創作テレビドラマ部門原作『包み隠さず』

神田 真

包み隠さず

テレビドラマ脚本『包み隠さず』

主要登場人物 

相沢 小夜 新聞部、ジャーナリスト魂がある面倒なタイプ

伊岡 玲 生徒会長、陰で気に食わない人をいじめて不登校にさせている

宇佐 立花 いじめられていた人、周りの目が怖くて本当のことを言えないタイプ


相沢がカメラを持って、靴を履き準備している

「部長!今日もネタ探ししてきますね!」 

「はい、いってらっしゃーい」


外をデジカメを持ってネタを探しながら外を歩いている

「んー、なにか面白いことないかなー」

もう人が帰った校舎から笑い声が聞こえた

「なんだろう?コレはネタの予感!」


笑い声がした教室をこっそり見る

「あれは…生徒会長の伊岡玲さんと宇佐立花さん?」

誰もいなくなった教室の隅で二人が話している

だけど様子がおかしい

宇佐さんはずっとうつむいているし、今日の伊岡さんは普段とは考えられない高圧的な態度で宇佐さんに向けて喋っている


すると突然 ドンッと伊岡が宇佐を突き飛ばした

そのまま壁に強くぶつかる宇佐

伊岡は謝ることもせず可笑しそうに笑っている

「これっていじめの現場だよね…証拠撮らなきゃ…」

息を殺しながらデジカメで写真を撮ろうとする

シャッターを押すとフラッシュを焚いてしまった

即座に反応する伊岡

「誰?」

教室の外を見るが、誰もいない

「………まあいいわ。それじゃ宇佐さん、明日も来るなら、また明日」

教室にひとり、宇佐が残っていた

そこに、先ほどまで隠れていた相沢が出てきて聞く

「宇佐さん、私、新聞部の相沢小夜って言うんですけど……さっきの会話って、馴れ合いとかじゃないですよね?」

宇佐は相沢の格好を見て、本当に新聞部だとわかると、その問いに、逡巡し、小さく、

「助けてください」

とだけ答えた

「やっぱり、いじめなんですね!?」

相沢は、詳しく事情を聞くことにした


あくる朝、相沢は徹夜で仕上げた新聞の原稿を部長に見せた。

「これは、由々しき事態です。生徒会長がいじめを長期的にしています。これは全校に知らせるべきです」

部長は一瞥して、

「いや、この原稿は出せない」

「なんでですか!?」

「部員が二人しかいない新聞部は、本来ならもうすでに廃部だ。だが生徒会長が自分の支持率のために生徒会長の印象の良い記事を書くことを条件に生かされてるんだ」

「だからって、こんな悪事を見過ごせっていうんですか?!自分の身がかわいいから、黙ってろっていうんですか!?」

「お前も、このまま新聞を書き続けていたいだろ?」

「それでもっ!」

「この話は終わりだ。別の原稿を出せ」

そう一方的に部長は話を切り上げると、部室を出てしまった

「そんなこと……できるわけないでしょ!私達が言わなきゃ、誰が言うんですか!」

相沢の叫びは、どこにも届かなかった


次の日、相沢は資料室にいた。今までにも生徒会長によって被害を負った生徒がいないか調べるためだ

様々な議事録、報告書を見る。

「生徒会長と仲の悪かった演芸部や演劇部にひどい嫌がらせ……演劇部員の一部は不登校、演芸部は廃部に……やっぱり、今までにも事件を起こしているんだ。しかももみ消している!きっとただ目障りだったというだけで!これはもう、すぐにでも誰かに告発しなきゃ!」

