~美しい女~(『夢時代』より)

天川裕司

~美しい女~(『夢時代』より)

~美しい女~

 「恋人」と題して、「俺の恋人は毎日表情(かお)を変える事が出来る。しかし中身は変わらん。だから俺と一心同体で在り、いつも一緒に居てくれる。山、川、平野、街、神社・寺、生活、夢、教会、何処ででも一緒だ。これを恋人と言わずして何と言おうか。誰が認める事無く、唯、俺だけの恋人である。」、次に「賞」と題して、「芥川賞・直木賞等という類(たぐい)の賞は、取れそうで取れない状態に在るのが自分にとって良いのかも知れない。もっと良いのは、全く取れない様な状態に在る事だろう。」、等と生活の灰汁に就いて述べたような己の文言と独自の文化とを対照にして明日の我が活性を図る事を期した際に恐らく見た夢の話である。

 遠い春の日の事であるらしい事は分っている。分ってはいるがその「遠さ」は途端に身近にも親しい物にも感じられて、又、急にぱっと明るく靡く空の小鳥の羽ばたきから自分へ落ちて来る陽気のリズムをさえ、一つ一つ煌めく宝物の言葉の様に変えて行くから不思議なものであった。俺はこれから暫く自分の身に遣って来る厳しい試練の様な残骸の連続と、都会の空から落ちて来るような見知らぬ冷たさしか読み取れない寒気を既に予測させられて居た様子で、「あっ」と言う内に何処からとも無く遣って来た官軍のマーチにこの心身が踊らされているのを知って居た。人の思い付きにこそ、熟慮、熟考が期さぬ正直と本当が解(かい)されて在る訳で、その思春の衒いは俄かに人から受ける残虐の眼(まなこ)の内で衰退して行く〝人の滅び〟の様な弱体をつい摘まんで他人様が蔓延る無法の境地へ迄送り届けて行くものであり、俺はこの様な人の春に見る未熟と清しさとに、一定の疑惑と辟易とを見て、又進退窮まる人の雑念の内にこの身を費やして行く事は既に又、自然の習わしである、として居た。

 俺が何時(いつ)か、自分が少し遠い過去の内を歩いた際に見知った木山隆講師と、此方は何時(いつ)何処で見知ったのか判然とせぬ、恐らくこれ迄見知って来た自分を刺激し続けた女性を集大成的に纏め仕立て上げた女性だったのであろう、初老の女教授とが、その時俺が目前にしたD大学内の一教室に置かれた教壇の上に立って居た。その二人はまるで結託して学生同士で争わせるかの様にして一つや二つの課題を出し、兎に角俺に対しても、何かに就いて発表する事を促して居た様(よう)で、俺は既に事前から身構えて居た様子が在った。哀れな小志(しょうし)達が延縄に依り掻き集められた一匹ずつの小魚の体(てい)で白い骸を羽織ってその教壇から程好く離れた目下で立ち尽くす様にして在り、何時(いつ)しか知らぬ内に夫々の闘志に火を灯された事に漸く気付き始めた無類の盲者達が皆己の躰を引き摺り何処へ向かうのかも知らされない儘、あの二人のリーダー達に依りまるで微温(ぬる)い地獄の業火を生身に味わわせられる夢を密かに準じて待って居る様(よう)だった。その発表の課題に挙げられた項目には、〝古典から近現代迄の文学作品から抜粋された主題〟が掲げられて居り、唯その発表に於いて俺が最も難色を示されたのは、テキストや自分が用意した資料を一つも見ずに頭の内と心の内、それ等を纏めた口内のみに依り発表せよ、といった教壇に両手を突いた儘の姿勢で時間一杯に発表を強いられる口頭発表を行わねば成らぬ事であった。これには堪り兼ねて、俺は自ら友人に打ち明けて自身の非力を共に同情をその友人から得た上で、その教室から逃げ出そうとか、又、教授二人に断固願い出て、何とか自身の特典を訴え通す形で自分だけに当てられる特別誂えの場所を用意して貰う事等を咄嗟に思い付いた訳であるが、見る見る時間が過ぎて行く傀儡達が徐々に構築して行くその教室内の淀みを感じて行く内に、そうした自身の非力は途端に無情の前に打ち崩れて不甲斐を知って仕舞って、何の手立ても無いまま自分を他の学生達と歩を同じにして発見せねば成らぬ純情成るハードルを既に目前として居た。俺は苦闘した。

