第49話 密偵来訪
遊人≪ゆうと≫を保育園に迎えに行った帰りに、ハウスの前でかのんちゃんのお友達と鉢合わせした。確か、先週末にお泊りに来ていた左右田彩夏≪そうだあやか≫ちゃんだ。
私は、午後四時までの軽勤務で、心療内科医の仕事を再開したところだ。時間が早いので他のハウスのメンバーはまだ仕事から帰宅していない。
かのんちゃんにも連絡していない、抜き打ちアポなし訪問みたいだ。これはちょっと警戒した方が良いかも。
ここじゃなんだから、まあ入ってということでリビングで話をした。
彩夏ちゃんが遊人をあやしながら、不躾≪ぶしつけ≫な質問を投げてきた。
「遥さん、シングルマザーなんですよね。この子のお父さんとは、その、別れちゃったんですか」
「いや、そもそも結婚していないのよ」
話題が急に淳史くんに跳んだ。
「遥さんは、淳史さんとは昔っからの知り合いなんですか」
「うん。彼が、まだ高校生の頃、私が診察したのよ。その頃の彼、一途な高校生で、かわいかったんだから」
「淳史さんは、あんなに元気そうなのに、なんの病気だったんですか」
「あのね、医者には守秘義務というのがあるの。それは教えて上げられないな」
「それからずっとお付き合いを?」
「ううん、その時は患者と医者の関係でそれっきり。三年前、私の住まいが火事にあったときに偶然再会して、ここに住ませてもらえることになったの」
「ところで、遊人くん、なんか、目元とか、淳史さんに似ているような気がするんですけど」
「え、そ、そうかな。偶然じゃないかな」
「遊人くんのお父さんはどんな人なんですか?」
「え、え、誰だっけな。ほら、その頃、私、やんちゃしてて、色んな人と付き合ってたから」
(私ったら、とっさになんて下手な言い訳を、、、)
「え、女医さんが、三十代半ばになって、やんちゃですか」
「そう、私、遅咲きの男好きなのよ」
(いやああああ、私、何言ってんの!)
遥さんは、遊人くんの父親が誰だかわからないと言ったけど、明らかに言い訳は不自然だった。遊人くんは、遥さんが淳史さんと密通してできた子に違いない。
淳史さんったら、かのんちゃんという婚約者がありながら、あんな年増の女の人と!
それにしても、私はとんでもないことに気が付いてしまった。これはとてもかのんちゃんには言えない。
この秘密は墓場まで持って行こう、私はそう心に決めた。
遊人のおむつを替えていると、かのんちゃんが来た。
「ねえ、遥さんが最初に淳史と会った時って、いくつの時だったの?」
「淳史くんが十七歳で私が二十九歳の時。彼が私のクリニックに患者として来て、なんだかんだで、その時に最後までしちゃったの」
「私と遊人くんの歳の差といっしょだね。ということは、私の相手、淳史じゃなくて遊人くんもありかな」
かのんちゃんは遊人のおちんちんをつつきながら言った。
「遊人、お父さんみたく大きくなってね」
「でも、かのんちゃん、そうすると私が義母になっちゃうよ」
「遥さんがお母さん! それ、いいかも」
「そうなると、淳史は義理のお父さん、もし美和さんと淳史くんが籍を入れたら、美和さんは義理の継母かな」
「ややこしいなー。でも、みんな家族だと思っているから、細かいことはどうでもいいや」とかのんちゃん。
「そういえば、一昨日、彩夏ちゃんが来てたよ。何か、探りに来たって感じだったよ」
「彩夏ったら、私にも、このハウスのことで、いろいろ言ってくるのよね」
かのんちゃんは冷たい笑みを浮かべながら言った。
「いいわ、そのうち、美和ねえさまと私で、あの子の身体によく言って聞かせるから」
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