相沢は、愛用している手帳に情報を書き込むと席を立った。


職員室に向かおうと走る相沢

すると

「痛てっ」

と男子生徒にぶつかった

男子生徒は、「すみません」と言って去ってしまった

気を取り直して職員室で先生を呼び出す相沢

「先生!伊岡は長期に渡りいじめをしています!」

「そんな証拠なしに言われても……簡単には信じられないなぁ」

「証拠ならあります!この手帳に書いた内容がそうです!」

胸ポケットから先ほど資料をまとめた手帳を見せる

「………お前の顔写真じゃないのか?」

「何を言っているんですか?そんなわけ……」

相沢はそう言いながら手帳を確認して仰天した。

確かに胸ポケットに入れていた命より大事な取材手帳が、今は自分の生徒手帳に入れ替わっている。

「え!?そんな!なんで!?」と、身体中を探すがどこにもない

「からかっているならやめてくれないかね。私も忙しいんだ」そういって教頭は自分の机へ戻ってしまった

閉じられた職員室の扉の前で相沢は呆然と考える

「盗まれたんだ。あのぶつかった瞬間に」


相沢が職員室に行く少し前、生徒会長の伊岡は書類を生徒会室で処理していた。

するとそこに先ほど相沢にぶつかった男子生徒がやってきた

ニヤニヤと、『してやった』という顔で相沢の取材手帳をだす

「会長、頼まれていたやつです」

伊岡は中身をひととおり確認してから、微笑んで

「ありがとう。でもごめんなさいね。実はこの資料、もう必要なくなってしまったの。でも重要な情報が書かれているから、ビリビリに破いてもう二度と見れないようにして捨てていただけないかしら?」と聞いた

男も笑って

「わかりました。会長」と言って、手帳をもって生徒会室を出た

生徒会室には可笑しそうに笑う伊岡だけが居た。


相沢は計画を破綻させられた悔しさに、部室の机を叩いて言った。

「誰かに頼っても揉み消されたり、邪魔されたり、もうだめだ!こうなったら自分で発信するしかない!」


さらに次の日、普段通り、取り巻きを従えて登校してきた伊岡は校内の異常に目を疑った

校内の至る所に新聞が貼り出されている

さらに学校中の生徒の手にも同様に新聞が握られている

見出しには

『衝撃!生徒会長がいじめ』

と大きく記載され、隠し撮った写真や、宇佐の告白などが書かれている

「…なに?これ」

伊岡を見つけた生徒達が駆け寄ってくる

「伊岡会長!なんですかこれ?!嘘ですよね!?」

「放送部なんですが、この件は本当なのでしょうか?!」

伊岡はみじろぐこともなく

「ええ、嘘よ。こんな写真、今なら簡単に捏造できるわ。おおかた、話題を欲しがった新聞部が起こしたただのデマよ。それに、宇佐さんなら私のお友達の一人ですから。話を聞いてみましょうか。」

全員が宇佐の方に向く

「どうなの?!」「どうなんですか!?」

皆が口々に聞くと、宇佐はしどろもどろ

「えっと…その……」

そこに伊岡が

「宇佐さん、嘘よね?だって私達、とっても仲良しですもんね?」と貼り付けたような笑みを浮かべて聞く。

「つっ……はい……」

伊岡に対する恐怖を顔に浮かべた宇佐は、同意せざるを得なかった

騒動を期待していた生徒や、カメラを構えた放送部が一様に落胆した

「なーんだ」「戻ろ戻ろ」「嘘書きやがって…」


なおも新聞を貼っていた相沢の元に部長が走ってきた

「お前何やってるんだ!」

「見ての通り事実を書いた新聞を貼ってます」

「何が事実だ!宇佐本人が否定したぞ!」

「えっ……嘘っ。そんな馬鹿な……」

手に持っていた新聞を取り落とす

するとそこに生徒会が新聞剥がしを任せた伊岡がやってきた

「貴女がこの新聞を書いた相沢小夜さん?だめよ、いくら話題がほしいからって嘘なんか書いちゃ。新聞部、虚偽の記事を書いたとして、一月の活動禁止を命じます。それまでにちゃんとしていいことを学びなさい」


数日後、相沢は普段使っていない特別棟の未使用教室に呼び出されていた

目の前にいるのは人前で見せる笑みをたたえた顔ではなく、剣呑な、宇佐を突き飛ばしたときと同じ顔をした伊岡。

それに取り巻きが周囲を見張っている。

乾いた音。頬に残る鋭い痛み。平手打ちをされた。

「やってくれたわね、相沢さんとかいったかしら。貴女が起こした騒動のせいで、今でも私のことを疑う人がいるのよ。一体、揉み消すのにどれだけの労力を払ったかしら。本当に面倒」

「自業自得でしょ、それに、今までにもこうやって目障りな人間を学校に来させないようにしてきたのはもう分かってる」

相沢は今まで調べてきた資料を伊岡に叩きつける

そこには同様の理由で今まで辞めた生徒の記録がずらりと載っている。そして全て、生徒会の仲介や進言が入っていることも、そこには載っている

「………よく調べたのね。確かに、今までもそんな手続きの手伝いをしたのは覚えてるわ〜でも、そんなことはもう誰も言わない。来なくなった子達も、私が怖くて言わない」

「私は言う。逃げたりなんかしない。」

「いいえ、貴女に残された道は二つよ。このまま黙って高校生活を終えるか、今までの子のように学校を辞めるか」

「残された道?それをお前は決める権利があるのか?お前一体、何様なんだ」

「何様?」

伊岡は嘲笑し、

「いいわ。忘れないようにしっかり教えてあげる。この学校のみんなに愛される生徒会長で、学校とも懇意にしている大会社の社長令嬢、伊岡玲様よ」

名前を高らかに言った瞬間、名前が二重に聞こえた。放送だ。

伊岡は異変に気づく

「貴女、何をしたの!?」

珍しく慌てふためく伊岡をみて、相沢は笑いを殺しきれず、ついには声に出して笑った。

「答えなさいっ!」

「この会話の一部始終を校内に放送させてもらった」

そして襟元についていたマイクを口元に近づけると、

「放送部!よく聞こえてる?」

返答は学校中のスピーカーから聞こえた

「ああ、もちろん!最初から最後まで全部綺麗に聞こえたよ!」


少し、時間は遡る

活動禁止中の相沢は放送部室にいた

「いい?きっと伊岡はもう一度、私に接触してくる。それも、私を排除するためにくる。そこで、君たち放送部の力を借りたい」

「でも、一体何をするんだ?」

「放送を使って、全校生徒、職員全員に知らしめるのよ!」

放送部部長は聞く、

「でも、あの件は嘘なんじゃ……?」

「嘘じゃない。私は嘘を言わない。でも信じてもらうしか今はない。それに、そんなに疑うなら、この行動こそが証明になるわよ!本人によるリアルタイムの証言。これ以上に証拠になるものはないでしょ!」

「確かに……でも……」

「それに、生徒会長が変わるとなれば、とても良い話題になる、面白い番組を作れると思うよ」

放送部部長は少し笑って

「……そうだな、それなら、協力しよう」


そして今、その作戦は成功した

ざわざわとどよめく教室。ぱらぱらと生徒が、伊岡と相沢がどこにいるのか探すために廊下に出てきている

そして見つけて、二人を囲む。生徒会が阻もうとするが虚しく、人の流れは止まらない

「本当だったんだ…」「サイテー」

口々に軽蔑の言葉を吐く生徒、一転した状況に再び伊岡は戸惑った

「そんな……みんな騙されないで!これは罠よ!」

と言うが、今更それを信じる者はいない

そして放送で

「3年生の伊岡、至急校長室へ来なさい」

と言われ逃げようとしたが、風紀委員に腕を掴まれ、捨て台詞を吐きながら連れて行かれた

後には未だ興奮する生徒と、満足そうな相沢が居た


後日、いじめを隠蔽していた生徒会は解散、また関連していた部活動上層部や教師も失脚にするという発表がされた。

解散決議の様子は、校内新聞の一面を飾った。

ことの原因である伊岡は、生徒会解散のすぐ後に、転校することが決まった。


「生徒会はもともと全く支持されてなくて、伊岡が就任した頃は学校中がバラバラだったらしい」

「つまり学校をまとめるために、人の弱みを握ったり、反抗する人に対していじめを行っていたっていうの?」

「伊岡なりにたくさん悩んでだした結果があれになってしまったんだろうね」

「つぎは、何を記事にするの?」

あの件から仲良くなった宇佐が一緒に帰る帰り道、相沢に聞く

「生徒会が一年生のみで構成されたのと、その生徒会長に密着して取材するつもり」

「でも、また生徒会長が悪い人だったら?」

未だに生徒会という存在が怖い宇佐が聞く

「それでも、私は書くよ。だって私、いや私達には情報を包み隠さず発信する権利と、………その義務があるから!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

創作テレビドラマ部門原作『包み隠さず』 神田 真 @wakana0624

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る