 一匹の蝶が窓の外をひらひら自由に飛んで行く頃、太陽は自分の分身である触手と揶揄してその同じ窓から一線ずつの陽光を幾度も幾線も差し込ませて来て、自然が呈する一種の強靭の内でこの身が見えぬまで絆されて行く快感を又知らず内に俺は味わわせられ続けて居たらしく、次々に発表して行く無言の人文学の歴史が躁鬱の内で灯され冷淡な新鮮を構築して行きその内に身を落ち着かせ始めた頃、俺は通り一遍の人の術から得た一種の諦観を憶えた儘次に逃げる為の僻地染みた場所迄の道程を身近で探り始めて居た。皆、本当にすらすら発表出来て居るのに自分の内ではこの様に成せる実力の程がとうとう見定め得ず、遂には吐き気を催す程の森林浴に身を委ねられた展開の目下で苦しめられた自信の喪失を自ら採り挙げ、その身上に掲げる程の悪心をその身の内に定め置き、自分の定位置とも知れた一進の行水に咽び笑ったあの日から続けられた命の流転が又まるで屈葬させられた様(よう)に微弱なものと成り果て、遂には、滔々と流れる窓の向こうで跳ねては消えて行く陽光が映した自然という何者かの傀儡にこの躰と手とを置いて自らの檻の内で瞑想に耽り出すのだ。

 唐変木が教室の後方で唯ぽつんと、何を発表して好いやら如何して発表して好いやら苦心し嗅ぎ回って居る情景を他所にしてその前方では、予め暗記して憶えた無数の言葉と情景達が我先にと尻尾を振って唐変木から歩き、跳び去って行く内に俺はその唐変木がうろうろして居る境地が次第に荒地に見え始めて、その実情を知るや否や、仕方無く周りの学生達の歩調と余念にさえ調子・程度を合せた上で、自分がすべき発表内容を遂に編み出して居た。考え起したその発表内容とは矢張りその顧問達が期待した通りに日本古典文学に纏わるもので一三〇〇年代に於いて名を馳せて居たとする作家や学者、作品の名を冠して一通りのレジュメは纏めて、それから自身に吸収させようと試みた。その、自分でも訳の分らない事柄を口頭に依り発表する際に頭も心も口も生命と脈絡とを以て教室内で響く発声とする事にも尽力して居た。これも通り一遍の人の術から得た一種の諦観が俺に成させた仕種であった。

