第8話 傍若無人≪ぼうじゃくぶじん≫

 ひょんなことから、カテキョの教え子のいとこのお姉さまとお酒を飲みに行くことになった。


 遥さんと別れてからは、関係を持ったのは一夜限りの女性のみ。普通の女性とのお付き合いとは縁のなかった俺は、このデートを少なからず楽しみにしていた。


 ところが、初対面の清楚なイメージとは打って変わって、ダメージジーンズにTシャツというラフないでたちで現れた金子真優≪かねこまゆ≫は、その実態も第一印象と違ってとんでもない女だった。

 

 彼女の大学からほど近い高田馬場で、彼女がよく行くという居酒屋に誘われた。


 とりあえずナマで乾杯し、ジョッキが空になるまでしばしの歓談の後、さて次は何を飲みましょうかという話になった時だった。

 彼女はお店のタブレットを操作ながら、「このお店、テキーラがあるんだよ!」ととんでもないことを言い出した。

 

 いやいや、テキーラはないでしょと反論したが、ナマ1杯で早くも酩酊状態になってしまったのか、

「何言ってんのよ、淳史。乾杯といったらテキーラでしょ、ここはおねえさんに任せなさい」

と自説を譲らない。


3杯、4杯とショットグラスを重ねるうちに、ゴンっと真優さんがテーブルにおでこを打ち付ける音がした。どうやら完全に酔っぱらってしまったようだ。


 お勘定を済ませ、彼女を支えて店を出た。

 とりあえず水でも飲ませて少し休ませようと、駅前の広場で彼女を座らせたその時だった。

 突然彼女が嘔吐した。高角度に広がる、かなり豪快な嘔吐で、俺も彼女も、身体と服が電車やタクシーに乗れない程度にゲロまみれになった。


 加えて彼女が「おしっこがしたい」と言い出した。

 ゲロまみれで足元もおぼつかない彼女が、公衆トイレで一人で用を足せるとは思えなかった。俺が女子トイレに入って介助をするわけにもいかないし、といって男子トイレに連れ込めば、それはそれで周囲の誤解を招きそうだ。

 やむなく俺は駅近くのラブホテルに入った。


 部屋に入るなり「おしっこが漏れる」とジーンズを脱ぎ始めた彼女は、太ももまで下したところで足をもつれさせ。転んでしまった。

 立つことも、脱ぐこともできずに床でもがく彼女のジーンズを脱がせ、トイレの便座に座らせ、パンティを膝まで下してやった。


 まだ気持ち悪いというので、口の中に指を入れて追いゲロを吐かせ、バスルームに連れていった。

 

 服を脱がせて椅子に座らせ、シャワーで髪や身体に付着していたゲロを洗い流し、ホテル備え付けのパジャマを着せ、ベッドに寝かせた。

 自分もシャワーを浴び、ゲロの付着した二人分の衣服を洗濯して風呂場に干した。


 ベッドで健やかに寝息を立てる真優さんの頬をツンツンしてみる。とんでもなく迷惑な女性だったが、こうしてみるとなかなかに可愛い。

 彼女、今日のこと覚えているかな。ここはどこ、あんた、昨日私に何したの、なんてことになったらどうしようかななどと思いつつ、俺は彼女の横で眠りに落ちた。

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