東雲舞、木漏れ日の中で謎を解く

雨宮 徹

東雲舞、木漏れ日の中で謎を解く

 暑い。ともかく暑い。僕は強い日差しを浴びながら、山を登る。まったく、ハイキングなんて考えたのは誰だよ。こんな夏に。



「さあ、ここで一休みして、お昼の時間にしましょう。持ってきたお弁当を食べてもいいし、そこにあるお店で食べてもいいわよ」



 先生が示す先には数軒のお店が並んでいる。五平餅など、小腹を満たすのに十分な品が並んでいる。



「なあ、東雲しののめ。あそこで五平餅でも食べようぜ」



「じゃあ、真がおごりなさい」と東雲。



「おいおい……」



「冗談に決まってるでしょ。それくらい、自分で買うわ」



 おしゃれな財布を取り出しながら、東雲が言う。



 さて、僕も財布を……って。え、財布がない! もしかして落とした?



「あら、もしかして財布を無くしたのかしら? すぐに心当たりのある場所を探すのね。悪い人が財布を盗んでも知らないわよ」






 しばらくして、財布を見つけると東雲のもとにもどる。



「あら、財布が無事でよかったじゃない」



 東雲はアイスクリームを食べていた。おいおい、少し外した間に五平餅を食べ終わったのかよ。って、それどころじゃない。財布の中身を確認しなくては。



 財布を開けるとお金は無事だった。……いや、何かおかしい。財布を最後に持った時、こんなに重くはなかった。小銭がなかったのは覚えている。ジャラジャラと音はしなかったから。



「真、何をボケーっとしてるのよ」



 僕は手短に事情を話す。



「なるほどね、増えた小銭の謎を解けってことね。じゃあ、質問よ。その財布、お札は無事かしら?」



「お札? ああ、一万円札はあるな。千円札も……ってない! 千円札だけない」



 一万円札を盗まずに、千円札を盗むなんて、ありうるのか?



「ふーん、千円札だけないのね。もう一つ質問。真が財布見つけたのって、自販機の近くじゃない?」



「そうだけど、どうして分かった?」



「だって、この辺りで財布を落とすなら、自販機でジュースを買う時くらいでしょ?」



「なんだ、そんな理由か」



「さて、自販機の近くなのがポイントよ。ここからは推測になるわ。もし、自販機で飲み物を買おうとしても、小銭がなければ? そして、千円札もなければ?」



「そりゃ、飲み物は買えないな。一万円札は使えないから」



「そういうこと。もし、犯人がこの暑さの中で喉を潤そうとしていたら? 手持ちに一万円札しかなかったら、どうするかしら。そして、偶然財布が落ちていたら、もちろん中身を使うでしょうね。でも、その人はあくまでも喉を潤すのが目的よ。つまり、根っからの悪人ではないわけ。残りの小銭を財布に戻す。この推測なら、説明がつくんじゃない?」



「なるほど、筋が通っているな」



「まあ、あくまでも推測よ。だって、その誰かさんが名乗り出るはずがないんだから」

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