魔王という役割を

リンゴ売りの騎士

第1話 ゲーム開始


 俺は今、歓喜に震えている。



 「……!!」



 手を握りしめれば確かな感触を感じ、柔らかな風が頬を撫で木々の間を通り抜けていく。耳を澄ませば鳥類の鳴き声がどこからか聞こえ、目の前の景色は現実と相違ない。


 昨今のVR技術のレベルの高さに、俺は感動を通り越してただ圧倒された。



 「すげぇ……」



 正直、舐めてた。


 たかがゲームだと思い込んでいた過去の俺をぶん殴ってやりたい。そう思わされるほどの出来だ。



 「ゲームってここまで進化しているんだな……」



 ゲーム自体を面白いと感じなくなったのは、いつ頃からだっただろうか。面白いと評判のゲームでもすぐに飽きて、長続きしなかった。


 それでも今回俺がゲームを始めたのは、友人にしつこく勧められたからだ。『一度だけでいいからやってみろって!!』と会うたびに言われ続けたので、今日仕方なくやってみたわけだ。


 俺はひとしきりの感動を味わった後、友人との待ち合わせ場所に向かう。

 開始場所をウロウロしているだけでいいらしいが、こんな森の中を友人は見つけられるのだろうか。まあ、何かしらのアイテム等があるのだろう。


 説明書や設定資料を読んで、時間をつぶすことにする。



 「メニュー」



 そう唱えると、薄い板が目の前に現れる。


 スマホの画面のような作りであり、沢山の項目が並んでいる。画面をスクロールさせていくと、【オプション】の【説明書・資料】の項目を見つけたのでタップする。



 「……よくもまあ、こんだけの設定を思いつくもんだ」



 この世界で登場する国や人、それぞれの関係性や種族に組織まで事細かに記載されている。

 流石に細かすぎて読む気が失せたので、操作方法などの項目を探してタップする。



 「……資料に比べてだいぶ少ないな」



 内容は、簡素な絵と軽い説明のみ。

 ファンタジーなゲームでありがちな魔法やアイテムなどは、口頭でそれらしいことを言えば使えるらしい。


 つまり操作らしい操作は必要ないということだ。



 「なるほど、俺みたいな浅いゲームプレイヤーには優しい設定だな」



 ふむふむと確認しながら時間をつぶしていると、突如耳をつんざくような悲鳴があった。




 「いやあぁぁぁぁっ!! 誰かっ!! 誰かいないのっ!!」




「……うるせぇな……甲高い声は耳に響く……音量調節の欄ってあったか?」



 友人がまだ来ていないうちから、イベントが発生してしまった。

 このままスルーしても問題は無いだろうが、今まさに襲われている女と遠目で目が合ってしまった。


 いくらゲームとは言え、このまま見て見ぬふりをするのはあまりいい気分ではない。



 「ゲームを楽しむなら、イベントには関わっておいた方が良いよな」



 そう決断すると、俺は声のした森の方へと駆け出した。


 ――そこで目にしたのは、三人の男に詰め寄られている一人の女性だった。


 衣服は乱れ、煽情的な格好になってしまっている。女はやって来た俺の存在に気が付くと、声を張り上げて言った。



 「助けて下さい!! お願いします!!」



 第三者が現れたことを匂わせるそのセリフによって、男三人は後ろを振り向く。



 「なんだぁ? テメェ?」


 「失せろや、おい!!」


 「ったく、邪魔すんじゃねーよ」



 俺の存在を確認した彼らは、好き勝手にものを言う。

 そんな彼らに俺は一つ溜息をつき、苛立ちながら声を出した。



 「はぁ!? ざけんな!! クソ!! ゲームキャラ風情が怒鳴んじゃねーよっ!!」



 「あ、ああ!? 何言ってんだおめぇ」



 誰もゲームキャラ風情に怒鳴られたくなんて無いだろう。当然俺もその一人なので、つい声を荒げてしまった。


 しかし、随分と人間的な受け答えをするAIだ。ゲームのクオリティの高さを感じる。



 「……ふぅ、まあいい……それよりもこの状況だな」


 「お、おい」



 男Aが何やら言っているけど、無視一択。いちいち相手してられない。


 さて、俺の購入したこの作品は18禁バージョンだ。そうでないバージョンも発売されてはいるものの、ストーリー展開を濁したり、あからさまな行為の禁止など制限が多いのだ。


