第4話 敵の集落
この世界を生きる人間にとって、移動は命がけだ。
人間を簡単に狩る動物や魔物が、見渡せばすぐに見つかる。
安定した住居を作るだけでも一苦労だ。
大きな集団を作り、街を築けば、その庇護を求める者から労働力や経済力を得ることができる。
そんな夢を見る者が、いくつかの資材とともに旅に出て、運が良ければ人の集団を構築することができる。
ただ、その多くは、何らかの気まぐれで簡単に崩壊する。
今、俺はその崩壊の原因の一つと対峙している。
知性のある魔物、ゴブリンの集落を森の中で発見したのだ。
旅をしながら森を見つけては組み立て式の家で優雅に暮らしていたが、4つ目の森でこの集落を発見した。
今は隠密スライムの視点を覗いている。
黒っぽい犬のような魔物を食べたスライムが変化したものだ。
【気配遮断】【迷彩】【静音】という便利なスキルを持っているので、偵察にぴったりだ。
そう、新しいスライムに変化したときに教えてもらえるのはスキルなのだと思う。
一部の魔物はスキルというものを持っていて、鍛錬を重ねた人間も手にすることがあるという話を村で聞いたことがある。
そして、どうやら俺は、スライムが手に入れたスキルすべてを使えるらしい。
スライムマスターというスキルが、俺の持って生まれたスキルで、それのおかげだと夢の中で謎の声が言っていた。
そう、あの謎の声、もうひとりのカゲテルはたまに夢に出てきてスライムのことを楽しそうに話して帰っていく。
こっちの話を聞かずに早口で一方的に話すだけだが、楽しそうで何よりだ。
そんなこんなで、俺も少しずつスライムの知識を手に入れている。
「さて、見つけた以上は放置できないよね……」
ゴブリンは、今の俺と同じくらいの身長(170cm)で人間の姿に近い魔物だ。
知性があり、群れを作って生活する。
とにかく好戦的でずる賢く、そして、非常に繁殖力が旺盛だ。
とにかく恐ろしいので、出会ったら逃げる。
一匹いたら何匹いるのかわからないから、と強く教えられている。
現在、ゴブリンの集落を調べてみると、数百匹のゴブリンが生活している。
考えなしに食べられるものなら何でも食べるため、この森の生態系はボロボロだ。
俺たちはちゃんと後のことを考えて、根こそぎ刈り取ったりしない。
ゴブリンたちはこうして生活した場所をボロボロにして移動する。
そして、その移動過程で出会ったものはすべて犠牲になる。
「街だって滅ぶ数だよなこれ。村からもそこまで離れているわけじゃない……万が一村に行ったら……」
トラウマになっている村だって、生みの親がいるし、顔見知りだっている。
別に滅んでほしいほど恨んではいない……
「よし、やろう。スライムたちは所定の位置へ移動」
スライムマスターの俺は、あるスライムのスキルを他のスライムたちに分け与えることができる。
これによって全てのスライムが隠密スライムと同じように隠形行動が可能になる。
そして、全員に火魔法を貸し与える。
「撃て!」
思念を受けたスライムが一斉に火球を放つ。
実は火スライムはこぶし大の火球を放つ魔法しか使えない。
当たれば大やけどするが、避けるのも簡単だし、さほど強い魔法ではない。
火起こしには非常に役に立つけど……
「火球しか使えないけど……総数3400個超えの火球は、簡単には防げないよ」
集落を囲んだスライムたちから無数の火球が放たれる。
隙間なく打ち込まれた火球は際限なく燃え上がり、火柱へと変化する。
すぐに風魔法で周囲の木々を倒し、水魔法で延焼の広がりを防ぐ。
炎は周囲の空気を吸い込みながらまるで大樹のように集落を飲み込み……そして消えていく。
火スライムがせっせと残り火を食べている。
もちろん、ゴブリンたちは一匹残らず燃え尽きている。
「……めっちゃ危なかった!!ほんとにあんなに燃え上がるなんて!!火炎旋風? 恐ろしい!!」
距離を取っていて大正解だった。
もうひとりのカゲテルが持っている知識が、少し馴染んで、世の中の仕組みを少し深く理解した。
酸素の存在や上昇気流なんか、この世界では知りえない知識も手に入れている。
夢の中で話し始めてから起きた現象だ。
業火の中でも燃え尽きないものもある。
ゴブリン達の体内にできる魔石だ。
魔石は魔物の命の結晶で、これを持つものが魔物、無いものが動物と区別される。
魔石はいろいろな魔道具に利用されるため、お金になる。
一部は回収するけど、一部はスライムたちに食べさせる。
緑色のノーマルスライム、実は最初のスライムではない。
『進化』したのだ。
進化の鍵は、魔石だ。
魔物やいろいろな物質を食べると『変化』を起こすことがある。
そして、進化は変化した特徴の強化に当たる。
スライムはハイスライムに進化して、消化能力や運動能力が飛躍的に向上している。
ただ溶かすなら溶解液を出すスライムもいるが、なんていうか、最初のスライムの最終進化に興味がある。
俺ももう一人のカゲテルのせいで、様々なスライムをコレクションしたくなってしまった。
3000匹を超えるスライムが魔石を収納し、各種族のスライムの代表に魔石を一部分け与えてみた。
大量の魔石を手に入れたので、ワクワクしている。
「お、古参が進化したな!」
単純にハイ火・水・土・風・光スライムへと進化した。
それと、どうやらゴブリンの中に魔道士がいたらしく、魔法の杖を手に入れていた。
燃やす前に高そうなアイテムはこっそり回収してある。
こういったレアアイテムは積極的にどんどんスライム達のご飯にしている。
魔法の杖をハイスライムに食わせたらハイ闇スライムへと変化した。
進化した個体が変化すると、すでに進化済みで生まれるみたいだ。
「よし、森の中に残存ゴブリンはなし!作戦終了だ!」
大量の魔石によって増加したスライムは【融合】でまとめている。
さすがに数千匹のスライムを連れて歩くわけにはいかない。
最終的には、見た目は普通のスライムに擬態させたカオススライム(集合体)一匹を連れて旅を続けることにしている。
俺はもう、過去のトラウマを乗り越えて、旅を楽しんでいる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます