第16話 蟻殺し
「よくやってくれたカゲテル!」
街へ着くと支配人が門のところまで迎えに来てくれた、事前に周囲の村の人々をスライムが運び込んできて、ちょっとした騒ぎになったようだ。
「スライムと言えば君だ。あんなに大量のスライムが来たのは驚いたが……」
「すみません支配人、ちょっと眠すぎて頭が、蟻もなんとか出来そうなんで、ちょっと眠らせて……ください……」
そのまま俺は眠ってしまった。
後で聞いた話だとスライムたちが家を作って俺を運んでくれたらしい。
俺の知らない間にスライム人気がまた上がっていた。
一眠りして意識もはっきりした。
身体はまだ疲労で重いけど、蟻を早くなんとかしないといけない。
すぐにギルドへと向かう。
「蟻殺し……」
「中身は竜殺しの木の樹液の原液と、除虫草をブレンドしたものです」
「……危険物も甚だしいな……」
「美味しいの?」
「結構いけますよ、独特の苦味と濃厚な酒精が複雑な味わいを」
「待て待て、飲んだことも驚きだが、今はそんな誰も飲めない酒の味はどうでもいいのだ。
本当に蟻は死んだのか?」
「はい、間違いなく。
この通り」
収納した蟻をスライムに吐き出させる。
生体は収納できないので、しまえた時点で死んでいるのは間違いない。
室内の全員が身構えて戦闘態勢になるが、蟻は引っくりかえったままピクリとも動かない。
「心臓に悪いのでしまってもらえるか?」
「はい」
再び収納する。
「しかし、竜殺しの木の原液は……その、費用が……」
「あ、それは同様の効果の有るものを麦とか芋とかからスライムが作れます」
「ちょちょ、かっちゃん詳しく!」
「メリダ、ボーナスカットするぞ」
「そ、そんなぁ……」
「残念ながら味は少し落ちますね……」
「カゲテルくんもメリダの話に乗らない!
しかし凄いことだぞ、それならすぐにでも大量生産して……」
「実はもう準備ができてるので、除虫草か虫除けを分けてもらえると……
全部納品しちゃったんで」
「そうか、わかった。すぐに錬金術ギルドへ連絡する!」
こうして蟻殺し作戦が決行される。
手はずはこうだ。
蟻たちをスライムが囲う。
虫除けと合成竜殺しを配合して蟻殺しを作る。
噴射。
アリコロリ。
中央まで輪を縮めて……
女王蟻を退治する。
ハッピー。
「スライム同士の収納は近づくと共有できるので、自分は少し離れたところまで虫除けを届けるだけです。そこからはスライムリレーで囲っているスライムまで届けて合成します」
「もう、何があっても驚かない。
さすがスライムマスターだ」
「その名前自分で言う時かなり恥ずかしいのですが……」
「慣れる慣れる。私も二つ名なんて恥ずかしい……いや、今はいいな。
女王アリは集めた冒険者たちの総力戦だ!」
「蟻殺しで死にません?」
「死んでくれれば最高、ただ女王アリの周囲には強い個体がいる。
そして、女王アリもかなり強力だ。
倒せないと考えて行動しておこう」
「わかりました」
「カゲテルとスライム達がいて、本当に良かった。
最後まで気を引き締めて、頑張ろう!」
「はい!!」
錬金術ギルドから薬を手に入れた。
抽出された虫よけを使ったほうが、除虫草から作るより、風味の高い酒が作れた。
メリダさんとコソコソ酒談義をしていたら支配人にげんこつを食らった。
錬金術ギルドの支配人から、酒合成について質問攻めにあったけど、なんとか引き剥がしてもらって蟻の最前線へと急いだ。
もう隠しても仕方ないので、冒険者たちもスライムボードで移動してもらった。
草原の先で砂煙が派手に上がっている。
蟻達は我が物顔でこの地上を進んでいる……
収納した虫除けを周囲に隠密状態で待機しているスライムに共有して、酒を合成する!
「行きます!」
スライム達が蟻殺しを噴射する。
視界にはビクンビクンと痙攣し、ひっくりかえって死んでいく蟻達がうつる。
「成功です! どんどん追い込んでいきます」
「げーーっほ、げーーーっほ!!」
「うえーい酔っ払ってきたぞーーーー」
「な、何が……ああ、この香り……」
周囲に漂う香り、普通の人が吸い込むと、あっという間に酩酊してしまうようだ。
スライムマスクに変化させ、酒を分解した空気を吸わせて、しばらく休ませておく。
「先に行きます」
「す、すまない……す、少し休めばぁ……」
すでに大いびきをかいている人もいる。
これは、とんだ副作用だ……
風魔法で中央に向かって蒸発した酒精を向かわせるようにする。
「死んだ蟻は収納しながらどんどん範囲を狭めていくぞ……」
スライムと一緒にどんどん輪を小さくしていく……
今まで蟻達はこんなにも一方的に殺されることはなかっただろう……
自分たちこそが全てを喰らう側とでも思っていたんだろうけど、それも今日で終わりだ!!
「すすめすすめー!」
スライム達の円陣をどんどん狭めていく。
大量の蟻がスライムに収納されながら、何もなくなってしまった荒野を進んでいく。
一眠りして二日酔いに悩まされた冒険者達にさっぱり果汁の氷水を配り終わった頃、肉眼で敵の巣の入り口を捉えることが出来た。
小高い丘、山へと続いていくその手前に巨大な穴が空いている。
次から次へと蟻が出てくるが、出口に並んだスライムが吐き出す蟻殺しによって殺されて回収されていく。
周囲の探索も同時に行っているけど、間違いなく穴はここだけのようだ。
蟻の感覚器をすり抜けて内部構造を探るのは危険度が高すぎる。
「どうしますか……?」
「ぐっ……まだ蟻殺しはあるか?」
支配人さんは頭に響くのか、小声で訪ねてくる。
「はい、まだまだ備蓄は」
「流し込んでしまえ」
「え?」
「流し込んで蓋をしてしまえば、穴の中の蟻を一網打尽にできるだろ、油を使ってやったりもするんだがな」
「なるほど」
多少の火には強くても、密閉された巣穴を大量の油で火をつければ超高温の窯のようになる。
今回は、蟻殺しを大量に流し込んでしまうというわけだ。
「よーし、やっちゃえ!!」
スライム達からばっしゃーーーー! と盛大に蟻殺しが吐き出され、洞窟内に注ぎ込まれる。
風魔法で外部に流れ出さないようにして、最後に土魔法で蓋をする。
第1作戦は大量の二日酔いを産み出したが、大成功だ!
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