 これほどの作品での18禁バージョン。嫌でも期待が高まるというものだ。



 「どれ、邪魔したな。さっさと続きを見せてくれ」



 男三人はそんな俺の様子を見て、「なんだよ、焦らせやがって」「おめえも同類かよ」みたいなセリフを口々にしている。


 こんな奴らからの同類認定は腹が立つが、ゲームだからと飲み込むことにした。

 実際、ゲームでなければ同類には違いないので黙っていることにする。


 女はそんな俺のセリフに顔を蒼白にして「え……」という声を漏らしていた。女からしてみれば助けを期待して声を掛けたのに、裏切られた形になったわけだ。


 そういう顔にもなるだろう。


 よく作り込まれたキャラに、俺の期待は高まる。つい、にやけてしまう。



 「へへ、ギャラリーもいることだし、いっちょ派手にヤるぜ」


 「多めに媚薬持ってきて正解だったなぁ」


 「ヒヒヒッ!! 滾ってきた」



 「い、いや」



 男三人が女の衣服に手を掛ける。ビリビリと音を立てて衣服は裂かれていき、下着同然の格好になった。


 淡い色合いの下着に包まれた大きな双丘と、瑞々しい柔肌を持つ脚は男の劣情をさらに駆り立てる。



 「もう、我慢できねーよっ!!」


 「ああ、たまんねーぜっ!!」


 「もうここで頂いちまってもいいよな? ギャラリーも望んでいることだしよっ」



 「……めて……やめて」 



 女性が蚊の鳴くよな声で止めるように訴える。その悲壮感に満ちた表情に、やっぱ助けるべきだったか? と思うもせっかくの凌辱ショーだ。黙って見ていることにする。他の男たちは当然ながら、微塵もそのか細い声に耳を傾けていない。


 最初は誰がヤるかでもめているくらいだ。



 (……ん? ちょっと待て)



