難攻不落のダンジョン最深部で我が家を築くおっさんのスローライフ〜移住?そんなのする気無いけど〜
ときたぽん
第1話 ダンジョン暮らしのおっさん
「んあ〜そろそろ起きるかぁ」
大きく伸びををすると肩の辺りがギチギチとコリを訴えた。歳を重ねるほど身体は年々固くなる。いずれ腰にまで来そうだと俺は苦笑を浮かべた。
俺の名前は
独身で無職。否、自宅警備員として暮らしている。
自宅は地上ではなく約数十年前に出現したダンジョンという場所に居を構えていた。
ダンジョン内は不思議なことにマナというもので溢れておりマナを使用すれば電気も水道もつながってしまう。
実に快適な暮らしを送ることができているのだ。
一つ注意することがあるとすればダンジョン内に生息する魔物から身を潜めることだろうか?
魔物というのはマナが集中的集まることで発生する凶暴な獣のことだ。
獣と言ったが魔物の姿形は様々である。鳥の形をしていたり、熊の形をしていたり蛇の形をしていたり、そして現実の大きさとは比べ物にならないほどサイズの大きい場合もある。
――そんな場所で暮らすのは危険だって?まぁ危険だな何も知らない始めのうちは。
ダンジョン内に長くいることにより、人はマナの影響を受けて何かしらの力を手に入れることができる。世ではその力を”スキル”と呼んでいる。
スキルの種類は多種豊富であり、例えば村田は【身体強化】【毒素無効】というスキルを持っている。
やはり何事も慣れなのである。仕事と同じで人間慣れれば大したこと無くなっていくのだ。そして、このスキルを上手く使用すればそこそこの魔物とも渡り合うことができるのだ。
「さて、今日も食料調達に行きますか」
大岩の後ろに隠れるようにして建てられたテントからひょっこりと顔を出して、傍に立てかけられている斧を手に握る。
昨日は珍しく熊がいなかったため小さな兎しか食べていないのだ。
できれば大きな獲物がいる事を願おう。
ゴツゴツとした岩肌を駆け上りいつもの散歩コースを巡回する。
おかしいな魔物が全くいない。もしかしたらこの間狩り尽くしてしまったのだろうか?
――ぞわり
「……。今日は厄日だな」
五感を屈指して辺りを感知してみるが魔物の反応はとある最深部からしか感じなかった。
いつもの数十倍ほどのマナ量を持つ魔物の気配。どう考えても異常事態だ。
「害虫は早めに倒しておくのが鉄則だよなぁ」
幸いここからさほど遠く無い距離であるみたいであるし、村田としても大きな獲物であるのなら大歓迎である。主に食料として。
一度テントに戻ると武器を持ち替えてからその大きな獲物のいる最深部へと、村田は潜り込みに向かった。
◆◇◆
「こりゃでかい害獣だな」
村田は目の前に高くそびえ立つその害虫を見てそう呟いた。
屈強な鱗に太い針金の如く尖った牙。
十メートルは余裕でありそうな体格には巨大な翼がついており背後には長い尻尾まである。
「珍しいな……ダンジョンにこんなでかい
何にせよ地上に出たら大惨事になりかねない。さっさと討伐してしまおうか。
背中にぶら下げていたランチャーを構え、村田の腕ほどある擲弾をはめ込む。引き金を引けばドンッという鈍い音を立てて魔物の身体に直撃した。
ドガァァァン!!
辺りは土煙が立ち込め視界が塞がれる。
――【身体強化Ⅰ】
しかし、村田の方へと一直線に炎が発射され間一髪で村田はそれを回避した。
先程まで村田の立っていた地面は溶岩が溶けたように赤く焦げているようであった。
「最近のヘビはでかい上に炎まで吹くのか、厄介だな」
グァァォオオォオォォオ!!!
いきなり攻撃されたことに腹を立てたのか魔物は雄叫びを上げ、炎のブレスを連射しながら暴れまわる。
まるで生きる災害のようだ。
村田はすばしっこく動き回りながら魔物との距離を詰める。
正面に来たところでまたしてもランチャーを構えると魔物の眉間に擲弾を直撃させた。
――【身体強化Ⅱ】
魔物が後ろによろけたところで、魔物の頭に駆け上がるともう一つ背負ってきていた大剣を振り落とす。
ウギャァァアァァ!!!
魔物の頭の天辺から血しぶきが舞い上がり、そして次第にその姿は崩れ落ちていった。
「こいつマナに変換するタイプの魔物なのか、なんだ食えないじゃないか」
せっかく腹を空かせていたところだったのに残念だと落胆する。まぁこいつを倒したんだし、しばらくすればまた魔物も現れるようになるだろう。
村田は呑気にそんな事を考えながら居住まいであるテントへと戻っていった。
◆◇◆
【未踏破の深淵級ダンジョン最深部エリアボスが討伐されました】
【これにて未踏破の深淵級ダンジョン最深部は計十回のエリアボス討伐成功をしたことによりダンジョン内部の拡張が始まります】
「マスター”名の亡きダンジョン”がまたしても攻略されたらしいですね」
社長室に腰掛けている一人の男にスーツ姿の女はそう無表情のまま淡々と口にした。
男は静かに頷くと腕を組み静かにその女に命令を下す。
「すべてのギルド支部に伝えてくれ、これより未踏破であった深淵のダンジョンに挑む、とな」
「かしこまりました」
男は女が部屋から退出したのを確認すると好奇心に駆られた様子で口角を釣り上げた。
「名のなきダンジョンと名のなき冒険者。くくく……興味深いな」
村田に迫る何かはもう既に動き始めていた。
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