第4話 月 日 (うんこのチャンス)

朝の電車で、僕が座った右斜め向かいに、膝にあざのある女子中学生か高校生が懸命に参考書を読み込む近くで、爆睡している20代くらいの金髪男性がごろりと床にスマホを落とした。これまた近くにいたおじさんが「兄ちゃん。落ちたよ。携帯落ちたよ。」と拾って兄ちゃんに渡したら、兄ちゃんは目を覚ましたが礼を言うでもなく。無作法だからか。寝起きだからか。機嫌悪そうに着いた駅で横暴に降りた。


電車の中で他者と関わるというそれ自体、見えないリスクが内在する限り、丸腰で親身や情を表現するのは中々難しいかもしれないな・・・と社会の繋がりについて色んな事を考えてしまった。現場の駅に着くまで。


そう。今日は現場の作業であった。「現場の作業」という名のお仕事である。その"現場"というのを大雑把に言うならば、部門や種目はシステムエンジニアとなる。もっと細分化されたスキルを持ち合わせてもいるがあまり興味を持たれるむきもいないはずなので簡略。


自社で仕事をすることもあれば、現場に赴きお客様や他の会社のエンジニアに混じってお仕事することも多い。稼働の関係上、現場Aと現場Bを兼務することもあるし、基本的には複数のお客様に対応する形となる。これらの構造的な話はエンジニア界隈では言わずと知れた業界不文律の一つで、珍しい要素は何もない。今日、ここの現場は初めての来訪。


とは言え、まだ慣れていない現場で東西南北もビルの方向もよく分からない。どの階に何があるのかもよく分かっていない。そもそも今日、最寄り駅に着いてからもかなりまごついた。


"現場"での様々な業務のルール、規約、テンプレートや慣例、暗黙の決まり事について然るべき担当者が100パーセント教えてくれる訳ではない。よほど親切な人であっても事細かに説明されるのは稀である。なので、困った事が起きたらその都度、質問し確認する、というコミュニケーションスキルがまず必要である。かくいう僕も、よく知らない人に質問するというストレスたるや。


また、ざっくり与えられた資料から多くを読み解く読解力も必須のスキルで、これは経験がものを言うところであろう。これも丁寧に教えてくれる人はいないので都度、不明点を質問する。


全然知らない大勢の人たちと、だだっ広いフロアの中の、とある席に混じって仕事をするのも、いつもながら払拭されることのない緊張に塗れている。笑顔も強張る有様は毎度のことなのである。


朝からコーヒーをがぶ飲みした結果、頻繁にお手洗いに行く。お手洗いの大きい方は赤いパトランプみたいなのがドアの上部についている。便意を催し、個室に籠り便器に座ってスマホをいじっていた。


すると5分もしないうちに「カッチッ!カッチッ!カッチッ!カッチッ!」という音とともに上の隙間から赤いランプが点滅している!カチカチという警告音はすごくでかくて、座ってるこっちを焦らせてくる。5分も居ちゃだめなのか?日本国の排便時間の平均は5分を超えると思うんですけど!


恐らくは携帯いじったり等のサボり要素をこのアラートで抑止させようという意味合いと思われるが、それにしても早くない?っていうかこのシステムなんなん?正直、この警告音は犯人扱いされた気持ちになる。


うんこのチャンスは短いようだ。

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