克服しないほうがむしろよい衝動も確かに存在する
「
「すごいね雪村。絵が上手なだけじゃない、この作品には君にしか表現できない濃厚な世界観がある。すばらしいよ、君はプロになれるかもね」
「おお、そうなんですか? ありがとうございます!」
雪村はキャッキャとジャンプして喜んだ。
「おい、宇佐木。希望的観測で雪村を陥れるなよ? 世の中そんなに甘くはないぞ」
「見苦しいね有栖川。どうせ雪村に嫉妬してるんでしょ? 絵だけとっても君なんかよりはるかにうまいからねえ」
「あのな、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて――」
「あらゆる負の衝動は自分自身が作っている。哲人皇帝マルクス・アウレリウスの思索さ。有栖川、君はいま、みずからが作り出した負の衝動に支配されているんだよ」
「いや、だからそういうことじゃなくてだな……」
「ああ、醜い! なんという浅ましさだろう! 自分自身をコントロールできないということは!」
「すっげえ、くだらねえ……」
有栖川は机の上に溶けた。
「でも、恐縮ですが宇佐木先輩……」
「なんだい、雪村?」
「克服しないほうがむしろよい衝動も、確かに存在するのではないでしょうか?」
「……」
宇佐木はギョッとしたが、すぐにくつくつと笑いはじめた。
「雪村、君は本当に、天才だねえ。あははっ……」
「その衝動とはたとえば――」
「ああ、いい、雪村。それ以上はやめておこう。口にするのは無粋というものだよ?」
「あ、失礼しました。でも、宇佐木先輩のおっしゃりたいこと、よくわかります」
「素敵だねえ、雪村。踊りたくなってきちゃったよ。ずんたったー、ずんたったー」
「素敵な三拍子のリズムです、先輩!」
二人は仲よくこの世の果てまでダンスとしゃれ込んだ。
「くだらねえ……あまりにも、くだらねえ……」
有栖川は道化たちをうらやましく思いながら、赤い夕日といっしょに沈んでいった。
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