 俺はこれからのショーを特等席で楽しもうと決めたわけだが、冷静に考えてみれば何もAIキャラ風情にお楽しみを譲ってやる必要はないことに気が付く。


 せっかくの18禁プレイなのだ。自分が気持ちよくなければ勿体ない。



 「へへへ、一番槍は俺だぜ……へぶっ!!」



 今まさに女性の下着に触れていた男を背後から手で地面に叩きつけた。油断していた分ほとんど抵抗もなく倒れてくれた。


 ゲームの世界だから、もしかしたら攻撃が当たらなかったりキャラに触れられなかったりするかもと考えていたが問題ないようだ。



 「は!? テメェ!! 何のつもりだ!!」


 「ギャラリーじゃなかったのかよ!!」



 俺の行動に、男二人はいきり立つ。女は僅かな希望を持って顔を上げた。



 「いやなに、なんで俺じゃなくてキャラ風情が楽しんでんだって思ってな。凌辱されるシーンは好きだけども、観客席は今じゃなくても良いよな? って思ったんだよ」



 「はぁ!? コイツ、何言ってんだ?」


 「チッ、順番くらい守れねーのかよっ」



 俺のセリフに、男たちは腰に差したナイフのようなものを取り出した。


 女は俺のセリフを聞いて、さらに絶望したように顔を伏せた……そりゃそうなる。 

 ホント、素晴らしい出来だ……後で開発者について調べてみよう。


 武器を構えた男が二人。

 現実では即撤退の一択だが、所詮はゲームの中の世界だ。


 さて、せっかくのゲームの世界なので普段できないことでもしようか。俺は某アニメのセリフを言ってみることにした。



 「武器を抜いたからには命かけろよ? ソイツは脅しの道具じゃあないぜ?」



 「「……っ!!」」



 息を呑んで固まる二人。


 彼らの態度に気分を良くするも、俺は後からくる恥ずかしさで一杯になった。

 間違いなく黒歴史を刻んだ気がする。


 未だ来てくれない友人がここに居れば、笑いをこらえながら俺の姿を見るに違いない。


 いや……よそう。

 こういうのは恥ずかしがったらダメなのだ。


 俺は某アニメのキャラになりきって、相手を見つめる。



 「……チッ、一筋縄ではいかねーな」


 「ちょっくらマジになんないとな」



 そう言って、男二人は完全に狙いを俺に定める。

 牽制するようににじり寄ってくる様からは、荒事に慣れている感じがした。


 下手に警戒されて難易度を上げてしまったので、あまり人のセリフをパクるもんじゃないなと思った瞬間だ。



 (さて、どうやって切り抜けようかね)



 とはいっても所詮はゲーム。

 これを機に、魔法を試してみても良いかもしれない。



 (確か説明には、思っただけで出来るとあったな)



 イメージが重要なのかもしれないと、俺は敵を縛り付ける鎖のようなものを想像した。手の動きに合わせて動き、手をゆっくりと握る程に締まっていく……そんな鎖だ。


 すると、男二人の足元から真っ赤なものが伸びてきた。



 「な、なんだっ」


 「まさかお前、魔術師かっ!?」



 男二人は突然のことに慌てふためく。


 女はそれを見てギョッとしたような顔をした。

 このやり取りを機になんとか逃げようとしていた動きも完全に止まる。



 (なるほど、こんな風になるんだな)



 俺は長く赤い鎖をユラユラとさせながら、男二人を拘束すべく開いていた手を握りしめる。



 「ふぎゃ!!」


 「べっ!!」 



 あっという間に二人を芋虫状態にして、意識を刈り取る。

 ゲームらしい技が使えたことに、俺は少年みたいな感動を覚えた。



 (ゲームと分かっていても、自分の任意で出せるファンタジー的な技には感動するな。このゲーム、やはり最高か)



 自分の使った技に惚れ惚れする……さて。



 「邪魔者を片付けたところで……お楽しみタイムといこう」


 「ひっ!!」



 そう言って女の方に顔を向けると、軽く悲鳴を上げられた……ふむふむ実にそそる。こんな行為は現実では確実に犯罪だけども、これはゲームの世界。


 しかも18禁バージョンでもあるので、なんの問題もなく好きに振舞えるという訳だ。


 そういえば昔やったゲームでは、いつも悪役プレイだったなぁと感慨深げに思う。  

 俺は女に駆け寄り、両腕を木に当てて固定した。



 「……ひぐっ」



 手を拘束すれば当然、女と顔を近づけることになる。女性特有の甘い香りと女の綺麗な顔が良く見える。



 ペロッ



 「ひゃっ」



 つい一舐め。

 顔が綺麗すぎるからか、色々と滾ってしまったようだ。


 俺という存在を身近に感じると、女は堪えきれずに鼻をすすりながら泣き始めた。



 (相変わらず凄い演出だな……匂いも表情も、まるで本物だ)



 本当に凌辱しているような気分になり若干の罪悪感を感じるも、ゲームだからと思って凌辱プレイを楽しむことにした。


 

 (さて、お次はこの大きな胸だ……現実と相違ないことを期待するぜ)



 当然その先は、女の身体を味わい尽くすつもりだ。

 ゲームなので、妊娠させることもない。好きなだけヤり捨てに出来る。



 (オ〇ホよりも完璧なオ〇ホかもしれねーな、感じる感触によっては)



 俺が邪魔な下着をはぎ取ってしまおうと、下着に手を掛けた時だった。



「そこまでだ!!」



 『勇ましい』

 そう形容するような声で、俺のお楽しみタイムは邪魔された。

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