転生貴族の移動領地~兄姉から見捨てられた三男の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
第1話 スキル獲得
「21番の方、祭壇の前まで来てください」
「はい、わかりました」
そこは王都の大聖堂。司教に呼ばれた俺は返事をし、祭壇の前に立った。
これから本日21番目にスキルを受け取るところだ。
というわけで、21番と書かれた札を司教に渡す。
「よろしい。では、あなたの名前や出身地を教えてください」
「スラン・シードランドです。年齢は13、性別は男。出身地は――」
俺が司教の問いかけに答えると、隣に座った助祭がおもむろに記録を取り始めた。
まどろっこしい作業にも思えるが、スキルを管理する王国にとって重要なことだから仕方ない。
それに、俺自身は苛立ちよりも期待感のほうが上回っていた。
なんせ、スキルの授与なんていかにも異世界ファンタジーっぽい出来事だからな。
なんでこんなことを思うのかって?
そう。俺には前世の記憶があるんだ。日本の一般的な家庭で産まれ育ち、普通の学校を卒業し、二流企業に就職した。
そこまではよかったものの、40代の半ばに差し掛かったところで俺は倒れてしまった。
おそらく過労死だと思われる。今思えば、体調不良のまま無理を押して働いたのがいけなかった。
気が付くと、俺はシードランド男爵の三男として転生していた。
んで、成人の13歳になったのでこうしてスキルを受け取りに来たってわけだ。
だが、貴族に生まれ変わったといっても、優雅な側面ばかりじゃなく俺は結構な窮地に追い込まれていた。
ベルク・シードランド男爵、すなわち俺の父が王様から賜った領地は、王都からかなり離れた辺境の海辺にある。
脇には緑に覆われた山もあり、とても自然豊かで景色も良いのだが、良いところといえばそれくらいだ。
そこと隣接しているのが、グレゴリス男爵っていうとても好戦的な貴族の領地なんだ。
シードランド家にとって脅威なのはそれだけじゃない。
海辺ということで、海のモンスターや海賊から何度も標的にされてきた。
そのたびに、【魔法剣・大】スキルを持つ父が圧倒的な力で追い払ってくれた。
だが、最近はそうもいかなくなった。
父の体は加齢や古傷の悪化によって徐々に衰え、今ではすっかりやつれはててしまった。
屋敷の中でも杖を突いて歩くような状態になってしまい、まともに戦えなくなったんだ。
俺が住んでるこの世界じゃ、成功できるかどうかは貰えるスキル次第と言われている。
兄のダリックは【拳使い・小】、姉のエリーズは【雷魔法・小】を所持している。
ランクには、微小、小、中、大、極大まである。中にはランク自体がないユニーク系のスキルもあるんだとか。ちなみに、同じランクだからといって互角だとは限らず、熟練度によって幅がある。
兄姉ともにそこそこの戦闘スキルだから、俺がそれくらいのスキルを獲得できれば、領地を守りきれるかもしれない。
【剣使い・中】等、スキルもランクもそれなりの戦闘スキル、あるいは最低でも【治癒使い】のような戦いに役立つ回復スキルが欲しいところだ。
父、兄姉、領民たちが俺のことを期待してくれている。兄姉については、妾から産まれた俺のことを見下してるのはわかってるが、それでも父の前だと表向きは普通に接してるからな。
俺の貰うスキルが並み程度であっても、戦闘系スキル持ちが三人が揃えば相当な力になる。
さらに執事や領民たちも協力すれば、父に匹敵するとはいえないが、敵から領地を守れるかもしれない。
ただ、普通以下のスキルだとしてもまだ希望はある。
海辺に面した領地なため、【水魔法】や【風魔法】のような海に影響を及ぼせるようなスキルを獲得できれば、それらのランクが小以上なら海賊やモンスターを追い払える可能性だってあるんだ。
とにかく、今後どうなるかはこれから得るスキル次第ってのは変わらない。
みんなの期待を裏切るような結果にだけはならないでほしいが、どうなることやら。
「スラン・シードランド、奥の部屋へ行き、石板の前に立ってください」
「わかりました」
俺は大聖堂の奥の部屋――儀式の間――に入り、その中央にある石板の前に立つ。
2メートルを優に超える長方形の青白い石板で、横幅も1メートルほどあり、ゴッドストーンともいわれているんだ。
「深呼吸して目を瞑り、肩の力を抜いてください。そして、スキルを授けてほしいと十秒間神様に祈りなさい」
「はい」
俺は司教から言われた通り、ひたすら神に祈った。どうか最高のスキルをくださいと。
父、兄姉、領民たち、さらには自分も、誰もが幸福になれるような、最高のスキルを授けてください、と神様に願った。
「スキルが付与されました。スラン、目を開けなさい」
「あっ……」
目を開けたときだった。石板に光る文字が浮かんでいたんだ。
【スライド】スキルだって……?
小や中のようなランクがついていないことから、これがユニークスキルなのが窺える。
助祭がそれを記録したのち、石板に浮かんでいた文字は、何事もなかったようにスッと消えていった。
これは戦闘系スキルではなさそうだし、かといってそれをサポートできるようなスキルにも見えない。
「あの、司教様、これはどのようなタイプのスキルなんでしょう?」
「スラン、あなたの場合はランクがないため、おそらくユニークスキルでしょう」
「やはり……」
俺は目の前が暗くなるかと思った。
これじゃ、どういう顔をして自分の領地へと戻ればいいというのか。
別に、ユニークスキルが悪いといっているんじゃない。
俺の置かれた切羽詰まった状況を考慮すれば、小程度のランクであっても戦闘系かサポート系のスキルが欲しかったんだ。
「スキルの効果については、どういったものなんでしょう……?」
俺は一縷の希望を抱き、司教に尋ねてみる。
「そうですね。名前的には、滑る、ずらすという意味合いがあるかと思われます。なので、おそらく相手を滑らせるのでしょう」
「……」
なるほど、相手を滑らせるのか。それなら、ギリギリだが戦闘のサポートにはなるかもしれない。
ただ、時間稼ぎくらいしかできそうにないし、かなり厳しいと感じるが。
「とにかく、スラン。スキルを授かったことを神に感謝するのです」
「……はい」
この時ばかりは神を恨みそうになったが、仕方ない。俺はひざまずいて神様に感謝し、その場を跡にした。
ただし、足取りが途轍もなく重かったのは言うまでもない。
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