アンリーズナブル

犬犬尾(わんわんお)

プロローグ1 憎悪の顕現

 ——忌々いまいましい。


 何故だ、私はここまでお前たちに尽くしたのに、どうしてだ。

 憎い。私を裏切ったお前たちが、とてつもなく憎い。


 ——赦さない。赦すわけにはいかない。


 妻を犯し、子を焼き、仲間を殺し、私を欺き、その惨劇を見せつけた、奴らが赦せない。

 そんな醜悪で、矮小で、卑賎ひせんで、不埒で、歪で、薄汚くて、気色の悪い存在が、正義が嫌いだ。その猥雑者わいざつしゃが正義を語る、この世の中が嫌いだ。その演説を、理路整然と受け入れる民衆どもが嫌いだ。この世界の、弱肉強食という在り方が嫌いだ。


 ——変えなくてはならない。二度と、このような悲劇は起こしてはならない。


 嗚呼ああ、神よ。私は貴様を赦さない。いつか報いを受けさせてやる。

 貴様を地べたに引きずり落とし、私が世界を創り変えてみせる。

 憎しみがない、裏切りがない、怒りがない。そんな慈愛に満ちた世界に、敬い愛し合えるけがれの無い世界に。


 全てを無に帰し、私の手で原初を創り上げるのだ。


 ——私ならできる。私にしかできないことだ。




 そして、幾万の月日が流れた。

 男は死して尚、憎むことを止めなかった。

 人々の驕り高ぶりが、男を死の淵から蘇らせたのだ。


 男は誓った。この命を、この一生を、このチャンスを、全てを賭けて世界に報いると。



 ——天地創造何するものぞ。我が力に屈服せよ、蛆虫ごみども。

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