第40話 一件落着

 翌日の土曜日、大塚陸人さんと上野の美術館に行ったが、昨晩の真優のことばが頭の中でぐるぐるしていて、周囲のことはほとんど頭に入ってこなかった。


「ねえ、美和姫、ここまで上の空だと、さすがに俺も傷つくんだけど。今日は解散にしよう」


「ごめんね。ありがとう。陸人さん」




「「GIRI GIRIで愛し合いましょ 嘘も燃えつくして夢にしてー♪」」

「OH YEAH!」「YEAH YEAH!」


 大急ぎでハウスに帰ると、かなり酔っぱらった様子の淳史とひなたが、アニメの主題歌を熱唱していた。


「あ、淳史先生、美和ちゃんが帰って来たよ、美和ちゃんも一緒に歌おー」

「そだー、美和も歌えー、おろっ」


 こんな時もマイペースの彼がちょっと憎たらしい。私は一目散に彼に駆け寄り、抱き着くと、キスをした。

「敦ちゃん、大好き!」



 授乳期がようやく終わった遥さんと、久々にリビングでワインを飲んでいた。

 デートを途中ですっぽかして帰って来た美和ちんは、当番のひなたが酔いつぶれたのをいいことに、今、ちゃっかり淳史と復縁の愛の儀式の真っ最中だ。


「やれやれ、ようやく元の鞘に収まったか。それにしても今日の美和ちん、随分と激しいね」と私。


「ここんとこのごたごたを全部上書きしちゃうつもりで。淳史くんが本気で頑張ってんじゃない?」と遥さん。


「本気の淳史って、ああ、もう、想像するだけで濡れてくるわ」


「それにしても淳史くん、いい男になったものね。初めてあった頃はエッチがうまいだけの高校生だったのに」


 本人がどう言おうが、美和ちんに淳史以外の男なんてありえない。彼女自身が自己嫌悪に陥って、変に意地になっているだけのことだ。

 引っ込みがつかなくなって出かけてはしたものの、彼女は気もそぞろにデートを切り上げて帰ってくるはず。


 でも、帰ってきたところで、ちゃんと淳史と話ができるかどうか。お涙頂戴の過度の謝罪は淳史の望むところじゃないだろうし、意地を張ったり、逆切れして破綻なんてことも、今の美和ちんだったらやりかねない。


「だから、わざと酔っぱらって、美和ちんの帰りを待った」


「そして最後は能力を使っての全力エッチで、美和ちゃんの頭の中を真っ白にしてしまう」


「ん。遥さん、能力って?」


「なんでもない。こっちの話。結局、私たちが淳史を管理しているようで、このハウス、淳史を中心に回っているんだよね」


「遥さん、彼と結婚するチャンス、手放しちゃって後悔してない?」


「ぬかせ。そっちこそ、昨日の『こんな浮気女やめて私にしなよ』ってあれ、本音でしょ」



「いい男に成長した淳史くんに」


 私がワイングラスを掲げると、遥さんがグラスをあわせ、カチンと鳴らした。


「「乾杯!」」



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