11.待つ人たち
ノハの家の前ではルカ、ナミ、そして怪我をしていてバケツリレーに参加できなかったナックがバケツリレー隊を見守っていた。少しずつ森へと道が出来ていっているけれど、まだまだ道のりは遠い。
「ララが来たら、一度休憩しましょう」
ナックとララの父ザザは朝早く、沢山の食料を持って、ナックの様子を見舞いに来た。一度戻り、ナックの母のエマたちが作った料理をもって再びかけつけることになっている。
一度家の中に戻ろうとした時だった。突然、馬が雪の壁を乗り越え、現れた。ジョンの「ノハ」という声に続き、ノハの大絶叫が響き渡った。
こげ茶色の馬はジョンたちが作った道を走り抜け、ナックを目掛けてわき目もふらずに走ってくる。ルカは慌ててナミを抱き、背を向けた。馬はナックの前で急停止、雪のしぶきが三人の身体に強めに当たった。
プシュー
馬は鼻を鳴らすと、ナックの顔の前に頭を下げた。ノハはゆっくりと少し顔を上げる。
「た、だ、い、ま」
吐き出すように伝えると、そのまま目をまわしてナンナのタテガミの中に埋もれていった。
「ノハ」
三人の声が重なった。ルカが近寄ろうとするとナンナは顔を横に振り追い払おうとする。代わりにナックがおそるおそる馬に触れた。すると、ナンナはその場にしゃがみ込んで大人しくなった。
「ノハ、ノハ」
ナックは手と胴に巻き付いたつるを取ろうとしたが素手ではとても硬くて取れない。
「おばさん、ノハ呼吸しているけど、気を失っているみたいだ。つるを切るはさみを持ってきて欲しい」
「うん、わかったわ」
ルカは、ナミをおろすと、大慌てで家にはさみを取りに戻っていった。
バケツリレー隊が戻ってくる頃、ナックはつるを切り、ノハを馬の背から引きはがし、ルカに渡していた。ジョンはノハの容態を確認すると「大丈夫」というように大きくルカに頷いた。ルカはぱっと笑顔になって急いで家へ戻っていく。ジョンは協力してくれたみなを見まわし、口を開いた。
「みんな、今日はノハのために力を貸してくれてありがとう。ノハはくたびれているようだが、ゆっくり休ませれば大丈夫だろう」
みんなは口々に「良かった」、「良かった」とノハの
ノハは安静が必要で、ノハの両親もノハについていなければならないため、ナックの家に場所を移し、捜索に参加した人たちのご苦労さん会を行うことになった。
ナックの家はナックの母と祖母が外国からニザの国へお嫁入りしてきている。そのため、家のつくりに外国の様式をふんだんに取り入れていた。門や玄関、建物の外観や、部屋の内装などニザの国の標準的な建築様式であるニザミモを使った丸太小屋とはかなり
「リッチな旅行者の気分になるな」
「ここは本当にニザの国か!」
「夢の国にいるようだ」
口々に感嘆の声を上げ、あちらこちら見渡している。ロールは門や玄関までなら何度か来たことはあったけれど、部屋に入るのはこの日が初めてだった。ステンドグラスの窓から赤や緑の光がもれている。
招待客全員入ってもまだ余裕がある部屋には大きな大理石のテーブルがあり、そこに次々とお料理が並べられていった。昨夜の晩から大鍋で煮込んだ牛すじのシチュー、薄く切ったバゲット、サラダ、果実いりタルトなど。大人にはアルコール、十五歳以下はレモネードが配られた。
ふっくらとした背もたれがついているのに、バケツリレー隊は高級感あふれる椅子に緊張し、姿勢を正して、浅く腰かけていた。それぞれが座った所で、ザザが、音頭を取る。
「ノハが生きて戻ってきたことを祝い、一刻も早く回復することを願い、そしてノハの救出にみんなが協力し合えたことに感謝し、乾杯しよう」
「乾杯」
カップを高く上げ、それを顔の高さまで戻しカップを前に少し傾ける。ニザの国の作法で乾杯をした。
「さあ、遠慮なく食べてくれ。妻のエマ、娘のリナ、ララの作った料理は格別だ」
バケツリレー隊は、一口食べては「うまい」「うまい」の大絶賛。力仕事の後で、アルコールの回りも早いのか、緊張感はすぐに取れ、歌ったり、踊ったりの大盛り上がりになった。
ロールは牛すじシチューのお代わりを運んできてくれたララに声をかけた。
「こんなにおいしい料理を食べたの初めてだよ。ララも一緒に作ったんだね」
「私はニンジンとお肉を少し切っただけ。牛すじのお肉はロールのところのものよ。素材が良いのよ」
ララは少し照れながらうつむき加減に答えた。ララはいつも遠くから見ているロールと直接話をして、心臓の音がバクンバクンとうるさい。ロールはこの日を境にララのことが頭から離れなくなってしまった。
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