会員制読書クラブ

青時雨

第1話

「みなさん、お集まりのようで。ようこそ!会員制読書クラブのための会員限定読書館へ。…くどいですね、ふふっ」



すらりとした痩身の男が突如現れた。

随分と陽気な男が登場してきたが、そんなことに構っている心の余裕はない。

ここへ集まった会員たちは、様々な手段を用い死に物狂いで会員の座を勝ち取っている。

ある者は、家族を裏切って。

ある者は、全ての財産を。

かく言う私も、大切なものと引き換えに会員になる特権を手にしてここにいる。



「皆様はえー…2回目の開催に参加される方々ですね!。おや、二度目のご参加の方もいるじゃないですか、これはどうも」



二度目の参加と思われる男は、一度目は何を引き換えに、そして今回は何を引き換えに会員の座を手に入れたのか。

後で接触出来ないだろうか。しかし、聞いたところで教えてはくれないだろうか。

それだけこの世界にはもう、娯楽がない。

現実は楽しみを見いだせないほど荒み、誰もが幻想に縋る思いで生きていた。

そんな世界に生きている人間は、物語を生み出すことが出来なくなり、読み物の存在は神話に近いものとされるほど稀なものとなっていた。



「ねえ、まだなのッ?」


「そうだぞ。読書する時間が減ったら訴えるからなッ」



昔から、読書は嗜好品だ。時間も心も一時の間奪われる。

他に娯楽のないこの世界では、読書をするという行為には規制がされていた。というのも、誰もが喉から手が出るほどそれを欲しがり、醜い争いが絶えないからだ。

価値がはね上がった読書という行為が出来るのは、読書クラブの会員になれた者だけ。

会員としてここにいる私たちはみんな、とっくに理性を失っている。



「そう殺気立たないで。もうじき読書が出来ますから、ね?」



男は厳格な趣のある大きな扉を押し開いた。



「ここから先に進んでいただきますと、読書の出来る空間が広がっています。驚かれますよ〜きっと、ふふっ」



驚く?、何にだ。

読書する場所のことなんてどうだっていい。

そこが茨の中でも、炎の海であっても、命を落としてでも私は読書がしたい。



「読み物はご自身では選べません。目の前にある本をとってお読みください。本を傷つけたり、持ち帰ろうとした場合、その時点で本は自動的に消失し、二度と会員資格は得られませんのでご注意ください」



なるほど。

会員になったことがあった友人に聞いた通り、どうやっても本を手元に残すことは出来ないらしい。



「それから、皆様に一点お伝えしたいことが」



会員たちの視線が扉から男に戻される。



「会員の中からただ一人だけ、至高なる読書をすることが出来る者がいます。その方は無条件で次も会員となれます!。では、存分に読書をご堪能ください。1冊読み終わった時点で強制的にこの場所へ返還されますのでご安心を……って、もう誰も聞いてませんね。ふふっ」



私を含め会員たちは、扉を押し他の会員を押し退けるようにして館へ入った。

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