第26話 施設調査とジンゲン

「死後の世界では……ないようですな……」


 ジンゲンさんのお腹が荒々しく鳴った。

 そうでしょうそうでしょう、このカレーの香りは最高でしょう。


「まずは、お腹を満たしましょうか。

 詳しい話はそれからで」


「どうぞおかけください」


「これを使ってくださいー」


「おお、す、すまない……」


 マシューもネイサンもちゃんとローザの手伝いをして食器を運んでいる。

 うんうん、偉いぞ。


 テーブルには出来たてのカレーと熱々のパン、それと新鮮なサラダ。

 そして、ワインも準備した。


「やはり、死後の世界か?」


「どうぞ遠慮なく、味を感じれば死後ではないでしょう」


 一口食べると、4人の目が見開き、そこからは一気にそれはもう見事に食べ上げた。


「どうでした?」


「……こんなに旨いものは食べたことはない、ここが世に聞く天国か」


「儂は、致命傷だったはず、それがワインを味わっている……」


「そうだ、ジンゲン殿あれらはどうなったので?」


「そこは俺が説明します」


 それから、ゴーレムのこと、ジンゲンさんや3名の方々を助けた経緯などを話した。


「天職スライムマスター」


 もうそれでいいや……


「流石に限界と感じて、幻影だと思ったりもしたが、あの盾を持つスライムは……」


「俺の従魔です。

 そして、ゴーレムは全て破壊しました。

 私のスライム達は結構やるんですよ」


「本当に助かった。カゲテル殿、それにジンゲン殿……」


「突然現れたゴーレムに馬車も破壊され……ジンゲン殿が助けてくれなければ我々も……」


「3名は行商人ですか?」


「ええ、私がマーク、こちらがチャイム、そしてトレビン。

 マーク商会の従業員です」


「一応馬車の残骸も回収して、無事な荷もこちらで保管しています」


「なんと!!」


「よかった……まだやり直せる」


「馬も保護してます。馬車も修理しましたので、裏に置いてありますよ」


「な、なんと!!」


 スライムがやったんだけどね。


「しかし、ジンゲン殿にカゲテル殿、我らの命を救ってもらった礼を差し出せるとしても、今はこの程度の金か積み荷ぐらいしか……」


「いらぬ、そもそも儂は救われた側……」


「あー、俺も別に……」


「そんな「そうはいかん!」


 ジンゲンさんが急に大きな声を上げた。


「儂は確実に致命傷を受けていた。

 あの状況で今こうしているということは、余程高位の回復魔法を使われたか、超級のポーションでも使われたとしか考えられない。普通であれば金貨数十枚、いや、この場所であんな深手を負ったのであれば我が生命が有る事自体が奇跡……この恩、儂には返せるだろうか……」


 なんていうか、ジンゲンさん、体つきだけじゃなく、心根もカッチカチなタイプだぞ……

 

「その、ジンゲンさんは冒険者ということですが、目的は……」


「儂は、所属していたパーティが解散して、あてもなくとりあえず王都へ向かう途中だった。

 激しい音と馬のいななき、駆けつけてみれば吹き飛ばされた3人が倒れていて、無我夢中で抱えあげ、そこで背後から一撃を喰らって……拍動する痛み、抜ける力……内部で致命的なダメージを受け、なんとか意識を保って逃げていたのだが、突然スライムが助けてくれて、そこから目が覚めたらベッドで眠っているし、体の調子はいいし、わけがわからなかった……」


「パーティの解散ですか」


「儂も32、他のメンバーが子が生まれた事をきっかけに、所帯に入るなど、な」


「なるほど、そういう事もありますよね。

 そう言えばクラスは?」


「Bクラス。重戦士である」


「大先輩じゃないですか!」


「いや、まだまだ未熟……」


「それでお礼「そうだ、儂には返せるものはこの身一つしか無い!!」


「ええっと……」


「グスッ……怖いよー! えーん!」


 ついに一番下のネイサンが泣き出してしまった。


「と、とにかく大きな声禁止で」


「も、申し訳ない……」


『マスター遺跡の探索が終わりました!』


 そんなタイミングでウッキウキのコウメイから報告が来る。

 泣くネイサンにあやすローザ、怯えてるマシュー、土下座しているジンゲン、オロオロしている商人3人。

 

「俺が泣きたいよ……」


 とにかく、コウメイ達には結果報告と手に入れた物を持って合流してもらう。

 ジンゲンら4人の事は、とりあえずワインでも飲みながら仕切り直し、ローザとマシュー、ネイサンには先に休んでもらった。


「ふぅ……」


 うん、濃厚なぶどうの香りがしっかりと残っている。

 重厚な味わいと芳醇な香りが心を落ち着けてくれる。


「とりあえず、落ち着いて話しましょう。

 興奮、大声絶対ダメです。

 繊細なワインの味を感じながら、優雅に話しましょう」


「カゲテル殿はまだ未成年では……?」


「ぐっ……はい、まだ18になったばかりです……」


「まぁ、冒険者ですからな。しかしこれは逸品、そうそう口にできるものではありませんね」


「お、わかりますか!」


「商人ですから」


「もしかして、【琥珀の涙】も手に入ったりは……」


「そ、それはなかなかに大変ですね……」


「やはり……」


「荷物の中に【砂漠の水】があったはずです!」


「ああ、琥珀の涙ほどではありませんが、あれも貴重品、うちの目玉商品の一つです!」


「に、荷物を確認してきます!」


「どうか残っていますように……」


「そ、それでは儂の処遇は……?」


「行く宛もないソロなら、うちの護衛として働いてもらおうかな。

 大人がいると色々と助かりますし、Bクラス冒険者がいてくれれば自由が利きます!

 俺たちの目的は世界を見て回る冒険、って漠然としたものなのですが……」


 なんか、色々とめんどくさくなったので、ローザに聞いたらOKもらったのでこれで、代えの案も余程の事を言わなければジンゲンさん納得しないだろうし、説得も、面倒くさい。

 ローザと同じように、影響観察も含めてパーティに入れちゃおうってことにした。


「おお、我が生命、皆様のために!!」


「しーっしーっ」


「し、失礼した……冒険、この歳になってもその言葉には胸が熱くなりますな」


「ありましたぞ!」


「では、礼はこの一本で、さぁ開けましょう、すぐ開けましょう!」


「カゲテル殿は酒のことになると目の色が変わりますな」


「酒と料理こそ我が冒険!」


 砂漠の水。

 スッキリとした凛とした風味が素晴らしい。

 砂漠で乾きに飢えた人間が、いっぱいの水を飲んだように旨いと形容されるだけある。

 ケラス氏の琥珀の涙はコクと深みの極限、砂漠の砂はキレと旨味の頂点。


「旨い……」


 結局この夜は商人3人とジンゲンさんと大いに杯を重ねてしまうのだった。


 こうしてうちのパーティに、堅物のムキムキが入ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る