浪の隨、艦はゆく
青海⚓︎
六月、爆ぜる、馳せる思い
──戦艦陸奥に心あらば、必ず国防の重責を果たすだろうと思います。陸奥の心は、我々の心であります。どうか永い眼で……
1921年11月22日。ぼくが竣工したのを、みんな喜んでくれた。世界最強の戦艦だ、国の誇りだって。造られている途中で、廃艦になりかけたから……もしかしたら、ぼくの建造に関わった人からすれば喜びも一入だったのかも。兄さんは勿論のこと、皇后陛下も、皇太子様も、軍人さんも、国のみんなも、喜んでくれた。
でも。でもね、ぼくは正直、ちょっと困ったんだ。だってぼくが
でも結局、戦争は始まった。いや、寧ろこの国から、始めたのかもしれないね。…ねえ、不思議だと思わない?
どうしてかなぁ。唯の軍艦に判った事じゃないのかも知れないけれど、この国の行く末にどこか昏いものを感じたのは、きっとぼくだけじゃなかったと思う。
──でもね
罰当たりかも知れないけれど、ぼく、実はちょっとワクワクもしてたんだ。
今はその座を新しくできたこに譲ったけど、元は世界最強と呼ばれた
ほんの少し、ホントに少しだけだよ? 少しだけ、楽しみだった。
同じ戦隊になることはよくあったし、交代で聯合艦隊の旗艦をやった
だからあの日、あの時、修理を終えてそろそろ戻ってくるはずの兄さんに旗艦ブイを譲るため、移動しようとした時。
三番砲塔から噴き出てきた煙に、吃驚した。
いきなり頭が痛くなって、くらくらしてきて。ぼく、どうしちゃったのかなって。
さっきまでね、すぐ近くに停泊してた扶桑さんとお話ししてたんだ。けどその時は、こんなの感じなかった。どんどん視界が暗くなっていって、端っこからかけていって……扶桑さんの焦ったような声を聞いた気がしたけど、ぼくはなんの返事もできなかった。それどころじゃなかったんだ。
これは沈むなって、なぜか確信があった。あんまりにも急に終わりが見えて、動転してた。考えがまとまらなくて、ぐちゃぐちゃで。まだ死にたくないって思いだけが、ぐるぐる廻った。それなのにね、兄さんのことを思い出したら、不思議と冷静になれた。ぼくは兄さんにまだ何も返せてないな、って……。
ほら、ぼくなんていつも助けられてばっかりだし、何かあった時の決断力も、到底敵わなかった。それに……まだ一緒に戦えてなかった。兄さんが困ってた時に助けてあげる事だって、まだ出来てない。それなのに、ぼくはもうあのひとの傍にはいられない。
悔しいなぁ、もっと隣にいたかったのに。
それが、それだけが…ぼくの唯一の心残りだ
──先に逝く不孝をどうか赦してね…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます