第28話 災厄襲来

「かのんちゃんがここへ来るんだ。大家さんだから、みんなも挨拶してね」

 

 その週末の土曜日の昼下がり、黒塗りの高級車がハウスの前に停車し、運転手が恭しくドアを開けると、小柄な女性が車から降り立った。


 小柄というか、子供だった。

 それも、亜麻色の髪にとび色の目の、とびきりの美少女だった。


「淳史っ!」

 美少女は、玄関に出迎えに出ていた敦ちゃんに駆け寄ろうとしたところで、彼の横に並ぶ私たちを認め、その歩を止めた。


 リビングに場所を移し、淳ちゃんが私たちを紹介すると、彼女は不機嫌さを隠そうともせず、自己紹介を返した。

「笹塚かのん、このハウスのオーナーよ。よろしく」

 

 このシェアハウスは、元々は笹塚家具の社員寮だったそうで、老朽化して使われなくなっていたものを、彼女が敦ちゃんのために買い取って、個人的に賃貸契約を締結しているそうだ。


「あの、笹塚さんは、随分お若く見えるけど?」とおそるおそる遥さんが尋ねた。


「小学校の六年生よ。文句ある?」


 自己紹介が終わると、笹塚かのんさんは敦ちゃんに説教を始めた。

「様々な分野の若手を集めて切磋琢磨したいっていうから、将来のお婿さんの成長のためと、マミーと相談してここを提供したのに、女ばかり4人も集めて、いったいなにを切磋琢磨をしているのかしら?」


 さらに私たちを一瞥して、

「言っとくけど、あなたたちに嫉妬してるわけじゃないわよ。淳史のことなんてたいして好きじゃないんだからね」

ツンデレだ! ツンデレの小学生を、リアルで初めて見た。


「まあいいわ。淳史、私が担当する予定の新規事業のプレゼン資料だけど、concept

はあれでいいけど、marketのpotentialityについて、category別にもう少し踏み込んでみてくれないかしら」

 小学生が仕事の話をしている!


「もう少し具体的に打合せしたいから、、淳史の部屋へ案内してちょうだい」


 リビングで待機する私たちに、敦ちゃんの部屋から二人の話し声が聞こえてきた。


「それでね、かのん、運動会のリレーの選手に選ばれたんだよ。すごいでしょ。淳史は観にきてくれる?」

「うん、たくさん応援するよ」

「えへへ、かのん、頑張るね」


「なんだ、やっぱり小学生じゃない」

 安堵する我々をしり目に、一人遥さんは警戒心を強めていた。


「あのツンデレぶり、間違いなく彼女は淳史くんに恋している。まだ第二次性徴が始まったばかりだけど、やがて大人の身体になって性欲が芽生え、私たちの関係を知ったら、あの子はきっと権力を使って私たちを排除にかかるわ」


「それじゃ私たち、どうすればいいの」

「先手を打ってこちら側に巻き取るしかないわね」





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