第2話
二週間ぶりの仕事場に、少し緊張しながら入り口のドアを開けると、一斉にこちらを見る目線が突き刺さった。
ドアを開けたのがルーズだと認識した瞬間に、それらの目の温度が冷たくなる。
何事かわからない視線に晒され体をこわばらせたが、なんとか一歩踏み出す。
『えっ……
と、お休みいただいてすみませんでした。
今日からまたよろしくお願いします!』
それらに気づかないふりをして、笑顔で挨拶をし頭を下げたルーズ。
周囲からピリついた空気が一瞬流れたが聞こえなかったかのように興味がないように皆、彼女から視線を外し仕事に戻っていった。
頭を上げた時には緊張感は何事もなかったかのように消えており、ルーズのざらついた気持ちだけが残った。
不思議に思いながら部屋に入ると、ヒソヒソとあちらこちらから、聞こえそうで聞き取れない声が囁かれる。
異様な雰囲気に嫌な気分になるが、顔には出さず自分の席に向かう。
なに、嫌な感じ
はっきり言ってくれたら言いのに…
席に着き荷物を置こうとしたところで、所属する製品管理部の部長室に来るよう、机にメモが置かれていることに気がついた。
部屋の奥にある部長室に重い足取りで向かう。
中に入るとでっぷりしたお腹を撫でながら機嫌が良さそうな部長が立派な椅子に座り待ち構えていた。
『やっと来たねぇ。二週間も勝手に休んでねぇえ?
君リーベの街でちょっと優秀だったからって生意気だと思ったが…まさかねぇ。
我が街の上級魔法士に付き纏いとはなぁ。
自分を可愛いとかモテるとか過大評価しすぎなんじゃないかぁ?
一目見た時から気に食わなかったんだよ。いやぁ僕の勘は正しかった。
君みたいなのが職場にいると面倒だ、ルーズ・ベクタール。
本日付で解雇する』
部長は嫌な笑い方をしながら、饒舌に話した。
余計なことまでぺらぺらと楽しそうに、休み明けで今日から仕事を頑張ろうと張り切って職場に来たはずのルーズに。
え…クビ?
どういうこと?
『ま、待ってください。クビってどういうことですか。
休みを突然いただいたのは申し訳なかったと思います、が、でも、ちゃんと、私は申請を出して部長にもちゃんと…許可をいただいたはず、です。
それに、付き纏いなんて、身に覚えがありません』
何を言われたのか分からない。
なんで急に。何?
部長はクビになった理由を馬鹿にしたように再度説明し始めたが、ルーズには何一つ理解できるような内容ではなかった。
違う、知らない、そう言おうとしたが、彼はただルーズ本人に彼女がいかに人間のゴミかと言いたいだけで口を挟むことを許さなかった。
私のことがどれだけ目障りか、ということが話の大半を占めており、なぜクビになったのかどんな経緯があったのかを知るのにひどく時間がかかった。
最近私が付き合った男が実は既婚者だったらしい。
しかも交際が奥様にばれたらしい。
あの男は同じ職場で働いており、言い訳にあの女(私)に付き纏われていると奥様とギルドに訴えたらしい。
事態を重く見たギルドでは聞き取り調査をしたらしい。
結果複数の私へ不利な証言が出たらしい。
田舎に帰っている間に全てが起こっていたせいで、実感が全くないが、嫌味ったらしい部長の話からそういうことになっているらしいことは分かった。
三ヶ月前に今の職場に移動してきた私に、彼が既婚者かどうかなんて誰も教えてくれなかった。親しい友人がまだいないとは言え、仕事仲間から不利な証言が出るのか。何故。
田舎から必死に勉強してやっと就いた職をこんなことで。なぜ、なぜ。
分からない、何もわからない。
悔しい。
理解し難い状況に、反論も許されずただ話を聞くしかないルーズは拳を握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます