この『アイなき世界』で僕らは
京高
第1話 キャラメイクを『お任せ』にしたら『魔王』にされた件
「ぬあんじゃこりゃああああああ!!!!」
ステータス画面を開いて職業欄を見た瞬間、オレは殉職直前の刑事のような叫び声をあげていた。
そこに書かれていたのは『魔王』。二度見してもやっぱり『魔王』のままだった。
「何だよこれ!?レア職か?それともNPC用のシークレット職?いや、それだったらプレイヤーがなれたら問題だろう!?バグかよ!?」
状況に付いていけずに意図せずに文句が口を吐いて出てくる。少ししたら落ち着いてきたので、とりあえず職業の説明を見てみることにした。
〈魔王爆誕wwwwww〉
「ふざけんな運営ーーーー!!!!!」
再びオレが叫んだとしても無理のないことだと思う。
ここはVR型のMMORPGである『アンダー ジ アース オンライン(Under the Earth On-line)』、誰が言い始めたのか通称『アイなき世界』の中だ。
と言っても一番初めのキャラクターメイキングルームであるため、幸か不幸かオレ以外に人はいない。
幸運だったのは先ほどの叫びを聞かれて変人扱いされなかったことで、不幸なのは今の状況を相談できないということだ。
「あ!外部リンクにして掲示板とか見れば……って見れない!?」
と『注意』の文字が空中に浮かびあがる。
〈職業『魔王』は他の職業と対立関係にあるため、全ての情報の取得ができません。これはゲーム外でも適用され、『アイなき世界』関連の情報に触れることはできないようになっております〉
ゲーム外でも適用ってどれだけの情報規制だよ!?こんなもんやってられるか!リメイクするぞ!
〈警告! キャラクターの削除に伴うペナルティとして三日間のログイン禁止となります。また、『お任せ』により作成されたキャラクターのためペナルティは十倍になります〉
三十日もかよ!?
リセットマラソン防止にしても、ちょっと厳しくないか?
仕方がない、この辺は掲示板とかで後から確認しておこう。
……うん?まだインフォメーションが続いているぞ?
〈超々々々々々々々々々々々々々レア職業キャラを削除するペナルティとして、プレイヤーの全個人情報を取得、要注意人物として当社のブラックリストに登録します。以降、法律によって定められたガイドラインに従って、事件等が起きた時には国や関連企業に情報を公開いたします〉
ブラックリスト入り!?全個人情報!?っていうか超の数多過ぎ!!『魔王』どんだけレアなんだよ!!
「詰んだ……。何だよこれ、オレが何をしたって言うんだよ……」
実質犯罪者扱いだ。現実で犯罪者になるか『
どうするかって?もちろん後者だよ。だってプレイしなければいいだけのことだし。
〈警告! 一定期間ログインされない場合はプレイ続行の意思がないと判断し、強制的にキャラクターを没収します。その際のペナルティは通常のキャラクター削除に準じることになります〉
放置もできないのかよ!?
〈ペナルティを受けずに再作成するには、キャラクター毎に定められた所定の時間をプレイしてから通常の削除手順を用いる必要があります〉
要するに「文句言ってないでプレイ始めろやゴラァ!」ってことか?
どうあれ犯罪者にならないためには『魔王』となって所定の時間をプレイする必要があるらしい。オレは抵抗を諦めてキャラメイクを再開した。
「えっと、名前を入力してください、か。えーと『グドラク』と」
大した意味はない、グッドラックを縮めただけだ。せめてゲーム内では良いことがありますように、というささやかな反抗だった。
ところが名前欄には入力した名前が現れず、代わりに『魔王スキムミルク』と表示されていた。
「カッコ悪いいいいぃぃぃ!!!!」
三度オレの叫びが響き渡る。
だけど、これは俺のせいではないと心の底から言いたい!ふざけてるのか?
スキムミルクって脱脂粉乳のことだっけ?イミワカラナイノデスケド。
「あ、変更できる!えっと〈前後に♡や♪を付けられます〉……ってこれ変更じゃないよね!?ただのデコレーションだよね!?」
〈ラブリーな魔王を目指すあなたには♡が、キュートな魔王を目指すあなたには♪がお勧めです♡♪〉
やかましいわ!どっちも目指さねえよ!
ああ、頭痛が痛い。叫び過ぎて喉が渇いた。
〈これでも飲んで落ち着いて。つ水〉
インフォメーションと同時に虚空からコップに入った水が現れた。こういう所を見ると本当にVRの世界にいるんだなと感じる。コップも浮いているし。
〈……早く取って。念力が切れそう……〉
念力で浮かせているのかよ!
っていうか念力って何だ!?
それよりもお前誰!?
混乱していると念力が切れたのか、コップが落ちて割れてしまった。
〈あ……。バカ!もう魔王のことなんて知らない!(幼馴染風)〉
もう何が何やら。知らないって言いたいのはこっちの方だ。
とりあえずインフォメーションのことは横に置いておいて、キャラメイクを続けることにした。
どうやら名前欄のアレは他のプレイヤーにオレのことを特定されないようにするためのものらしい。他人には見えないステータス画面では切り替えが可能となっていた。
突然呼びかけられて反応ができなくても問題がありそうなので、悩んだ末に並列表示することにした。
続けて各能力値に職業によって得られるボーナスポイントを割り振る。『魔王』になったことで使えるポイントは……五百!?
多過ぎだろ!?
ゲーム開始前にオレが調べた情報では多くても五、平均すると三ポイントだった。
いや待て、初期能力値も高いぞ!?
普通はどれも一桁のはずなのに、オレのものはほとんど二ケタ後半、三ケタに近いものまである。
これはっきり言ってチート状態じゃね?
……やばい、ちょっとテンションが上がってきたかも。単純というなかれ。チートで俺TUEEEEEE!は男の子の憧れなのだ。
あれ?一か所だけ極端に少ない数値の能力があるぞ。
『運 1(固定)』
「ふざけんな運営ーーーー!!!!」
さっき名前付けた時に言ったよね「せめてゲーム内では良いことがありますように」って!運の数値が一でどうやったら良いことが起きるんだよ!?不幸キャラ決定じゃないか!
だが悔しいかな、オレの咆哮は虚無の彼方へと消えていった。
オーケイ、冷静になれ。そしてここまでのことを整理してみよう……。
一つ確かなことがあるな。うん。これは決定していい。それは、運営はオレの敵ってことだ!
オレは『魔王』だ、そして相手は運営、つまりはこの世界の『神』ってことだ。
魔王が神に逆らう、良いじゃないか。どうせゲームの世界だ、好き勝手やってやる!
ふっふっふ。覚悟しておけよ運営。いつか必ず吠え面をかかせてやるからな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます