第15話 偶然再会

 幸せな共同生活に取り返しのつかない波風を立ててしまったのは、他ならぬこの俺だった。


 早めに帰宅した俺が夜の報道番組を観ていると、臨時ニュースが入り、見覚えがあるマンションから煙がもくもくと出ている映像が流れた。それは、忘れもしない、冴島遥≪さえじまはるか≫さんが住んでいたマンションだった。


 遥さんと別れたのは、彼女に将来を約束した彼氏ができたからだ。もう結婚してこのマンションには住んでいないに違いない、そう思ったが胸騒ぎが止まらない。

 俺は家を飛び出し、彼女との思い出が詰まったマンションに駆け付けた。


 20分ほどで現場に到着すると、火災は鎮火していたが、周辺は消火作業を終えた消防車や消防隊員、焼け出された住民や野次馬でごった返していた。

 

 「遥さん!」

 俺は人ごみの中に普段着で呆然とする遥さんを発見し、駆け寄って声をかけた。


「淳史くん? どうしてここに?」

 

 びっくりして俺を見つめる遥さんに、TVのニュースをみて駆け付けたことを告げた。

「そう、わざわざ来てくれたんだ、ありがとう」


「これからどうするんですか」

「出火したのは上のフロアだけど、消火作業で水びたしだし、煙の臭いで当分住めないかな」


 とりあえず近くのビジネスホテルに予約を入れたそうで、送っていこうとしたが、それは不要と遥さんは一人でホテルに向かった。

 何でも力になるから、何かあったら必ず連絡をくださいと何度も念を押して俺は帰路に就いた。


 彼女の左手の薬指に光るものはなかった。このマンションに住み続けていたということは今でも独身なのだろう。

 将来を約束する人ができたと言ったのに、離婚したのか、結婚しなかったのか、そもそもが自分を遠ざけるための嘘だったのか。


 彼女との別離に、大学入学当初こそ大きな喪失感を抱いたが、やがて訪れた三人との幸せな日々に、彼女のことを思い出すことはほとんどなくなっていた。

 それなのに、思わぬ再会に、俺の心は未だに遥さんに囚われていたことを自覚させられた。


 翌日の金曜日、遥さんから連絡があった。俺は仕事を早々に片付けて、彼女が宿泊しているホテルに向かった。


 ホテルのロビーで落ち合った遥さんは、開口一番、俺にこう告げた。

「今、私の身体が淳史くんを求めていること、もう、ばれちゃっているよね、あなたはそれが見えるもの」

 

 俺は黙ってうなずいた。

「それなのに私は連絡をしてしまった。すごく恥ずかしいわ」

 

 遥さんは、意を決したようにことばを続けた。


「昨日は思いがけず淳史くん会えてすごくうれしかった」


「自分から別れておいて、7年間も音沙汰なしで、自分でも虫が良さすぎるって思うよ」


「淳史くんの今の生活を邪魔するつもりはない。火事のことが落ち着くまででいいから、私はあなたを頼りたい。私のことを受け入れてくれないかな」


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