第30話 お光様が危篤、和ちゃん病院に…

金子「だから信心が足りないのよ。お布施とかがね。あたしの身形を見なさいよ。このダイヤの指輪とかイヤリングとかをさ……どれだけご利益いただいていると思ってるの?株やらFX(為替取引)やら不動産投資やら、この前やり方教えたでしょ?」

為子「うーん、だから3株買ったわよ、うちの和子の会社の株をさ。だけど……」

金子「3株!……ったく。それに三流商事なんてあんな中小企業の株……(和子を見て)あ、いや、だ、だから、それもいいけどさ……」

和子「三流商事で悪うござんした」

金子「いや、だからそうじゃないのよ、和ちゃん(誤魔化し笑いをして)そりゃ今でこそ三流商事って云う小さな会社かも知れないけど、あなたが入信している以上、見ててごらんなさい。そのうちに二流、一流と必ず大きな会社になってくから。ね?ま、とにかく今は一緒に病院へ……」


奥の襖を開けて良夫が出てくる。


良夫「あー、大きな声で目が覚めちまった。誰かと思ったらやっぱりあんたか……母さん、腹減ったよ(台所へと向かう)」

金子「(憎々しい顔をしながら)あ〜ら、良夫さん。さっきはどーもだったわねえ!(小声で)よくも切ってくれたわね……いま、奥で聞いてたでしょ?私の話……娘さん、和ちゃんをお借りして行くわよ」

良夫「ダメだよ!こんな時間に若い娘を……とんでもない話だ!」

金子「大丈夫よ。帰りは私の旦那に車で送らせるから。心配要らないわ。ね?」

良夫「プアー、それが一番危ないんだ」

金子「一番危ないってどういうことよ」

為子「まあまあ、金子さん。和子は明日も出勤だしさ、勘弁してやってよ。病院へは今度の日曜でも行かせるからさ」

金子「なーに云ってんのよ、あなた。お光様は今日明日にでも危ない状態なのよ。危篤なのよ。さっき矢切の渡し病院の先生がそう言明してたんだから。最後にせめて一目だけでも、愛弟子の和ちゃんに会わせてあげたいじゃない?!」

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