朝焼けも明日には共に
ソウカシンジ
朝焼けも明日には共に
朝起きて、まず僕が目をやるのは写真立て。幼馴染みの穂乃花(ほのか)とのツーショットだ。写真の中の穂乃花は今日も変わらず、思い切り良くピースサインをしている。
そんな写真に口角を緩めていると、けたたましく六時三十分を知らせるアラームが鳴り響いた。
「時間ないんだった、早く着替えなきゃ。」
着なれたパジャマのくたびれ具合に自身のずぼらな性格と時の流れの早さを感じる。
キッチンに立った僕は、フライパンに卵を割り入れた。透明な白身が色と輪郭を得たところで隣にウインナーを菜箸で掴んで入れていく。もう慣れたものだ。
「朝御飯はちゃんと食べないと、だもんな。」
食卓に目玉焼きとウインナー、箸を置いて席に座ると、僕は手を合わせた。
「頂きます。」
目玉焼きもウインナーも、焼き加減はばっちり僕好み。
「やっぱり上手くなったよな。」
時刻は七時、待ち合わせまではあと一時間半ある。待ち合わせ場所の駅前までは自転車で四十五分ほどだ。少なく見積もっても三十分は余裕がある。
「よし、掃除するか。せっかく越してきた新居がゴミだらけじゃ、洒落になんないからな。」
雑巾に掃除機。使わないと思ったのに穂乃花の言う通り意外と役に立ったハタキ。三種の神器を駆使して部屋を綺麗にしていく。こういう時、狭い部屋に住んでて良かったと思う。
集中が切れ、時計に目をやると時刻は八時。
「まずい、遅れる。」洗濯かごにダッシュでジャージを投げ入れに行き、用意しておいた服を早急に身に付ける。
「今日だけは、勘弁してくれよ僕。」
スニーカーに足を押し込み玄関を飛び出す。
「あっと。鍵、鍵。」
部屋に鍵をかけ螺旋階段を足早にかけ降りる。いつも聞き慣れている連続した金属音が今は耳障りだ。
駅についてスマートフォンを開くと時刻は八時二十五分。なんとか間に合ったようだ。
「さすがに今日は遅刻しなかったかぁ。」
聞き覚えのある声、穂乃花だ。僕は頭を少し搔きながら返事をする
「まあ流石にね。」
「というか、なんで自転車なのよ。一緒に歩こうと思ってたのに。」
「あ、ごめん。実は遅刻しそうになって慌てて出てきたんだ。押して帰るよ。」
「間に合うようにしてくれたんだぁ。ありがと。」
「当然でしょ。」
「なんか春斗(はると)素っ気ないね。会って話すの久しぶりだから緊張してるんでしょ。」
「…当たり」
「やっぱり。で、どっちに行けば着くの。『私達の家』には。」
「パン屋の方。」
「よし、出発。」
穂乃花がズンズンと歩みを進める。僕達の家へ。
今日から僕達は一緒に暮らす。それだけなのに少し不安でとても楽しみだ。
太陽光のカーテンが穂乃花と僕を包む。眩しくて目を細めるほどのその光は、穂乃花が手を振っているパン屋の方まで明るく照らしていた。
朝焼けも明日には共に ソウカシンジ @soukashinji
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