 愈々俺の順番が廻って来た様で、その狭い教室内には、それ迄に発表し終えた学生達の熱気や名言・文句が起した感動等が転がっていたが、呑まれちゃ行けない、と足を踏みしめて、一段ずつ階段を上(のぼ)って行く様に躰の熱と冷静とを抑えながら、夢ながらに現実の戦慄を感じ得て自分を左右する程の力を擁する環境の内に俺は佇んだ。まるで組む様にして固く閉じた両腕をゆっくりと伸ばし、両手を教壇の向かって前方の二隅に置いて一人の講師と一人の老教授と、学生達に向けて、俺は自分がすべきとした発表をし始めた。忽ち緊張の嵐が俺を強襲する事と成り、俺は一言呟いただけで、後(あと)は遠くへ置き去った自分の再来を貪り尽して行く時間のドグマの様なものを眺めて居るしか出来ずに、とっくに仕切りを外されていた耄碌への浸透を我が身が味わう事に成るのは時間の問題である事に、漸く、徐々に気付かされ始めて居たのだ。一旦真っ白と成った頭の内のキャンバスには一点一点と仄かに示され得る倦怠の文学内容が雑念への無感を綴じる形で表れていたが、如何にも斯(こ)うにもその一つの項目ずつを繋ぎ止めて発声へと保持する事への努力がその折りの自分に欠けていたらしく、又、ぽつんぽつんと邸内の黄色い灯りが消されて行く如くに仄かに灯った心情さえも誰かの発声が見せた名言・文句と瓜二つの体(てい)に落ち着き、早くその場から去りたい享楽に身を浸した一介の文士が知って居た妄想の成就がこの時の我が身の内に起きて居り、何処と無く遣り切れない届かずの執念の果てと共に、俺は在る事無い事すらも言えないで居た。矢張りこの時すべしと決めた自分の発表内容をメモ書きの内にでも記したレジュメを取り戻したいという思いに駆られた様(よう)で俺は、自分が今立ち尽くして居る教壇から見える位置で在りながらずっと遠くに据えられた机上に在るレジュメに肖りたく焦り始め、そのレジュメの内に自ら自分を住まわせる妄想が手伝う形で一端(いっぱし)のエリートに身を変えようと試みたが、「○○は一三四八年に…(○○には文学作品名が入る)」との文言だけをまるで一つ覚えの様に得意気に繰り返し発表し、その内容を文学作品名を変えて二度も三度も呟いて居た。そのD大で同じクラスメートだった小山君や山尾君を始めとする他のクラスメートから、俺の中学、高校時代迄のクラスメート迄が発表会をして居るその教室内に居たようで、俺はそうした彼等を知った時から余計に気を衒い始めて劣等感に苛まれながら又体裁悪く感じ始めて居た。何度も間違いながら発表し、遂には無言がその時間を占め始める頃合いに成って来ると、その内で立ち尽くした俺を見兼ねた為か同情する様(よう)に、小声で励ましてくれる友人が現れたり、又、初老の女教授は、俺がするべき発表内容に就いて是正した上で教えてくれたり等されて俺は何とか他の学生が見守る中、自分がするべきとした発表を終える事が出来て居た。その発表を終えて教壇を下り、自分の席へ戻って行く途中で緊張も次第に薄らいで居た為か自身が良く見えて、俺は自分を情けなく思い感じて居た。発表を終えた頃から狭かったその教室は、途端に大講堂にでも成ったかの様にまるで果てが見得ぬ程の広間と成っていた。それから俺は教室を出て、出た所に敷かれた廊下をあちこち行き来しながら、まるで自分が今居る場所を確認する様にして歩いたり走ったりし始めた。立ち止まる事無く何処かへ進んで行くと、見知らぬ学生達が自分達に今日課された宿題の内容が記された用紙を持って談笑して居る光景に出会(でくわ)し、はっとした俺は、木山講師が学生に課した期末試験であるレポート課題の内容を記した用紙の存在を思い出して、今自分の手許にそれが無い事を確認した上で、又足を折り返して小さなその紙を探し始めた。その内、日頃からD大に抱いていた学生への不親切な対応に腹を立てて居た自分の情景とそれでもその手落ちとされた学生への対応を止(や)めようとしないD大の存在に対して小さく苛立ち始め、他人に聞えない程度の悪口憎音を放ちながら、その時又、広過ぎる様に感じられた廊下と一つずつの教室を収めた学舎内とを練り歩き、走り始めて、途方の無いヒント探しの旅へ自分を駆り立てたのである。薄く和らいで、淡い自然色の内にほっと姿を晦まして仕舞いそうなそのヒントを探し歩く内に、俺は中学校時に見知った友人である岡井という男子生徒に出会った。この時に見たその岡井はきちんと青い制服を着て居り、その制服の胸のポケットの表面には或る学校の徽章が施され、既にその目鼻立ち、体格からは、高校生である事を俺に教えて居る様(よう)だった。岡井は廊下に設けられたまるで大理石の様(よう)に外景を映し出す程奇麗に仕上げられた腰掛けに腰掛けて居り、少々女性を想わせるその座り方は、又直ぐに俺から離れて何処かでやっている俺とは無関係の楽しい祭事(まつりごと)へ向かって去って行きそうなそんな体(てい)を俺に見せて居り、まるで行きずりの男の様に目前に現れた岡井であったが俺は大事な物を探して居る最中(さなか)でもあり、又見知らぬ土地での事でもあった為に、その岡井が現れた事を嬉しく思え、刹那の内でも自分と一緒に居てくれ、自分の為に役立ってくれ、と俺は岡井に懇願して居た。その声は岡井に聞えなかったようであったが、俺の笑顔が否応無く岡井の心中を解(と)いたようで、密かに友人として気に入っていた俺の真摯だけが岡井の胸中で捉えられた様子で、岡井は俺の前から去らずに居てくれた。しかし俺が探して居た物が何処に在るかについては露知らず、それについては役に立たなかった。良く見るとその岡井も何かを探して居た様子に在り、周りを見ると他にも又何人か同様の状況に在る者達が居た。仕方無く俺はその岡井との面会が成した語らいの楽しさを引き摺りながら又立って歩き出し、その廊下をずっと歩いて行くと今度は、その廊下から少し脇へ入った小さな広場の様な場所を見付け、そこへ入った際に、自分が探して居たレポート課題を記した紙を認めて、「ああ、矢張り木山講師はちゃんと予め試験(レポート)の内容を書き置きして学生の為に用意してくれていたなぁ。」等と感心さえして居た。俺はそこで、何故か知らず内に置かれて在った自分用の荷物(発表に使用した物やその他の私物)を拾って手に持ち、今度は、自分の教室とした、発表会が在った教室とは別の教室へと向かって行った。

 多勢の学生達が犇めき合う階段や廊下を擦り抜けて落ち着いた先は、まるで高校時に見知った小じんまりと纏められた教室であり、向こうの見得ない擦り硝子の様に曇った硝子が嵌め込まれた廊下側の窓硝子を横目で確認しつつ俺はその教室へ入った。まるで新しい学期が始まる当日の朝の様にその教室内に居た生徒達は一様の初々しさを胸に飾って居るようで、俺も漸くその場の雰囲気に強制的に慣れ親しむ事を自分に課した様に物静かに純情を衒う冴えない少年に返り咲き、教室の後方の黒板辺りに掲示された生徒に当てられた席順の紙に目と注意とを遣り、狭く一方的な少年特有の感覚を以て自覚を作り上げ世界観を作り上げ始めて居た。未(ま)だ自立する前の俺に、俺の後方から声を掛ける女生徒が在った。名前を鶴崎有美と言い、又もう一人、その娘の友人である田尻信江と言う女生徒がそのクラス内に居る事を俺はほぼ同時に知って居た。生徒の皆が見える様(よう)にと、やや大きく長方形に仕立てられた真っ白い席順表の内に中々自分の名前を見付けられずに居た俺はその有美から自分が呼ばれる事を無意識の内にも意識の内にも捉えて知って居た様子で、兎に角自分達を何処かへ攫って行きそうな自然が掲げられた虚空の目下で俺は、有美に対してなるべく無礼が無いよう心身共に気を引き締めて居た。そんな中で俺は態と自分に余裕(ゆとり)を又保たせるべく「うーん中々見付からんなぁ、何処に行ったのかなぁー俺の席は…」等とふざけて居た矢先にその有美から声が掛かり、

「○○ーこっちやで、ここ、ここ(○○には俺の名が入る)」

と次は紺色のブレザーを着た鶴崎有美が俺から少し離れた場所で既に席に着いて落ち着いて居り、まるで学期始めの新たな気分を以て臨める授業が始まる前の短い自由時間を、先生が来る迄と純情に身構えながら楽しんで居る少女の笑顔が居座って居るのを、俺は一遍に見て居た。鶴崎は、丁度中央の列の席から二つ目の席に座って居り、それは教壇とほぼ正面と成る位置だった。その一つ前の席(詰り最前列)には田尻の席が在った。俺は鶴崎に呼ばれた後、自分の名前がその彼女に言われた席であるか否かを表の席位置(生徒各位の名前が記されている席位置を示すボックスの中)に記されて在るのを見付け、ああ成る程、としてその席へ向かった。その席とは鶴崎の席の一つ後ろの席だった。俺はその時、何の躊躇いも無く鶴崎が自分の名前を呼んでくれた事と、自分に当てられた席がその彼女の直ぐ後ろで在る為今学期に於いてこれからずっとその彼女を見る事が出来る席で授業を受ける事が出来る事を、とても喜んで居た。俺は密かに鶴崎有美を好いて居たのだ。詰り、片想いだと思って居たのが何やら彼女も自分を好いてくれて居るのではなかろうか、等と考えられた事が又嬉しかったのである。俺は言われる儘にその鶴崎の席の一つ後ろの席迄、教室へ入る前に先程廊下で持たされる事に成った自分の荷物を手にした儘で、すたすたと向かった。鶴崎は持ち前の色白に光る美貌を程好く呈しながら、自分の体(からだ)を俺から見て左方向へと完全に向けた上で自分の机と俺の机の上に自分の左右の肘を置き、若い娘らしい活気を又程好く可愛らしく内に秘めた儘の体(てい)で座って居た。たったその有美の様子を見ただけで俺は、ああこの鶴崎と少しでも密接な関係で居られる、と思わされて嬉しかったものだ。

 俺が自分の席に着くや否や鶴崎は躍動を抑えて居た体(てい)を解き放つ様にして身を翻し、俺に、「○○しよう(○○にはゲームの名前が入る)!」と言い出して、何やら表が書かれた少し大き目の紙を取り出して来て俺の机の上に拡げて置き、確か賽子を四つ用意して持って居た。俺が「あ、うん。」とか言いつつ〝どんなゲームなんやろう…〟等と不思議に思って居ると、教壇の上をぱたぱたとまるでスリッパが発(た)てる様な音を鳴らしつつ走って何処(どこ)からとも無くやって来た田尻が、ぱっと鶴崎から賽子全部を取り上げて転がし、その出た目を見て〝よっしゃ〟とばかりに彼女(たじり)は、鶴崎を教壇の上で俯せに寝かせた上で、そのスカートを履いた彼女のお尻辺りに自分の頭をぐいぐいと減り込ませるようにして埋(うず)めて行った。俺はその時、そうされて居る鶴崎の光景を眺めながらも、先程田尻に賽子を全部取り上げられた際に彼女が見せた幼く可愛らしい、純情な少女の体(てい)を重ねて思い耽って居た事も在り、彼女が外界でどんな事をされて居ても彼女の母体は変らず自分の心中に在るものと決めて掛る程の強さを知った気がして、彼女と契りを結んだ夫にでも成れた様な嬉しさをも感じ取って居た。「あはは、きゃー」等と言って笑いながら鶴崎は寝た儘の姿勢で俺に、「いきなりお尻に顏埋めるのとかはやめよーな」と、田尻に未(ま)だお尻に頭を埋められながらも、恥ずかしがって居そうな笑顔をも見せて言い、何時(いつ)もの様に、彼女の頬はまるで林檎の様に紅(あか)く照りながら、日本人形を想わせて来る黒髪が又、程好く色白の美顔を掲げていた。俺の見知らぬ処でずっとこれ迄交されて来た彼女同士が構築し合った信頼と、それに依る結託の無頼の強靭を前につい辟易しながらも俺は、これからに於ける何やら鶴崎との間に起るのであろう嬉しい出来事を期待しながら、儘に頷いて居た。そのゲームとは、振った賽子が出した目数(めかず)により予め表に記した命令をしても良い条件を以て愉しむものであるらしく、その命令の内容とは一から六まで書かれたその項目の内に記されて在り、その命令の内容を賽子の数に依り当てた人はその該当する命令の内容をそのゲームに参加して居るどの相手に対しても言い付ける事が出来る、といったもので、王様ゲームの様でもあった。俺は、その田尻が鶴崎に対してして見せたパフォーマンスを見て、何処(どこ)かで見た事が在るぞ、等と思って居た。兎に角俺はこれ等の出来事の向こうで佇んで居り、鶴崎有美を改めて美しく可愛らしいと見直して居て、改めて鶴崎有美を夢の内で見てみたい、と迄考えて居た。




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