第2章 珍道中編

第8話 出発!?

 早朝。昇ったばかりの朝日が煌々と橙色の輝きを放つ最中。

 一夜明けて、支度を終えた一行はフェルリアの東門に集っていた。

『ふはぁぁ……』

 エイゼルを含め全員が各々のあくびをかく。

「なぁ、気合い入りすぎじゃないか?」

 そう切り出したのは伸びをするエイゼル。

「いいえ、遅いくらいです。私たちがこの街で何をしたか忘れたんですか?」

 伸びを終えたエイゼルはセリシャの言葉を受け、ぎくりとした表情を浮かべた。

「……忘れてたんですね」

「そういやあったな。そんな事も」

 彼にとって嫌な事だったのか、エイゼルは朝日の方を遠く見つめる。

「なぁ……そんなコトどうでもいいから、早く行かないか?」

 寝ぼけ眼を擦りながらのフリージア。彼女のあくびはとどまるところを知らない。

「待て。その前にこの荷物をどうするかが問題だ」

 我に返ったエイゼルが視線を落とす。その先には、昨晩の内に買い溜め、荷詰めした三人分の荷物があった。

「こういう時こそ、じゃんけんでだな……」

  そう、言い切ろうとした時。エイゼルは両名の女性から嫌悪の眼差しを向けられる。

「あ、はい。わたくしめが持ちます」

 圧力に屈し、エイゼルは荷物を持ち上げようとする。三十過ぎとは言え、エイゼルは元聖騎士。力には幾分かの自負があった。

 あった、が。

 何度持ち上げようとしても、エイゼルの荷物以外が上がらない。

 何回かに分けて瞬間的に力を加えても、持ち上がる気配がしなかった。

「ちなみに、何が入ってるか聞いてもいいか?」

「エイゼルさん、女の子の鞄の中身が知りたいんですか?」

「無いのはプライバシーだけにしろ、エイゼル。」

 厳しいお言葉の数々。

 その数々に心を嬲られ、エイゼルは諦めて腕に聖刻を刻んで荷物を運ぶすることにするのだった。

「それじゃあ、満を持して出発ですっ!」

「れっつ、ゴー」

 嬉々としたセリシャと、未だ寝ぼけ眼を擦るフリージアの後をついて行く形で、一行の旅は始まった。


 しばらくして。

「はぁ……はぁ……ぜぇ……」

 覚束無い足取り、揺れる身体。

「ま、待てぇ……。待てぇい……!」

 疲労に困憊した精神と、喫煙で衰弱した肺。

 口で呼吸しているせいで擦り切れた喉は、声を発する事さえ難しくなっていた。

「み、道が……道が違ぁう……!」

 しかし、エイゼル必至の叫びは、前を行く2人の可憐な少女には届かない。


「なぁ、昨日の下着、メッチャエロかったな?!」

「嫌ですよ。私、あんな面積の狭い下着なんてつけませんからね?」

「エー?なら、面積がそもそも無かったら着てくれるか?」

「あの、何も隠さない紐だけの奴ですね?うーん、あれならまぁ……」

「おー!?アレなら着てくれるか。……じゃあ今度金に困ったら絶対着てくれよな!」

「フリージアさん、何だかエイゼルさんに似てきました?」

「違う、そんなコトないぞ。アイツが、ワタシに、似てきたんだ」

「はいはい、そういう事にしておきますよ」

「ア!信じてないだろ?!」

「どうですかねぇ?うふふふふ……!」

 足も口も止まらない二人。

 話に熱中し、のめり込み過ぎて遂には前すら見なくなった二人は気づいていなかった。

「とっ……!止まれぇ……!」

 そして、一行の中でエイゼルだけが気づいていた。

 獣道に近い捨てられた林道、その傍らにひっそりと刺し立てられた一つの看板。

 ''この先魔窟にて注意されたし!''

「ぜぇ……ぜぇ……おぇ」

「止まれぇ……!馬鹿どもぉ……!!」


 果たして、一行の命運や如何に。

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