はうーんときつくなったのですけど。
そんな事は国民の知ることではない。
ルキアス国王は素晴らしい人だと言われ今のフィジェル宰相の影が薄いのが実情。
フィジェル宰相は貴族制度を復活させたいと思っているらしいからマイヤを聖女にしたいって思ってるわけよね。
ふーん。それでか。
アリシアは一人頷いた。
まあ、そんな事どうでもいいんだけど。
アリシアは他人事のようにマイヤを見た。
彼女はアリシアを目が合うとフンと顔を反らした。
まあ、あなたが私と変わってくれるならちょうどいいわ。あなたに努めればだけれど。
それにフィジェル元公爵と大司教はいつも仲が悪いのは今に始まった事ではないし…そんな事を思いながらまた首を垂れる。
ええ、いくらでも首くらい。
それにしたって大司教。あなただって私を散々利用しているくせに。
アリシアはここに連れて来られてからずっと篭の鳥だった。大聖堂の奥深くに閉じ込められて自由に出歩くことも誰かと気軽に話す事も許されない。
何かあるたびに神の導きだとか神の望まれている事だとか…
もういい加減うんざり!
私だって少しくらい自由が欲しい。それにお役御免って言うならなおさらうれしい。こんな所すぐにでも出て行きたいんだから!
アリシアは思わず舌打ちしそうになる。
「では、しばらくアリシアは謹慎と言うことで、マイヤさんに加護のお祈りを任せてみてからと言うことにしてはいかがでしょう?マイヤさんもいきなりすべてを任されるというのも…お身体に無理がかかるやもしれませんし…いかがでしょうかフィジェル様?」
間を取って副司教がそう言った。
あくまでも国の宰相を務めるフィジェルのご機嫌おもんばかってのことだ。
「まあ、いいでしょう。アリシアも女性ですしいきなり追い出すなどとは少し言い過ぎました。何しろ行き先などの用意も必要でしょうから」
「ええ、ではさっそく。アリシア、あなたはマイヤさんに聖女の仕事を引き継いで下さい」
「副司教様、引継ぎはなくても結構ですわ。わたくしこれでもいつもアリシアさんのお姿を見ておりましたからやり方はすべてわかっていますの」
マイヤは公爵家の令嬢らしい物言いで自信たっぷりにそう言った。
だが、マイヤの精霊の力は思っていたほど強くはなかった。
なのにマイヤはそれを認めようとはせず頑なにアリシアの協力を拒んだ。
いいじゃない。マイヤがそう願ってるんだもの。
もう、絶対に知らないから!
一日だって早くこんな所から出て行ってやるんだから!
それに今までずっと我慢して来たことをやってみたい。
アリシア。25歳のしてやっと自立を目覚めた日であった。
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