destinight aggression

恥目司

Too dawn all curse 〜死神〜

 やらかしてしまった。

 そう考えた方が良い。


 今日はクソみたいなポップコーンを食ってクソみたいな映画を見た。


 ケツを拭いて1日を終えた昨日よりかはいくらか耐えられたが、特に感動もない映画を人間の活動する約8分の1を削ってまで見るほどではなかった。


 震える左手を抑えながら腕時計を見る。

 2200。

 

 あと2時間で1日が終わる。終わってしまう。

 明日が来る事は嬉しくともなんともない。

 むしろ終わらないで欲しい。


 また、死神が来てしまうから。


 手が震える。その振動と共鳴して足も震え出す。


 今日よ、終われ。矢の如く早く早く。


 自家撞着なんて関係がなかった。

 ダメだ、死神はもうすでにそこにいる。


 クソ、クソ、命は一つしかない。

 終わりだ。もう全てがお終いだ。

 

 ハリボテの遺影。

 どこかに存在する墓標。

 630メートル先の三角点。


 それが彼の走馬灯。


 ダメだ、ダメだ。早く早く。

 死神に見つかる前に。


 ああ、ああ、ああ。


「なに、ボサッと突っ立っとんねん」

 路地裏、背後から現れたのは巨漢。

 2メートルをゆうに越す背の高さと、まるで大木が動いていると見間違えるほどに太い体躯。

 そして低い声から繰り出される関西弁が、その姿を

 切り株のような首にはクレーンの鎖をネックレスみたいに掛けている


 現れた。死神が。


 死神といえば巨大な草刈り鎌を持った黒外套の骸骨のイメージが強いが、ここ“シティ・NNS”では違う。


 この巨漢筋肉ダルマが、死神だ。

「お前さん、ヤク切れたんやってな?まだ続けるんか?」

「ああ、ああ、ああ!!ほしい!!ヤク、欲しいよ!!」

 もげるぐらいに首を縦に振る。死神はその姿を見て愉快そうに笑っていた。


「ほんなら、ココで1500万。置いてけや」

 愉快に笑っているのは

 達磨のような厳めしいその目は決して笑っていなかった。


 死神は必ず、この場のみで金を取り立てる。


「無理です!!無理無理!!家族も捨てて家も車も捨てて全部捨てたのに1500万なんて……!!」


 断れば、必ず——

「あぁ!!?無理やと!?テメェがこのヤク欲しいんやろがい!!」

 死神はガシリと頭を掴んで、アスファルトの地面へと一気に埋め込んだ。

 割れる頭蓋骨。弾ける血液。

「テメェが!!」ゴツン

「ヤクの!!」ガツン

「快楽で!!」ゴツン

「ここまで!!」ガツン


「堕ちてきたんやろぅが!!」

 その一撃がトドメとなった。

 

 アスファルトに濁った赤でぶちまけたまま、ピクリとも動かなくなった。


「あ、またやってもうたわ。せっかくのカモネギやったんに、もったいないことやったなぁ」


 そんなことをボヤきながら、死神は夜の帳の中へと消えていく。

 頭部の弾けた死体を残して。


 それでも、この戦場シティはいつも通り。


 日常だ。

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