魔法少女、死して尚

やどくが

第1章 転換期

プロローグ

 遠い、遠い昔のこと。あるいは昨日のように、つい最近のこと。

 わたしが今の世界に生を受ける、その一つ前の記憶。




 そこでわたしは、『魔法少女』として生きていた。


 愛と希望を魔法に変えて、街を襲う悪魔から人々を守る。それが『魔法少女』としての使命。一緒に戦う仲間はいなかったけど、わたしを信頼して、いつも応援と感謝をくれる街の人たちならいた。

 みんながわたしに希望を託してくれるから、いくらでも悪魔と戦えるんだって、そう信じてやまなかった。





 ……だけど、希望なんて儚いもので。最後には、全部壊れてしまっていた。



 きっかけは、一人の街の人の声だったと思う。

 その日やって来た悪魔は、いつになく強力だった。どんどん追い詰められていくわたしを見て、その人は声を上げた。焦ったように、失望したように。その声は、やがて他の人たちにも伝播していき、いつしかみんなは一つになって叫んでいた。




――『役立たず』、と。




(……どうして、そんなこというの)


 いつだったか、魔法少女になって間もないころ、街の人は『いてくれるだけで明るい気持ちになるよ』って、言ってくれた。それまで一度も言われたことすらなかった言葉だ。

 嬉しかった。こんな自分にも、存在する意味があるんだって。だから、そう言ってくれた、優しいみんなに恩返しがしたくって、今までずっと、悪魔と戦ってきたのに…………。



(みんな、噓をついていたの?ずっと?)



 叫ぶ人たちの視線には、見覚えがあった。お母さんや、クラスメイトの子たちと同じ、“不良品”をみる目だ。



(みんな、わたしのことを“都合のいい道具”としてしか思っていなかった?)



 噓だ、そんなはずない。街の人たちは、『いるだけでいいよ』って、言ってくれた。それぐらい優しい人たちだ。だから、そんなこと、言うはずない、のに。

 噓だ、噓だ、噓だ、うそだ、うそだ、うそだうそだうそだうそだ、――――




 それから先のことは、よく覚えていない。ただ、明らかによくない感情がこみ上げてきたのは覚えている。わたしは、自身を満たしていくどす黒い衝動を抑えることもできず、魔法のステッキを、そのまま、





 気づいたときには、みんな、静まり返っていた。みんな、わたしの足元に倒れて、真っ赤に濡れていた。

 その光景が一体何を意味するのか、全て理解してしまった時、視界がぐらりと揺れたのを覚えている。



 ……ああ、ああ、わたしは、なんてことをしてしまったのだろう。どうして、止められなかったのだろう。


 襲いかかる濁流のような罪悪感に襲われ、その場に座り込んだ。


 わたしは、みんなを守る魔法少女じゃなかったのか。優しかったみんなに、わたしに希望を与えてくれたみんなに、恩返しがしたかったんじゃないのか。

 いくらあの人たちがひどいことを言ったからって、こんなのはやりすぎじゃないか。こんなのはあまりに惨いじゃないか。




 だって、みんな、みんな、顔が、頭が、首から上が、全部―――――

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