B-4 節度

蒼が笑顔で抱きついてきて、さらには目をつむって唇を差し出してきた。


北斗に見られていることが若干は気になるが、正気でいたらむしろおかしくなる。


遼馬は蒼の肩を掴み、唇に迫った――



「んがっ!!!」


急に口に指を突っ込まれた。



「ん゙ーっ゙!!!」


口に入れられた手を外そうとするが、後ろからしっかりホールドされてしまった。

やってるのはもちろん北斗だ。



「ちょっとお兄ちゃん!! 割り込まないでよ!!」


蒼も北斗を引き剥がそうとするが、北斗は遼馬をしっかりと抱きしめて、離れる様子はない。



「いや、やっぱり考え直したんだ。蒼にはまだ早いな、と思って」


考え直したのはわかったけど、俺の口の中で遊ぶのはやめて……



「なんで早いの? いいじゃん、もう」


「5ヶ月前は、まだ中学生だよ? 早熟すぎるな、って」


「生物的には大人だし、平安時代なら13才で結婚してるし、現代でも性的同意は16才からだし、今日だってあたしはコンドームも用意してて、自分の性行為には主体性を持って臨んでるんですが、何が問題なんですかー?」


思いの外、蒼がしっかりしててびっくりした。



「理屈はそうだけど、学生生活と性生活は現実的に両立が難しいだろ。性生活が伴うなら、遼馬も蒼も親になる準備が必要だけど、学校はそういう教育じゃないじゃん。特にうちは進学校で、大学に行く前提だから。二人が高校卒業後に働くという選択肢を持ってるならまだいいけど、そうでないならやっぱりまだ早いと思うよ」


うん、エロに意識をとられると現代に想定されている生活に支障が出るという北斗の言うこともわかるけど、人の口に指入れながら言う話?



「ちゃんと避妊するんだから大丈夫だよ。他の人たちだって高校生で付き合っててもうまくやってるんだから、あたしと遼馬君だって、ちゃんとやれるよ!」


「いや、お前はまだ遼馬の本気を知らない。遼馬はな「んがー!!」


遼馬は北斗の指を噛んだ。



「痛っ!!」


と叫んで、北斗は遼馬の口から指を抜いた。



「はぁ、はぁ……。あのね! 確かに俺はスケベかもしんないけど、蒼のエロいことばっかり考えてるわけじゃないの! ちゃんと、節度を持って付き合うから!!」


「遼馬君……」


蒼は、きゅん♡とした顔をした。



「……ホントに?」


北斗が、遼馬に噛まれた手をさすりながら言う。



「ホントだよ」


「じゃあ、今から節度見せてもらおうか」


「は? 今?」



北斗に掴まれて唇を奪われる。


「ん゙ん゙ーーっ゙!!!」


北斗のベロチューは正直ヤバい。



「あっ! ちょっとズルいぃ!!」


蒼が間に入ろうとすると、意外にも北斗はすんなり離れた。



「遼馬がここで節度を見せてくれるなら、信じるよ」


北斗は、唇から溢れた唾液を手の甲で拭いながら言った。

こいつ、悪魔か。



「……キスもダメなの……?」


蒼が目を潤ませて遼馬を見た。



……今、この一晩だけ節度を守れば、北斗はもう邪魔をしないってことだよね?


”節度”としては、蒼がまだ高校生になりたてだということを北斗は気にしてるのだから、R15くらいが目安だろう。



「と、とりあえず、順番も、大事だと思うんだ……」


遼馬は蒼に向き直した。



「順番……?」


神妙な顔をしている蒼をハグした。



「そ、そういうこと!」


蒼も、何かを了解した。


蒼のおっぱいの接触は気になるが、今は節制をしなくてはならない。

明鏡止水の心だ。


蒼の頭をなでてみる。

これは小学生の時からやってるのだからセーフだろう。


蒼も、遼馬にハグを返した。


ほっぺにチューも、フランス人の挨拶レベルだ。

大丈夫だろう。


蒼のほっぺにキスをする。


蒼は、テヘ、といった表情をした。

可愛い。


いよいよ唇へのキスだ。

軽くならいいだろう。

いいということにしてくれ。


蒼も流れを察して、唇を寄せてくる。


今度こそ――



「いや、そうじゃなくて」


また北斗に後ろから抱きつかれて、蒼と引き剥がされる。



「何が!!?」


北斗は、何なの?!



「俺が見たいのは、遼馬が性欲マックスでも、節制できるかどうかなの」


「は?!」


「だからまず、今、性欲マックスにならないと」


北斗が股間を触ってくる。



「あっ! ちょ! 何?!」


「うーん、イマイチ。蒼も手伝って」


「え? 何を?」


蒼はぽかんとしている。



「遼馬が元気になるようにするの」


「え……遼馬君を……?」


蒼が遼馬の股間に視線を落とした。



「いやいやいや! いいよ! 節制! R15厳守で!」


遼馬は叫んだ。



「中学生だって、それはしてるよ」


「誰かにはやってもらわないでしょ!!」


「もー、うるさいな」


「ふぎゃあっ!!」


北斗はまた遼馬にベロチューをする。



「ちょ……!! 結局あたし、お兄ちゃんと遼馬君のイチャイチャしか見てないじゃんっ!! 遼馬君!! あたしも頑張るから!!」


蒼は遼馬のズボンに手をかけた。



♢♢♢



遼馬は布団を被り、体を丸めてしくしくと泣いていた。



「お兄ちゃんがあんまりいじめるから……」


「いや、お前が意外とうまいことやるから、ショックだったんじゃないのか?」


「あたしは、お兄ちゃんに言われた通りやっただけだし……」



遼馬は、ギリギリ処女と童貞を守ったが、この兄妹は節制どころか性接待だった。



「遼馬、やっぱり遼馬の性欲の強さを蒼が引き受けるにはまだ早いよ。せめて、受験が終わってからにしよう」


違う……

性欲が強いんじゃない、二人からの性接待が終わらなかったのだ。



「……そうだよね……まず、受験だよね。あたしも、我慢するから……」


蒼……も、ちょっと変わってるよな……

血筋?

血筋のせいなの?



「お兄ちゃんだって、もちろん我慢するよね?」


「でも、生理現象の部分は絶対あるから」


「なんでそこを担おうとするの?」


「ほら、受験って大変だから、助け合わないと」


「そんなとこ助け合ってる人、いる? ってか、お兄ちゃんが助けるなら、あたしが助けるし」


「蒼が相手だと、そこで済まないだろうから」


「それ、お兄ちゃんだって同じじゃん」



遼馬は二人の会話を聞きながら、くすんと泣いた。



――夏期講習二日目おわり――

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