この空の下を旅する全ての鳥のための歌。

音佐りんご。

第零場。プロローグ。

  暗闇の中、重い金属を幾つも転がすような音が遠く響いている。

  また、時計のような音、定期的な蒸気の噴出音。

  ぼんやりと舞台が薄明るくなる。

  一枚の紙を手に、少女アウローラが立っている。


アウローラ:地を這う者は時に空を見上げ、手を伸ばしては、やがて憧れるあの空を飛びたいと願うもの。願いとは良い言葉だと思います。それは如何にも人間的で。しかし私はそれを諦めた。いつしか人は落ちると知っていたから。そう察することが果たして利口なのか。(紙を折り始める)人ならざる私には分かりかねますが、そうですね、人々は皆、口々に言うのでしょう。そうだ。いや、そうじゃないと。意見が分かれることも面白いと思います。如何にも人間的で。しかし私に言わせればどちらも同じこと、です。まぁ、彼らは私に何かを言わせてはくれませんが。それでも、多くの人間は言うだけでしょうか。口にするだけに留まり、思考は思考の鳥籠を出ることはありません。それは如何にも、人間的ですね。


アウローラ:けれども時には、そこを抜け両手を翼に転じたかと思えば、一息に風に躍り出る。そういった者が現れることもあるのでしょう。けれど現実という重力の強制を前にすれば、その努力は如何にも無力でしょうね。必要なのは揚力、確固たる物理現象ですから。そして惜しくも湿った鋼鉄の地面に誘われることは星の巡りよりも明らかでしょうね。しかしそれは無駄ではありません。仮に一つ瞬く間でも、それに抗えたのなら、何かしらの価値を見出すことは可能。もしかするとそうした者の意志の積み重ねが、今の世界を作っているのかも知れませんね。


アウローラ:では果たして、今の世界を作る切っ掛けとなった願いとは、誰のものなのでしょうか。私を産みだした人間の願いとは? それを知る者はいません。それを解き明かそうとする者が居たとすれば、私は賞賛しますよ。それは如何にも人間的ですね、と。ええ、心より。ここにありもしない心より、私は賞賛を贈りますとも。それでは、物語の始まり始まり。

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